リフォームを繰り返した東京のマンション。京都での町家暮らし。テムズ川に近いロンドンの住まい。「直して住む」ことにこだわって、現在は琵琶湖畔に暮らすエッセイスト・麻生圭子さんの住まいの歴史を辿りながら、その土地に合った「自然な住まい方」の魅力に迫ります。
プロの専門用語に、自分のやりたいことを伝えられなかった苦い経験
▼左/仕事場のロフトへは、壁際の梯子を登ります。
右/ベルギーのビンテージの脚立に足場板をかけて、オープン棚に。猫たちがロフトへ上がるキャットタワーにもなっています。
「リノベーションを成功させるには、ある程度の『お勉強』が必要だと思うんです」と語る麻生圭子さん。そこには、バブル時代に東京で買ったマンションでの苦い経験もあったといいます。
「外国人向けのマンションを、全部スケルトンにしてリノベーションをしました。その頃から外国の雑誌やインテリアの本を見るのが好きだったので、壁紙じゃなくて塗り壁にしたい、水まわりには細かいタイルを貼っておしゃれにしたいと、いっぱい夢を描いていました」。
しかし当時はまだ、そうしたこだわりの内装が一般的ではない頃。工事を頼んだ会社の人から、「それはできない」「こちらの方がきれいに仕上がる」などと反対され、ほとんど希望が通らなかったそうなのです。
「そのとき言われて今でも忘れられないのが、『それは素人の考え方ですよ』という言葉。当時はインターネットもなくて、建築についての情報にふれるチャンスも少なかったんです。私もまだ20代でしたから、建築のプロが専門用語で説得してきたことに、言い返せるだけの知識や経験が足りなかったのでしょうね」。
素朴な生活道具をインテリアに変える、英国アンティークの魅力
▼左/ふだん使いの器はキッチン上に棚板を渡して見せる収納に。
右/ざるやまな板などのキッチンツールは、壁に直接クギを打ってかけています。
ただそんな京都での町家暮らしも、住み始めた当初の頃のような楽しさが薄れ、疲れを感じるようになったそう。「伝統的なしきたりが多く、窮屈に感じるようになって。年齢的なものもあったかもしれません」と麻生さんは振り返ります。
そんな頃、ご主人が仕事の関係でイギリスに渡ることになり、麻生さんも同行することに。「京都で買った骨董品や古い和家具などもおおかた手放して、まっさらな状態で新しい生活を始めました」。
そうしてロンドンで住むことになったのは、床暖房の入った家具付きのペントハウスでした。
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vol.3
ロンドンでの暮らしを経て、帰国した麻生さん。湖畔の「自然な住まい」を求め
どのようにリノベーションしていったのか、そのポイントをご紹介します。
Profile
麻生圭子 Keiko Aso
作詞家として数々のヒット曲を手がけた後にエッセイストに。96年に京都に移住し、町家での暮らしを経験。現在は、琵琶湖の畔で、ご主人と愛猫2匹との暮らしを楽しむ。