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京都・東山にあるK邸は、近くに「哲学の道」など古都の風情を残した閑静な住宅地にあります。木造2階建ての住まいは、南北に細長い敷地で、中央の坪庭を中心にリビング、客間を配置する京町家らしい間取り。瓦屋根や四季を映す植栽などの外観も、周囲の街並みに美しく溶け込んでいます。
設計にあたっては、K様が化学物質にアレルギーがあるため、土壁やムク材など自然素材にこだわった家の造りが基本となりました。また、夏暑く冬の寒さの厳しい京都の気候も考慮。風通し、日差し、断熱性能、結露などをコンピューターによるシミュレーションで綿密に検討し、十分な快適性をめざされました。
最新の建築技術と、京町家の知恵を活かして建てられた住まいは、高いレベルでの省エネ性を実現。耐久性やメンテナンスにも考慮した長期優良住宅として、「第5回サステナブル住宅賞国土交通大臣賞」を受賞。京都市が認定する京都の知恵を活かした省エネ住宅である「平成の京町家」の認定第2号を取得しています。
施主のK様はこれまで関東にお住まい。60代になり息子さんも社会人として独立されることを考え、大好きな京都で家を建て、暮らすことを考えられました。
K様が見つけた住宅用地は昔ながらの街並みが残る東山。近くには「哲学の道」、南禅寺などがあり、京都の四季の美しさを存分に楽しめる土地です。
家造りにあたってK様は、周囲の景観に溶け込む京町家の雰囲気と、自然素材の家を望まれました。素材へのこだわりは、ご自身が化学物質アレルギーのため、体への負担を考えたものです。このためK様は、京都で代々続く左官職人の家に生まれた経歴を持つ建築家に設計を依頼。大好きな京町家のデザインを活かしながら、街並みにも調和、家の中でも四季が楽しめる環境を望まれました。何よりも人が集まり、遠方からのお客様をおもてなしのできる家がお望みでした。
山に囲まれた京都は、夏は蒸し暑く、冬は「底冷え」と言われる厳しい寒さが有名です。購入した住宅用地は、市内でも景観条例の厳しい地区でした。街並みに合わせた外観や日射、通風の条件をクリアするために、建築家は、季節ごとの昼夜の気象条件をコンピューターでシミュレーション。庭や建物の配置・形状を考えました。
その結果、5時間以上の日射が確保できる位置に約14m2の坪庭を設け、ここを中心に間取りを展開することにしました。
日射は、土壁の蓄熱性を活かすためにも必要でした。坪庭に面したリビング南側から日射熱を取り入れることで、室内の土壁に蓄熱ができ、夜間の室温を保つ効果があります。また、土壁は防火性にも優れ、土塗りの厚さを30mmとしたことで、室内側の防火構造を確保。外壁にムク材を選択できるようになり、京町家らしい外観が可能になりました。
通風シミュレーションで、住まい全体の風の流れを考え、窓を配置。
K邸は、北側間口が約9m、奥行きが約18m。道路に接する外格子戸から玄関に入ると、北側にキッチンとダイニングがあります。キッチンとダイニングとひと続きのリビング、坪庭を挟んで客間。リビングと客間は廊下でつながり、洗面やお風呂などの水まわりもリビング横にまとめられています。2階には、主寝室と息子さんの書斎があります。
敷地の両サイドには風の道をつくり、各室に設けた窓を有効に使って、風を取り込めるようにしています。坪庭に面したリビング、和室(6畳)はいずれも広い開口部を持つことで、心地よい風を取り入れることができます。
リビングは、土壁と珪藻土で調湿、杉板のフローリング、杉梁、松材建具などのムク材で空気質を高めています。
K様は「自然素材の家なので、アレルギーが出にくく、湿度が高い梅雨の時期も、フローリングがムクの杉材なのでさらっとして気持ちいい」と話され、風や日差しを取り入れた室内の空気環境維持で「思った以上に冷暖房を使わずに済んでいる」と説明されています。
木造で理想の家づくりをめざしていたK様。製材所の長期優良住宅先導事業※を利用すれば、補助金(200万円)を受けることができると知り、計画中の住宅を長期優良住宅として建てることにしました。
この規格をクリアするために、木製建具の開口部はLow-Eガラスを採用。隙間風を防ぐため、障子戸やガイドレール付のハニカムサーモスクリーンを設けています。壁は、土壁を採用し、土壁背面に羊毛断熱材を充填し、U値(熱貫流率)0.53W/m2K以下となりました。また、次世代省エネ基準のQ値(熱損失係数)2.7W/m2K以下をクリア、省エネ等級4を取得しました。
維持管理がしやすいように、浴室はホーロー製浴槽の下に点検口を設け、屋根は和瓦にして葺き替えできるようにしています。土台の劣化対策として、地面から1m以内の下地は耐久性のあるひのきを採用。
機械に頼り過ぎずに省エネ性を高めるために、リビングは天井の高さを2.1mと低くし、床座・畳での生活を基本としています。空間を小さくすることで、暖冷房を行う部屋の体積が減り、暖冷房負荷を軽減できます。居住後1年間の省エネ性能を光熱費から計算した結果、一般世帯より25.9%のエネルギー削減率を実現、約4万円の節約になりました。
※住宅の長寿命化に向けた先導的な提案を国が公募し、優れた提案や先導的な材料等の導入に対して、その実施に要する費用の一部を補助する制度。(長期優良住宅先導事業は平成23年度で終了しました。)
K邸では、お客様の動線も考えられています。台所の横に洗濯機スペースを設け、洗面所に無駄なものを置かないようにしています。
さらに、客間からトイレや浴室へ一直線の動線にして、慣れない空間でお客様が戸惑わずに気持ちよく過ごしてもらえるようにしています。お客様の使い勝手はもちろん、K様のこれからの生活も考え、床の段差を無くしバリアフリーにも配慮しています。
趣味で華道をされているK様は、坪庭にもこだわられました。玄関から坪庭に続く道は、山道をイメージして岩が置かれ野花を植えました。坪庭には、雨水を利用した池を作りました。水が貯まる場所があると、水はけがよくなり、住まいの湿気やカビ対策になります。K様は「夏は池で冷やされた風が入ってきます。冬は床暖房で温まりながら坪庭を眺められるリビングが、一番のお気に入りです。」と話されます。趣味の華道を続け、着付けなど新しい趣味にもチャレンジできる、これからの生活を楽しむ家になりました。
所 在 地 |
: |
京都市左京区 |
設 計 |
: |
トヨダヤスシ建築設計事務所 |
施 工 |
: |
ツキデ工務店 |
左 官 |
: |
豊田工業所 |
造 園 |
: |
木船昌夫 |
構 造 |
: |
木造2階建て |
敷 地 面 積 |
: |
150.57m2 |
建 築 面 積 |
: |
60.20m2 |
延 床 面 積 |
: |
90.25m2 |
竣 工 |
: |
2011年10月 |
工 期 |
: |
210日 |