日々を楽しむ小さな工夫
おむすび研究家
大倉千枝子さんvol.2
「土鍋炊飯のアナログな作業は
ごはん好きにはずせない
至福のプロセスです」
大倉さんは、日常的に土鍋での炊飯を楽しんでいます。
「炊飯の過程を目の当たりにしながら、ごはんが炊けるまでの時間を過ごせるのが魅力です。この時間に、食や暮らしを楽しむ余裕があると思うんです。“おいしい”は、ごはんを味わう“結果”だけでなく、料理そのもののプロセスも含めて楽しむことですから。土鍋でなく文化鍋などでも十分おいしく炊けますよ」。
“アナログな道具を使うこと=手間がかかる”ととらえがちですが、手をかけることは決して面倒ではなく、経験を豊かにする作業だと日々実感しているそうです。
「昔から使い続けられている
調理道具が好きですね」
土鍋以外にも、飯台やお櫃(ひつ)、ざるなど、大倉さんのキッチンには昔ながらの調理道具が多く並びます。
「時代を超えて使われ続けてきたものは、機能とデザインが優れています。たとえば、飯台やお櫃の木の素材は適度にごはんの水分を逃しながら保湿してくれる、という具合です。ざるは機能美に優れ、おむすびや料理を盛りつけるトレーとしても積極的に利用していますね」。
おむすびは作り方も食材もいたってシンプル。米、塩などの素材そのものがストレートに生きてくる料理だからこそ、気に入った道具で丁寧にこしらえたいと考えています。
「食材も大切です。作り手の現場を見て、おいしいものは、目に見えないけれど気の遠くなるような手間からできていると実感しています。それらを最上のおいしさにむすぶのが、料理。そのことを大切におむすびを作っています」。
おむすび作りに欠かせないお気に入りの食材
自然が育んだ素材でおむすびを味わい深く
- 大倉さんのふるさとでもある山形県の庄内、鳥海山の伏流水が湧き出る場所の海水から作られています。「淡水が混ざっていることで、やさしい甘みがあります。ほかにはないやわらかな味が気に入っていますね。縁あって今はこの塩のオーナーです」。
- 35年にわたって梅仕事(梅が実る時期に梅干しや梅酒などを手作りすること)をライフワークとしてきた大倉さん。なかでもおむすびの具材として欠かせない梅干しは、気候により同じ味に仕上がらない難しさと、経験をもとに作る楽しさがあるそうです。追及するなかで惹かれたのが、石川県奥能登の豊かな自然の力で育った梅。“然(さ)の梅”と名づけ、梅干しをはじめ加工品を手作りしています。
- 梅干しを作る際にできた梅酢も活用。殺菌・抗菌作用が期待できるので、ごはんにスプレーしてからにぎっています。「特に気温が上がる時期におすすめです」。あえ物、漬物になどにも活用しているそう。
写真協力/品田裕美、村山玄子、おむすびまるさんかく
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vol.3 器や具材などによる
“おいしい演出”についてクローズアップ
Profile
大倉千枝子 Chieko Okura
おむすび研究家。La via Ltd.代表。食とライフスタイルを豊かにするための企画、商品を展開する「creative market(omusubi garden)」主宰。おむすびを通じて食の楽しみを伝える子ども向けのワークショップを続けた後、2001年に東京・神宮前におむすびと汁、漬物をメインにした食事と自家製の加工品を扱う店「おむすびまるさんかく」をオープン。2020年1月に閉店した後は、店舗は持たず各地に出向いておむすびを供すスタイルで活動し、食の企画、商品企画も行う。著書に『むすんでみませんか?おむすび。- おむすびの話あれこれ -』(ピエ・ブックス2005年刊)。
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