( interview )

2023年の夏、島根県松江市に誕生した、愛猫と過ごせる民泊施設「nyans(ニャンズ)」。ここは、“猫と楽しむ家づくり”を提案するモデルハウスでもある。
山陰地方を中心に住まいづくりに伴走するハウジング・スタッフは、オーダー家具ブランドとタッグを組み、猫と子どもと大人、3者の目線で暮らしやすい家を考え尽くしてかたちにした。
ハウジング・スタッフの設計士兼インテリアコーディネーターの田中祥雄さんに、猫と楽しむ家づくりのこだわりを語ってもらった。
POINT
・猫、子ども、大人ー3つの用途を備えた階段家具
・メンテナンス性抜群!人と猫がいい距離を保てるドア
・立体的な猫導線が設計されたキャットウォーク
──ハウジング・スタッフさんが今回、猫と暮らす家づくりの提案をしようと思ったのはどうしてでしょう?
弊社社長の平儀野が猫好きなんです。幼い頃から猫と暮らし、今も3匹の猫を飼っていまして。社長は猫と人が快適に暮らせる家づくりブランドを立ち上げたいと思っていたんですね。そんな中、地元で猫に配慮した家具をつくっているウッドスタイルさんを知り、家具と組み合わせた提案をしたい、と。社長発案です。

──単発の民泊施設、モデルハウスをつくるのではなく、ブランド事業を立ち上げることがスタートラインだったんですね。
そうなんです。そもそも弊社は、住まいにまつわるすべてを解決できるようにしたいという想いでさまざまなブランド事業を展開しています。新築を設計する「クレバリーホーム」、建築家と家をつくる「R+ house」、ほかにもリフォーム・リノベーション、不動産事業や民泊事業もやっています。その中で今回、新しく猫に特化した「nyans」が生まれました。
当初はブランドの看板として、新築のモデルハウスをつくって販売していく予定でしたが、インバウンド需要が高まっていることから、民泊施設にしようと。社長の野望は、猫と過ごせる民泊施設としてフランチャイズ展開することなんです。
そこで、設計士でありながら、マーケティング部に所属しブランディングを担う私が担当することになりました。
3つの物語
──ブランドの広告塔であり、モデルハウスで民泊施設。要素が盛りだくさんですね!設計はどのように進めたのでしょう?
まず、猫のペルソナを設定しました。この家に住むのはどんな猫だろう?日本の長屋にいる「たま」とかではなく、ヨーロッパの石畳で暮らすような優雅な猫だろうと。設計士として、猫のペルソナを考えたのは初めて(笑)。猫の習性を調べ尽くしたので、スマホのAIは完全に僕が猫好きだと認識しています。
そのうえで猫だけでなく、人にとっても快適な家にしたい。ペルソナである猫の目線と、子どもの目線、大人の目線、3つの物語が交差するような着地点を模索して、かたちにしていきました。
──3つの物語が交差するとは、具体的にどういうことですか?
たとえば今回の物件では、LDKの中央にどーんっと階段があってその下に棚を設けています。ここは、子ども目線ではおもちゃやランドセルを置ける収納棚になる。大人目線では飾り棚やパントリー、ちょっとしたカウンターとしても使える。猫目線では、食事の場やキャットウォークになるんです。

──すごい!オープンラックでありキャットウォークでもあり、オブジェのようでもある。階段下が、定義が曖昧だからこそ多目的な場所になるんですね。
オーダー家具ブランドとタッグ組んでいるので、よくあるキャットウォークではないオリジナリティを持たせたくて。3者の目線の複合的な要素を組み合わせた着地点の一つです。
──この個性ある家具はほかで再現するのが難しそうです(笑)。
この階段は、この物件のオリジナリティではありますね(笑)。壁と床と建具は、フランチャイズ化する際の再現性もあり、猫と人にやさしいものを選びました。
壁は匂いの分解や湿度の調整ができて、猫が爪を立てないと言われている珪藻土の塗り壁に。床は傷つきにくいペット対応のフローリングに。かつ、滑り止めになるように、1階の床の一部に木の棒を差し込んで凹凸をつけています。既製品にひと工夫加えた「半既製品」のようなかたちですね。
建具はすべてパナソニックのVERITIS(ベリティス)を採用しています。

──ベリティスを選んだ理由は?
純粋に全メーカーを比べて「こんなことできますか?」という問いに対して、答えのバリエーションがいちばん豊富だったんです。
猫がドアを開けないように、開戸で、ドアノブは握り玉で、鍵が上下2箇所でかけられるものがほしかった。ベリティスはそのすべてに対応ができて、さらに表面シートが傷に強い。猫と人にとってこれ以上のドアはないと思います。

──リビングドアをガラス戸にしたのは?
玄関から人が帰ってきたときに、リビングドアに猫が駆け寄ってきたことに気づかずドアを開けて、ぶつかったり脱走してしまうことがあるんですね。衝突と脱走を防ぐために、玄関からリビングの様子がわかるガラス戸にしました。
実は、玄関とリビングのドアを電気配線でつないで、脱走防止に玄関ドアが閉まらないとリビングドアが開かない仕組みも構築したんです。残念ながら、消防の方との協議の末、実現はしなかったんですが……。パナソニックさんに相談したら、技術的にはできると言ってくれて。柔軟な対応がありがたかったです。
かたちに
──ほかにこだわった点はありますか?
いろいろあるんですが、テレビ台兼収納棚も立体的にしてキャットウォークとして使えるオリジナルの家具になります。家具一つとっても、猫の導線が緻密に設計されているんです。


ほかにもキッチンは猫が入ってこれないように囲いをつけました。扉はベリティスの枠を使って、ドア本体は造作。窓も既製品に黒いアルミの枠をつけました。これは、メンテナンスがしやすくフランチャイズ展開しやすい既製品を使いながらも、nyansのオリジナリティを出す工夫です。
あと、階段のディテールもこだわっていまして。工芸品のような階段をつくりたいと。踏み板の溝や先端に素材が違うウォールナットを組み込んで、安全のための視認性を高めています。

──公共スペースに取り入れてもいいようなアイデア!手すり部分も美しい。室内だけでなく、外観も印象的です。
個人的ないちばんのこだわりは外の看板で、「版築(はんちく)」という古代建築技術を採用しています。15年ほど前に感激していつか取り入れたいと思っていたんですが、できる職人さんと出会えなくて。今回改めて探したら、鳥取にいらしたので会いに行って、お願いしました。家の前を通る地域の子どもたちに日本の職人さんのすごさを見せたいという個人的な裏テーマもあって…。自慢の看板です。

猫と人。民泊施設とモデルハウス。オリジナリティと再現性。どちらかを優先すれば、どちらかが欠けてしまうような要素を、絶妙な塩梅で掛け合わせて「間」を実現した住まいのかたち。そこには、猫と人の快適な暮らしを追求するハウジング・スタッフの熱量と、設計とブランディングを兼務する田中さんの緻密な思考が隅々まで行き渡っている。
*記事内でご紹介した商品は、2024年10月1日時点の仕様となっております。
ご検討の際は、ショウルームやカタログ等でご確認ください。