( ドアで魅せる家づくりのヒント集 )

( ドアで魅せる家づくりのヒント集 )VERITIS MAGAZINE

( interview )

快適に、安全に、猫も楽しめる

2023.06.15

interviewer / text
徳 瑠里香
photography
林 直幸

快適に、安全に、
猫も楽しめる

いしまるあきこさん

猫との住まいの専門家である一級建築士・猫シッターのいしまるあきこさん。住まい兼仕事場の「羽田ねこのいえ」で自ら保護した猫6匹と夫と暮らす。建築士と猫シッターの二つの視点をもって、「人も猫も安全で快適な住まい」を提案している。

いしまるさんは、パナソニックが提案する新商品、犬と猫と仲良く暮らす家づくり「わんにゃんSmile」を監修。そして今回、「わんにゃんSmile」の建材を使って、保護猫のためのスペースのリノベーションを手がけた。

どんな工夫が散りばめられているのか。リノベされた東京都大田区の保護猫スペースに足を運んだ。

住む家を失くした
猫たちのために

──そもそもこの保護猫スペースはどんな場所なのか、教えていただけますか。

いしまる: 私は3年ほど前に江戸川区から大田区へ引っ越してきたのですが、昨年2022年1月に近所の方から猫に関する相談を受けました。近所の一人暮らしの高齢者の方が亡くなられて、数日後にその方の家が解体されるけれど、そこで暮らす猫さんたちの行き場がないということでした。親戚の方も高齢で猫たちを引き取ることができないというので、解体工事が始まる前後で4匹の猫さんたちを保護しようということになりました。

ですが、住まい兼仕事場の「羽田ねこのいえ」にはうちの6匹の猫さんたちがいますし、小さな家なので保護猫さんたちを受け入れられる場所がありません。そこで、近所で保護犬猫活動をしている方に相談したら、「猫たちのために、この場所を使ってください」と空き店舗を貸してくれることになり、保護することができました。

4匹の保護猫たちは大人の猫さんたちばかりなので、里親探しも時間がかかりそうだと考えました。寒い時期に保護したので、まず、電気を契約して持ち込んだオイルヒーターとそこにあった古いエアコンで暖かい部屋にすることから始めました。私や夫が1日2回はお世話に来て、同時に里親さん探しをしています。そのうち2匹のキジ白・大ちゃんと茶トラ・とらちゃんは早いタイミングで里親さんが決まりました。とらちゃんは、パナソニックさんが開催した2022年4月の保護犬猫譲渡会がきっかけとなって里親さんが見つかりました。

キジ白・つばさくんは残念なことに2023年3月3日に亡くなりました。保護したときからガリガリで看取りも覚悟していたのですが、お世話するうちに毛並みも良くなって、歯の治療もして食欲もでてきて元気になってきたので、保護してから1年経っていましたが、あと数年はお世話できると思っていました。もともと腎臓が弱っていましたが、3月に急激に弱って介護する間もなく逝ってしまいました。お骨はこの保護猫スペースに置いてあります。残りの1匹の茶白・茶々ちゃんは現在もここで暮らしていて、里親さんを募集しています。その間、近所で子育てをしていた母猫のムギワラ・むぎちゃんを保護して、しばらく3匹で仲良く過ごしていました。むぎちゃんは2022年末から里親さん宅でトライアルが始まり、今年3月に正式譲渡になりました。

ここしばらく茶々ちゃん1匹でしたが、3日前に北関東で飼い主と暮らせなくなって家を失う猫さんが5匹いると連絡があって、ちょうど昨日(2023年5月11日)、5匹がこの保護猫スペースにやってきました。現在6匹の保護猫がここで暮らしています。

