京都市都市計画局 歩くまち京都推進室 大岸將志さん 山下多恵子さん 篠田翔吾さん
京都産業大学、パナソニック ハウジングソリューションズ株式会社、宅配事業者の皆様の全面的な御協力のもと、大きなトラブルもなく実験を終了できたことに大変感謝し、ほっとしています。それぞれの強みをいかし、「大学のまち・学生のまち」に着目した京都ならではの取組が実施でき、大変意義深かったと感じています。
実証実験により、宅配ボックスの設置が再配達の削減につながる、ということが定量的に確認でき、温室効果ガスの排出抑制や宅配業界の「働き方改革」期待が膨らみました。さらに、モニターへのアンケートから学生・職員の皆さんの時間の使い方や気持ちに余裕がうまれ、宅配便の到着を気にせずに勉学やクラブ活動に集中できることも分かり、とても興味深かったです。
京都産業大学の担当の方から、お子さんには内緒にしたいクリスマスプレゼントを大学の宅配ボックスで受けられた職員がいらっしゃった、という心温まるお話もうかがいました。わたしたちが当初、想定していた以上に幅広い活用が期待できる取組だと感じています。
便利で早いからと利用している宅配サービスを1回で受け取らないことで再配達というムダが生まれ、それが大きな環境負荷や労働環境の悪化につながっている問題を多くの学生に知ってもらえました。また、解決策の一つとして、宅配ボックスの利用を体験してもらい、「いいね」と感じてもらえたことが成果ではないかと思います。今後、「いいね」がもっと広がり、利用が増えるといいなと思います。また、宅配ボックスに限らず、時間帯指定受け取りやコンビニ受け取りなど、すでにある様々なサービスの中から、自分の生活にあったものを利用して再配達の削減に取り組んでいただき、環境にやさしいライフスタイルへの転換のきっかけとなればいいと思います。
「歩くまち・京都」の観点からは、「物流」(モノを必要なところに届ける)の機能を維持しながら、ムダに車両を走らせないまちに、一歩近づいたように感じます。これは、わたしたちが目指してきた「クルマに頼り過ぎない「歩くこと」を中心としたまちづくり」イメージに、また一歩近づくものです。
昔ながらの狭い路地が残る京都において、わたしたちの生活に必要不可欠な「物流」を維持しながら、「歩いて楽しいまち」を実現するためには、物流車両をどうやって整序化(整理・整頓)していくのか、ということが、京都市にとって、長年の課題でした。
このため、物流(宅配)事業者は、まちなかにも配送拠点を設けて、荷物を詰め替えることで車両数の削減や車両の小型化に取り組むなど、さまざまな努力を重ねてきました。この結果、例えば、四条通におけるトラックの交通量は、10年前に比べて半減するなど、大きく減っています。
しかし、そもそも物流問題を引き起こしているともいえる消費者の側はどうでしょうか?消費者が注文するから荷物が来る、一度で受け取れないから、何度も配達しなくてはいけない・・という、物流の「ムダ」に働きかけることで、消費者にとっても、物流事業者にとっても嬉しい状況を作り出せたということが、非常に大きな成果だと思います。
ともすると、わたしたちは、物流があり、モノが行きわたるのは当然だと考えがちで、そのありがたみに気付きませんが、快適で暮らしやすいまちを支える縁の下の力持ちともいえる物流問題を、消費者の側にも、考えていただくきっかけになったのではないかと感じています。
物流問題の解決には、消費者側、つまり、荷主(荷物を送ったり受け取ったりする人)の協力が欠かせません。そこで、今年度は、多くの人が集まる「まちなか」(京都市の市内中心部)の商店街を対象に、モビリティ・マネジメントの取組を実施しました。
モビリティ・マネジメントとは、一人ひとりのモビリティ(移動)が社会的にも、個人的にも、望ましい方向へ自発的に変化することを促す、コミュニケーション施策を中心とした交通施策のことです。
アンケート調査やワークショップを通じて、まちなか物流について考えていただくことで、みずからの行動を見直し、より望ましい方向に変わっていただくことを目指しています。
地域住民(マンションオーナー)の方から、「大変良い取組なので、ほかの大学周辺のマンションに対しても、同様の取組を広げてほしい」といったご意見がありました。
FMラジオで、この実験を紹介させていただく機会があり、リスナーから「実験の背景にある問題に共感します」や、「早速、宅配業者のサービスを利用しはじめました」というメッセージがあったことも教えていただきました。
また、同じ課題意識を持つ複数の自治体からプロジェクトについて問い合わせがあったほか、現地を視察された自治体もありました