住宅デザイナーのタブチキヨシさんが、気になる間取りのアレコレを解説。
最終回は心地よい住まいの収納についてご紹介。生活スタイルに合わせた収納をご提案します。
キッチンや玄関をもっと使いやすく。
暮らしの質は収納で決まる。
収納は「隠す」ことでもあります。ある意味ではネガティブな心の働きに基づいているともいえるでしょう。しかし、収納は暮らしの質に直結します。間取りを検討する際には大事な要素となり、皆さん重視せざるを得ません。
収納に関しては、キッチン周りのご相談が増えている印象です。近年は電子レンジが大型化していて、取っ手を含めると奥行は50cmを超えます。標準的な食器棚は奥行きが45cm程度ですから収まりません。じゃあどうしようか、と。パンを入れるブレッドケースなど、具体的な収納用品を指定してキッチンの配置を相談される方もいらっしゃいます。
玄関クローゼットのニーズも増えていますね。ゴルフクラブやキャンプ用品をしまうのに重宝しますし、コート類の保管場所としても便利です。ただ、実際にフル活用されているかというと、ちょっと微妙かもしれません。私のお客さんでも、満杯とはいかず、せっかく設けた棚にもあまり物が置かれていないのです。一方で、玄関周りでは靴や傘のスペースは確保しなければなりません。ご家庭の状況に応じて、トータルに収納をデザインする必要があります。
靴や傘だけでなく、レジャー用品やアウトドア用品も保管する玄関収納。大きな収納であれば、コートやゴルフバックなどの季節用品の保管場所としても活用できる。
細かい「ゾーニング」で
限られたスペースを活用しよう。
収納のポイントは、しかるべき場所に物がちゃんと収まっているという意味での「適材適所」です。家事動線、生活動線の効率化にもつながります。実は、ドライヤーや洗濯用ハンガーといった生活に身近な物ほど、置き場所に困っているケースは少なくありません。そういうときは、空間を区切る「ゾーニング」で方策を検討してみてください。
例えばドライヤーなら、洗面台横の壁にフックをつけて掛ける。または、洗濯機との間に隙間があれば、小さなワゴンを設置して置いても良いかもしれません。洗濯用のハンガーやネットなら、洗濯機上部の空間を利用して収納棚などを設置すれば解決することもあります。食器棚を最大限活用しようとするならば、左上、右上、右中、左中…といった細かいゾーニングが有効です。
洗濯機上にちょっとした棚があると便利。洗剤や柔軟剤、洗濯ネットなど必要なものがまとめてあると、家事の動線に無駄が生じない。
しかしながら、収納ばかりのお家に住むことが幸せかといえば、必ずしもそうではないはずです。少ないと困りますが、有り余っていたらそれこそ空間の無駄。何かを収集する趣味がある人とそうではない人では、必要な平米数は大きく異なります。量の基準をお示しするのは簡単ではありません。
結局のところ、住む人が何を望むかにかかっています。私が担当したあるお客さんは、お気に入りの収納雑貨が磁石式になっていることから、壁面にくっつけられるようにしたいという希望もありました。今の時代、SNSからたくさんのことが学べますし、住宅メーカーのカタログが役に立つのはいうまでもありません。なるだけ多くの情報を収集しておくと、間取りのアイデアが広がります。
[人数別のポイント]
一人暮らしは
「自分だけの城」を楽しんで。
では、家族の人数別に、収納のトレンドや留意点をご説明しましょう。
まず一人暮らしの方。「物をなるだけ隠したい」という傾向が、複数人の世帯よりも強いです。一人だからといって、日々の生活は雑にしたくない。生活感を薄めて、きれいに空間を見せたいと考えています。私が最近対応した2つの案件は、どちらも冷蔵庫まで隠すことになりました。いくつか方法がありますが、今回は手前に扉を設置することで対応しています。いってみれば「二重扉」の状態のため、調理の効率性は損なわれますが、見た目を優先したわけです。
食器、調理家電、冷蔵庫などキッチン周りのモノを全て扉で隠すことで、生活感を極力減らしおもてなしの空間を作ることができる。
LDKの空間はなるだけ機能的にまとめる一方で、趣味や仕事のためのスペースはおしゃれに彩りたいという思いも伺えます。そこでは、他人の目にどう映るかよりも、自分はどう生きていくかという視点が優勢です。「自分だけのお城」という感覚なのかもしれませんね。
[人数別のポイント]
共働きなら仕事、シニアなら趣味を大切に。
次に二人の場合。見た目、ビジュアル重視なのは、一人暮らしの方と共通しています。それに加えて、共働きなら仕事道具の置き場所もポイントです。
オフィスワーカーであれば、業務用のパソコンやタブレット、書類、筆記用具、それらを入れる鞄を日々持ち運びしているでしょう。リモートワークの際には自宅のワークスペースに広げることにもなります。仕事道具の定位置はお二人が納得の上で決められるといいですね。
たっぷりと収納の付いたワークスペース。リモートワーク用の仕事道具だけでなく、趣味のアイテムをしまうなど個人の空間として活用もできる。
仕事をリタイアしている年配夫婦の場合はどうでしょうか。人生100年時代を迎え、長い余生をどのように過ごすかはとても重要なテーマです。しかし、必ずしも二人が四六時中いっしょとは限りません。それぞれが自身の趣味を楽しむスタイルが浸透し始めています。読書が好きな方にとって見栄えのする本棚は憧れですし、手芸をやる方はミシンにもこだわりたいでしょう。しかし、従来のLDKでは、それらを設置する場所は特に想定されていませんでした。今後は、幅広い世代が模索しているおうち時間の過ごし方は、収納の工夫次第でより充実したものとなるはずです。
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個室にも収納を設けて、
個々に管理 -
収納たっぷりの
ワークスペースで使いやすく
個室にも収納を設けて、
個々に管理
収納はプライベート空間として確保。趣味のモノ、触られたくないモノは自分だけの収納に。
収納たっぷりのワークスペースで
使いやすく
大容量の収納が確保されたワークスペースなら、仕事道具の置き場所も確保。互いに場所が決めてあればもめることもありません。
[人数別のポイント]
子育て世帯は、
長い目で見た収納プランを。
最後に3~4人の子育て世帯。やはりお子さんに関係する物をどのように収納するかが最大の関心事です。服にしても学用品にしても、初めは年々増えていきますが、いずれ子どもたちは巣立っていくので次第に物は減っていきます。その増減を長いスパンでシミュレートするといいでしょう。
おもちゃは、とかく散らかりがちなので皆さん悩んでいます。親御さんがせっかく自身の理想とするホテルライクなリノベーションを完成させたのに、キャラクターのおもちゃがそこかしこに転がっていてイライラしてしまうという話も。もちろん、お子さんのおもちゃだから仕方がないと諦めることはありません。私も日々、お客さんのご要望を踏まえて解決策を探っています。
5回にわたり、間取りのポイントをご説明してきました。なんといっても一番大事なのは、諦めないこと。豊かな暮らしを実現するために、妥協せずとことん考えてほしいです。とはいえ、そんなに重く捉える必要はありません。ドライヤーの収納など、普段なんとなくスルーしていることを、10分でもいいからちょっと立ち止まって考えてみる。それだけでも全然違います。SNSは情報収集に役立ちますが、振り回されないようにご注意を。実際にショールームに足を運ぶことをおすすめします。さまざまな気付きがあり、自身の方向性を見定めるには打ってつけです。
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