──住む家を失った猫さんたちを守るために、この場所が生まれたんですね。そして今回、わんにゃんSmileの建材を使ってリノベーションされた。

いしまる: この建物は築56年で、室内はリフォームされていたのですが、事務所か何かの居抜きでしたが土足で使用されていて、きれいな状態とは言えませんでした。奥の和室の窓ガラスは割れていたので、猫さんたちが脱走しないように扉を固定して和室は使わないようにしていました。昨年12月頃、まだ、つばさくん、むぎちゃん、茶々ちゃんの3匹の猫さんたちが保護猫スペースで仲良く過ごしていた頃に、監修した「わんにゃんSmile」の建材モニターのお話があり、保護猫スペースを快適にするために自らの設計・施工で4月に少しずつリノベーションの作業をしました。

脱走対策に役立つ
二重ドアと握り玉

──今回のリノベーションのポイントは、どんなところにあるのでしょう?

いしまる: まず、玄関周りの脱走対策にドアを二重にしています。道に面して店舗用のガラス引戸があるのですが、入退室のときに猫さんたちが脱走してしまう可能性もありますし、前を通る人との距離がとても近いので、脱走対策と猫さん側の安全のために玄関とメインスペースの間に、採光ドア(VERITIS Craft Label MD型)の開き戸を設置しました。ガラス部分から猫さんたちの姿がよく見えるドアです。

開き戸の場合、レバーハンドルだと猫さんが手をかけて開けてしまうので、ドアノブは猫さんたちに開けられない丸い握り玉(B1型)にしています。

以前は、入口の店舗用ガラス引戸の近くにキャットタワーを置いていたので、猫さんたちがそこからお外をよく見ていました。外を通る方々からも眺めてもらえたのですが、とにかく距離が近すぎて……。猫を好きな方ばかりではありませんし、何かのはずみでガラスが割れたら怖いと思うようになりました。怖がりの茶々ちゃんなどは、窓に近寄るのを躊躇していることもありました。猫さんたちが安全に外を眺められるように、カウンターと室内窓を組み合わせて、脱走対策をしながらお外も眺められるようにしています。

玄関側の室内窓3段のうち、中段と上段はモールガラスを選びました。モールガラスはガラスが凸凹していて中が見えにくいので外と中の人は目線が合わないのですが、下段の透明なガラスは猫さんと外にいる人は目が合うようにしています。

「猫さんがいる!」と外を通る方も中にいる保護猫さんたちに気付いてくれますし、猫さんたちもお外をよく眺めています。保護猫さんたちの実際の姿を見てもらうと、里親さんとの良い出会いも生まれます。私がお世話にきたときも窓やドアのガラスごしに、こちらをじっと見てお迎えしてくれます。

──メインスペースには、インテリアカウンターを活用したキャットウォーク・ステップもありますね。

いしまる: 頭数が増えれば増えるほど、キャットウォーク・ステップは使われるようになります。ここでは、最上段で眠る子もいますし、遊んでいる子もいます。インテリアカウンターに通り抜け穴があるので、家になじみやすいキャットウォーク・ステップをつくることができますし、インテリアカウンターに方立を組み合わせて棚としても活用しつつ、猫さんも使いやすいステップになっています。

壁に通り抜け穴を二ヶ所設けていて、和室のキャットウォーク・ステップにもつなげています。

猫が映える、
ブルーグレーオーク柄のペットドア

──封鎖していた和室もリノベ後は活用されているのですね。

いしまる: はい。畳の表替えがされていてきれいだったので活かして、和室でも猫さんたちが過ごせるようにしました。私が保護する猫さんたちは、かつて人と暮らしていた子たちが多いので、ケージだけではなく、できるだけ家のように自由に過ごしてもらいたいと思っています。このような猫カフェ形式のシェルターはアメリカでも増えていて、里親さんの家に慣れやすいという効果があるそうです。保護猫のためのスペースですが、人も一緒に暮らしている家のような雰囲気を意識しています。

