リフォーム・リノベーションのヒント集

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2023/10/23

インタビュー 第1回
幸福学の研究者が考える「幸せを感じる住まい」

個人によって異なる「幸せ」の感じ方。それを認知科学や心理学を活用して幸せの基本メカニズムを解明しているのが、「幸福学」研究の第一人者で慶應義塾大学大学院の教授、前野 隆司さん。「部屋の中に視野の20%くらい緑があると幸せと感じやすい」など、具体的に取り入れやすい研究結果もあるそう。自ら経験したわが家のリフォームをきっかけに「幸せを感じる住まい」について知見を深めたという前野さんにお話をお聞きしました。

「幸福学」は、心の良い状態をめざす学問

―― 最近よく聞く「ウェルビーイング」と「幸福学」との違いは、どのようなものでしょうか?

「well-being(ウェルビーイング)」とは、Well(よい)とBeing(状態)が組み合わさった言葉で、体と心と社会の良い状態のことを言います。その中の心の良い状態をめざす学問が「幸福学」です。
研究では、情緒的に使われることの多い幸福を科学的に研究し、そのメカニズムを学問的に解明しています。また、モノやサービスを設計する時点で、人の幸せについても織り込むべきと考え、組織づくりや教育、地域づくりでも人の幸福を「人が幸せに感じる条件」を用いて設計時から取り込む研究も行っています。

幸せには、長続きするものとしないものがある

幸せには長続きしない幸せと長続きする幸せがあります。長続きしない幸せはお金やもの、地位など人と比べる「地位財」と言われるものです。収入に比例して幸福度が増すのですが、ある一定の水準までいくと上昇しなくなるという研究結果※があります。経済的な豊かさは、必ずしも幸せをもたらすわけではないということです。
一方、長続きする幸せは自由や愛情、社会への帰属意識などによる「非地位財」と言われるものです。環境に恵まれているとか、健康であるなど心の要因によって得られる幸せのことです。

  • ※2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン(米国)ほかの研究発表

人が幸せを感じるための4つの条件

――心の要因によって得られる幸せは4つに分類されると聞きました。どのようなものでしょうか? リフォームでも応用できるのでしょうか?

「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのままに」因子の4つです。
「やってみよう」は積極性。「ありがとう」は、周囲や家族への感謝。「なんとかなる」は楽観主義。「ありのままに」は現状の肯定と言い換えることができると思います。

ここに挙げた4つの因子を満たすことで幸せが長続きすることがわかっています。

① 「やってみよう」因子(自己実現と成長の因子)
夢や目標に向かって「やってみよう」と努力して成長していくとき、人は幸せを感じます。自分の好きなことやワクワクすることだけをする、主体性がポイントです。人にやらされている時には、幸せを感じることができません。
② 「ありがとう」因子(つながりと感謝の因子)
多様なつながりや、人を喜ばせたり、相手のために貢献したい気持ちがある人ほど、幸せを感じられます。相手を幸せにしようとする気持ちで、自分も幸せになり、感謝が広く、深い人ほど幸せを感じやすいのです。人とのつながりをつくる上で大切なのが「ありがとう」という感謝の気持ちです。
③「なんとかなる」因子(前向きと楽観の因子)
いつも前向きにポジティブに考えられる人、楽観的に考えられる人や、自分のいいところも悪い所も受け入れられる人は、幸せになりやすいと言われます。
④「ありのままに」(独立と自分らしさの因子)
人の目を気にせずに自分らしく生きていける人は、幸せを感じやすい傾向にあります。人と比べて自分はダメだと思い込んでしまう人ほど、幸福度が低くなってしまいます。自分の好きなことや得意なことをどんどん突き詰め、自分らしさを磨くことで幸せを感じられます。

これらの4つの因子を意識し、自分でコントロールすることで幸せを得ることができます。

4つの因子を意識してリフォームに取り入れる

リフォームを考える時、私たちはプランづくりの段階から設計、家具選びに至るまで、ライフスタイルや将来の暮らしの希望を家族と話し合い、自分自身に問いかける必要があります。この(リフォームの)プロセスは、そのまま幸福を考えるステップそのものだと言えるかもしれません。
また、具体的にリフォームプランを考える時には、4つの因子を意識しながら間取りやデザインなどを考えることで「幸せを感じる住まい」づくりへとつながっていきます。

取材協力

前野隆司(まえの・たかし)さん

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授、ウェルビーイングリサーチセンター長。著書に『ウェルビーイング』(2022年)、『幸せな職場の経営学』(2019年)、『幸せのメカニズム』(2013年)など多数。

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