日々を楽しむ小さな工夫 
編集者・フリーライター 
一田憲子さんvol.1

日々を楽しむ小さな工夫019-vol1 理想の暮らし方はかっちり決めず、経験と歳を重ねながら模索していく

「今になってようやく柔軟に物事に
向き合えるようになってきました」

物事にはさまざまな側面があります。どこに視線を注ぐかによって、日々の暮らしの映り方まで変わったり、それによってワクワク感が生まれたりすることもあるでしょう。

編集者、フリーライターとして活躍する一田憲子さんは、常に暮らしのさまざまな事柄に目を向け、ご自身の生活の中で発見した気づきや、取材した人のライフスタイルを、長年に渡って伝えています。近年ではホームページ、SNSなども駆使し、発信の舞台をますます拡大中。
とはいえ、お話を聞いてみると、決して順調に歩みを進めてきたわけではなく、50代になってようやく掴めてきたことも多いと言います。

「がむしゃらだった20代、30代。
当時の経験のすべてが勉強でした」

「これまで掃除にはスポンジを使っていたけれどマイクロファイバークロスに変えた。そんな些細な、5ミリ程度の変化でも暮らしは変わるもの。それを“小さな成長”と思ってもいいんです」。
時に慌ただしく、時に単調に感じる日々の営み。だからこそ、一田さんの発する暮らしのヒントや言葉は、やさしいエールのように響きます。

そんな一田さんでも、20代、30代は「ただただ、がむしゃら」で、日々の小さな変化に思いを馳せる余裕は1ミリもなかったそう。20代後半でOLから編集業に転身。上京して編集プロダクションに入り、右も左もわからずとにかく一生懸命仕事を吸収してきた時期だと言います。

「清水の舞台から飛び降りる気持ちで買いました」と見せてくれた漆器。松山の漆作家の作品で、使うほどに味わいが増して持ちもよく、“一生物”を実感しているそう。

また、経験を“買う”時期でもありました。
「取材で会った素敵な人が使っていた物を自分も取り入れたらどんないいことがあるのか、知りたい気持ちは強かったですね。頑張って高価な漆器を購入したからこそ、熱いものを入れても持ちやすいとか、使うほどに味わいが増すなど、価値や魅力が実感できました。もちろん失敗もありましたが、そんな経験が楽しくて所有することに積極的でしたね」。

「清水の舞台から飛び降りる気持ちで買いました」と見せてくれた漆器。松山の漆作家の作品で、使うほどに味わいが増して持ちもよく、“一生物”を実感しているそう。

「買うことへの意識に
変化が訪れたのが40代。
その後も見直しはずっと続きます」

一田さん自身の生活の場への意識に変化が訪れたのが40代。所有物が多いほど管理に時間がかかることを実感し、飾って楽しむだけの小さな雑貨は思い切って処分。実用性のあるものを中心に求めるようになったそう。元々料理やおもてなし好きだったこともあって、その頃の楽しみは、お気に入りの作家の展示会に足を運び、素敵な器を手に入れることでした。

50代となった今も、お気に入りの食器棚に器がずらりと並ぶ様子は変わりませんが、器は半分以上手放したそう。
「今愛用しているのは、昔ながらの素朴な民芸の器や量産のプロダクト。作家やブランドにとらわれず日常の料理に合って気軽に使えるものをと考えるようになり、少しずつ入れ替えるようになりました」。
自分にとっての暮らしやすさを真ん中に据え、物やコトを引き寄せるようにスライドしてきたのです。

  • 中央のオーバルプレートはイタリアの丈夫な量産品、両脇のふたつは民芸の器。料理が映え、勝手よく使えるものを大切に考えて選ぶようになったそう。

  • “お茶を飲むのにちょうどいいサイズ感”を優先して近年選び直したカップ。シンプルなので、作家のポットを添えるとバランスのいいコーディネイトに。

一方で、今までどおり続けていきたい、手放したくないと思っていることもあります。それは、長年続けてきた、“発信すること”。

「暮らしのなかで『へぇー』って思った発見や、人と会って得た感動を書き続けたいんです。5年前に自分のウェブサイトを立ち上げたのは、その舞台を用意したかったから」。

2016年に立ち上げ、続けているご自身のウェブサイト「外の音、内の香」。サイトを開くのも日課となっています。

いくら歳を重ねても、わかっているようでわかっていないことがあちこちに転がっていると一田さんは言います。だからこそ、年を重ねても目を凝らして生きていく。“気づき”から手放す物もあれば、新たに始めることもあり、その変化を楽しみながら日々を過ごしています。

2016年に立ち上げ、続けているご自身のウェブサイト「外の音、内の香」。サイトを開くのも日課となっています。

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vol.2 一田さんの2つ目のルール
「考えるより、まずやってみる。」をご紹介

Profile

一田憲子 Noriko Ichida

一田憲子さん 写真

編集者、フリーライター。OLから編集プロダクションへ転職、その後フリーランスに。日々の暮らしのなかにある小さな発見や課題に焦点を当てて、雑誌や単行本などで執筆するほか、ムック『暮らしのおへそ』『大人になったら着たい服』(ともに主婦と生活社刊)を立ち上げ、企画から編集、執筆までを手掛けている。『暮らしを変える書く力』(KADOKAWA)、『日常は5ミリずつの成長でできている』(大和書房刊)、『大人になってやめたこと』(扶桑社)、『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』(SBクリエイティブ刊) など著書も多数。2016年から自身のウェブサイト「外の音、内の香」を主宰。

https://ichidanoriko.com/

一田憲子

noriichida

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