建物の大家さんでもある保護犬猫団体の方には、中を自由にして構わない、和室側も合わせて広く使ったら?と言ってもらえました。建った当初はふすまが入っていてその後のリフォームで間仕切り壁だったところを、和室側にキャットウォークのインテリアカウンターと室内窓を設けて、インテリアカウンターを机代わりに人が作業をしたり、和室側からメインスペース側を眺めたり、人も猫も一緒に使えるようにしました。こちらの室内窓は3段すべてが透明なガラスですが、上段だけ開けて換気できるものを選択しました。

Standard Label TA型 くぐり戸対応 ※明かり窓を外しております

──いしまるさんが大事にされている、人も猫もともに快適に暮らすための工夫がこのスペースにもあるのですね。和室には、引戸のペットドアが導入されています。

いしまる: 引戸のペットドアをつくっているメーカーさんはほとんど無かったので、猫さんが通ることができるように引戸を少しだけ開けているご家庭が多かったと思います。今回わんにゃんSmileでパナソニックさんに新しく引戸のペットドアをつくってもらえました。

ここでは、和室から廊下を通ってメインスペースにつながるドアを省スペースのため引戸にして、猫さんが自由に行き来できるようにくぐり戸のあるペットドアを採用しました。

リフォーム中はくぐり戸の、のれん部分を外して少しずつ慣れてもらい、今はくぐり戸を使えるようになりました。引戸のくぐり戸部分には下にも横にも枠がないので、猫さんがくぐり戸を通っている間に人が戸を開け閉めしてしまっても、猫さんが挟まる事故が起きにくいつくりになっています。ソフトクローズで勢いよく閉まらない仕様になっているのも安心です。

──ブルーグレーオーク柄のドア本体に黒い枠を組み合わせているのも新鮮です。どんな意図があるのでしょう?

いしまる: 扉本体にブルーグレーオーク柄を選んだのは、猫毛にはない青系の色が背景だと猫さんたちが映えるからです。キャットウォーク・ステップの背景もブルーにしていて、白色のしっくいの上に珪藻土に顔料を混ぜたもので塗っています。

扉本体と扉の枠の色を変えられることを「わんにゃんSmile」監修時に知る機会がありました。私が猫との住まいで設計や施工をするとき、壁は爪とぎにも強く消臭効果が高いしっくいを使うことが多いのですが、室内窓の色は白か黒のいずれかで、しっくいの白い壁に白い枠ではやわらかすぎるので、室内窓は黒色を選びました。そこから、室内窓を含めてドアや猫さんの通り抜け穴などの枠は黒で統一しました。ここでは、猫も人も同じように黒い枠を通り抜けて出入りします。

猫と人が共に快適に
安心して暮らすために

──ほかに意識して取り入れた工夫はありますか?

いしまる: あとは床ですね。わんにゃんSmileの木質系フローリング(ベリティスフロアーS 滑り配慮仕様)と1.5㎜厚上貼りリフォームフローリング「USUI-TA(ウスイータ)滑り配慮仕様」を使っています。

わんにゃんSmileのフローリングは、基本的に小型犬の滑り配慮ですが、一般的なフローリングより滑りにくいので、元気に走り回る猫さんにはおすすめです。私が裸足や靴下で歩いていても、滑りにくさを感じます。汚れにも強いので、よく吐いてしまう子や粗相する子、水やごはんをこぼしやすい子がいても、汚れが落ちやすいです。保護猫さんたちは元気な子が多いので、お世話にくると床が汚れていることが多いのですが、軽く拭き取ってすぐにきれいになります。ちなみに、床の色は黒猫やキジトラなどの毛色が暗めな猫さんたちや明るい毛色の白猫も映えるように、5つの色柄の中から明るいメープル柄を選びました。

1.5mm厚のリフォーム用「USUI-TA(ウスイータ)滑り配慮仕様」は、カッターでカットができ、加工時のうるさい音を発生させずに施工できるので、犬さん猫さんがいる家のリフォームにとても向いています。今回はフローリング張りの廊下の上に貼って使用しています。こちらもフローリングと同じメープル柄で合わせました。

──猫のことを想い、猫に詳しいいしまるさんだからこその工夫が細部にまで散りばめられていますね。わんにゃんSmileを導入する際のアドバイスはありますか?

いしまる: たとえば、キャットウォークやステップなども、猫さんの性格や猫種によって向き不向きもありますし、そこで暮らしている頭数、猫同士の関係性によって変わってきます。ドアも猫さんに合わせた選び方、うまい使い方などもあります。そのあたりを踏まえて、最適なものを選んでいただきたいので、わんにゃんSmileのパンフレットに、「猫と犬と人が共に快適に暮らす」という視点で、考え方から空間づくりのポイントまで詳しく書いています。ぜひ、そちらを見て、ご自身のライフスタイルや住まいに合うものを選んでいただけたらと思います。

──最後に、リノベーションされたこの場所をこうやって活用したいといった、今後の展望があれば教えていただけますか。

いしまる: もともと4匹の保護猫さんの里親を見つけるまでの仮のスペースとして始まり、建材モニターの話しをいただいたときにいた3匹の保護猫さんたちのために、より良い環境にしようと考えたリノベーションでした。トライアルが始まってムギワラ・むぎちゃんが卒業し、リノベーション工事が本格的になる前にキジ白・つばさくんが亡くなってあまりにも突然のことで落ち込みましたし、残り1匹の茶白・茶々ちゃんだけになって、誰のためにリノベーションするのか正直悩みました。

江戸川区に住んでいたときにも、保護猫のための部屋を義両親宅に一部屋確保して保護猫活動を細々と行っていました。高齢者の方が施設に移るタイミングで行き場をなくした老猫を引き取って2年半そこで暮らしてもらい看取ったこともあり、いつかは保護猫シェルターや老猫ホームなどもできたらいいな、猫シッター先でも相談を受ける機会が増えて「ペット後見」も必要だなと勉強し始めていたこともあり、今後はここを保護猫さんたちのための場所として運営できたらと思うようになりました。

今回、リノベーションを行ってすぐに、「保護猫を引き取れませんか?」と相談を受けました。しばらく茶々ちゃん1匹だけでしたが、5匹の保護猫家族がやってきたので、一気ににぎやかになりました。仮の住まいですが、ここがあったおかげで、いまは猫たちが元気にのびのびと過ごせています。今後も住む家を失った猫さんたちの家として存在していけたら良いなと思っています。

目の前にいる、行き場を失くした猫のために居場所をつくる。そしてその場所を起点に、成猫や老猫など、里親さんが見つかりにくい猫のための居場所づくりを思い描く。猫を知り、猫を想ういしまるさんが設計・施工した保護猫のためのスペースには、人と猫が心地よく共存するための工夫がたくさんあった。そんないしまるさんが監修した「わんにゃんSmile」を、ご自身のライフスタイルや一緒に暮らす猫の性格を踏まえて取り入れれば、きっと、人も猫も快適な住まいが叶うはず。

わんにゃんSmile
人もいぬ・ねこも、家族みんなが快適に暮らせる空間づくりを。パナソニックでは、いぬ・ねこの毎日に負担の少ない快適な商品をご用意。高いコーディネイト性も魅力です。
https://sumai.panasonic.jp/interior/wan-nyan/

設計・施工:一級建築士事務所ねこのいえ設計室

いしまるあきこさん

一級建築士・猫シッター。住まい兼仕事場「羽田ねこのいえ」で自ら保護した6匹の猫たちと夫と暮らす。代表を務める一級建築士事務所ねこのいえ設計室では、建築士の視点で猫と犬との住まいの設計・アドバイスと小規模リフォームの施工も。猫と犬の行動や習性をふまえ、人と猫と犬がバランスよく快適で安全に暮らせる住まいを提案している。http://nekonoie.tokyo

いしまるさんが保護している猫たちの里親募集情報はこちら
https://www.pet-home.jp/member/user504059/post/