家事でラクをするのは
「やましい」こと?
専業主婦が当たり前だった時代には、「家事の効率化」という発想はありませんでした。トイレットペーパーさえ買い置きせず、家事を一手に担う女性がその都度スーパーに足を運べば事足りたわけです。収納はそれほど重視されず、当然ながら「家事動線」という言葉もありませんでした。
時代は移り変わり、共働きが増えました。しかし、仕事と家事どちらも担う女性にとってはキャパオーバーになりかねません。そんな中、「いかに負担を減らすか」という女性たちの切実な思いから、家事の効率化が注目されるようになったのです。
20年ほど前、ロボット掃除機が日本に初上陸したとき、一部で反発する考えがありました。「自分で掃除しないのか?」というわけです。この場合の掃除する主体はあくまで女性。家事で「楽をする」のはやましいこと。当時はまだそういう感覚が残っていました。
長い間、家事は女性任せにされてきたともいえるでしょう。だから近年は、家事の分担が大きなテーマとなっています。家族で家事をシェアしやすい間取りが求められるようになってきました。明らかに時代の変化を感じます。
1960年前後に建てられた家によくみられる間取り。収納も十分といえず、日用品をストックをするという考えも根付いていなかった。
そこに置くものから「逆算」して
間取りを決めよう。
最近は冷凍庫の売れ行きがいいそうです。大型のショッピングセンターで大量に冷凍食品を買い込むライフスタイルが定着したからでしょう。家事の効率化を求める傾向はこのことにも表れています。食材のストック用と割り切るなら、必ずしもキッチン近くではなく、寝室に置いたっていい。先入観にとらわれず検討することをおすすめします。
衣類乾燥機の有無も重要です。私は設計前に、「洗濯物の量はどれぐらいか」「室内干しはするのか」を必ずヒアリングします。洗濯に関する動線は間取りに直結しますから。皆さん、洗濯物を干す作業はおっくうみたいですね。なるだけ楽にしたいと考えています。外干しだと天気に左右されるし、花粉やPM2.5などのアレル物質も気になる。皺になるのも避けたい。ストレスとなりうる要因を洗い出したとき、衣類乾燥機で解決できることがあります。
洗面洗濯周りをまとめて収納できる壁面収納。
洗濯乾燥機から取り出したタオルなども、その場で収納することが出来るので、洗濯の動線が短い。
皆さんが意外と見逃しがちなのはゴミ箱。個々のサイズや設置する数を踏まえて、間取りを確定させるのが私のやり方です。全体としていい雰囲気のお家なのに、ゴミ箱があまりうまく収まっていないケースは少なくありません。今の売れ線はボディが細くて高いもの。床面積を節約しながら種類を増やせて、分別もしやすくなるからです。
必要とする家電、家具から間取りを考える。一般的には逆かもしれませんが、そういった発想の転換が、家事の効率化への一歩となるのです。
お気に入りの空間ができても、ゴミ箱がうまく収まらないと生活感があふれることに。上手くおさまる場所や位置も含めて検討することがおすすめ。写真はキッチンカップボードにゴミ箱を収納した例。
[人数別のポイント]
一人暮らしでも、
洗濯物の量は意外と多い。
では、新築やリフォームの際に家事をしやすくするための留意点について、家族の人数別にご説明しましょう。
まず一人暮らしの方。毎日洗濯する方は少なく、その分1回の分量はけっこう多いようです。そのため、干すスペースはしっかり確保したいとのご要望をいただいたことがあります。ただ、家事の効率化にこだわっている印象はそれほどないですね。衣類乾燥機まで希望する方はあまりいません。ある程度マイペースで日常生活を送れるからでしょう。
室内干しできるスペースがあれば、花粉や台風シーズンも洗濯物がしやすい。ホシ姫サマなら普段は天井にすっきり収納ができる。
なかでも自営業の方だと、自宅は働く場にもなります。私が担当した案件では、販売用のお菓子を手作りするための厨房を作ったり、ダンスレッスン用の部屋を設けたりしました。一人だから他人はあまり頼れないけれど、老後も働きながら安心して暮らしたい。そういう心理が見受けられます。仕事とプライベートがセットになった空間で、生活動線をどのように設計するかは、その方の好みや価値観に合わせて調整します。
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室内干しをする
スペースを確保 -
寝室からもサニタリー空間に
アクセスしやすい回遊動線 -
対面キッチンで
リビングから手元を目隠し
室内干しをする
スペースを確保
一回の分量が多くなる洗濯。サニタリールームに室内干しをすれば、洗濯機からの動線も短く、季節や天候にも左右されません。
寝室からもサニタリー空間に
アクセスしやすい回遊動線
寝る前後になにかと用事ができるサニタリールーム。動線がつながっていると、お風呂上りや歯磨き後にすぐ寝室へ行けます。
(写真はタブチさん施工例)
対面キッチンで
リビングから手元を目隠し
対面キッチンならお客様を呼んでも会話が途切れず、キッチンワークもスムーズ。ハイカウンターなら手元も隠せます。
[人数別のポイント]
家事分担率ほぼ100%の
二人世帯はキッチンがカギ。
次に二人の場合。私が担当したとあるご夫婦は、クローゼットを分けて2つにしました。洗濯はいっしょにするんですけどね。二人の生活は大切にしつつも、個人の領域はある程度キープしたい心理があるのかもしれません。
また、来客用の食器の収納を希望される傾向もあります。子育て世帯と比べて、来客時の対応をイメージする心の余裕があるようです。収納は、量ありきではなく、デザインや見た目にこだわります。一人暮らしの方と同様に、家事の効率性をことさら優先しなくても、それほど生活に支障はないのでしょう。
ゲストを呼ぶことを考えた暮らしでは収納量だけでなく、家電周りの生活感も隠せる美しい収納が求められます。
ただ昨今は、家事は100%シェアといっても過言ではありません。年代も関係なく、70歳ぐらいまでのカップルであれば、男性も家事を担当しています。ここ10年ぐらいの大きな変化だと感じますね。二人でいっしょに炊事することを想定して、キッチンのスペースを広めにとるといいでしょう。アイランド型で回りやすいタイプが人気です。
その際、キッチン台の高さも考慮してみてください。一般的に、女性に適しているのは85センチ、男性だと90センチといわれています。低いと腰が痛くなるので、男性または背の高い方に合わせると、シェアするときにスムーズです。
幅が広いため、どちらからでも作業ができるアイランドキッチン。体の大きな男性でも一緒に作業がしやすくなります。
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二人で料理を
楽しめるキッチン -
洗って干すを完結できる
洗面洗濯室
二人で料理を
楽しめるキッチン
一緒に住むなら家事は分担したり、共同でやりたいもの。ぐるりと回遊できるアイランドキッチンやⅡ型キッチンなら、二人で立ってもお互いが邪魔になりません。
洗って干すを完結できる
洗面洗濯室
洗面脱衣室にランドリールームの機能を追加して、洗面洗濯室に。
脱いで、洗って、干すまでを同じ空間にすることで動線を短くすることができます。
(写真はタブチさん施工例)
[人数別のポイント]
家族みんなのものを
集める集合収納で効率化。
最後に3~4人の子育て世帯。「子供服はすべて洗面所で収納したい」「宿題の面倒をみるためキッチン近くで勉強させたい」といった要望が多いです。子ども部屋はなるべく小さく。その分、ほかのスペースの充実に力を入れます。干した洗濯ものを取り込んで、片付けるまでを考えると、複数のクローゼットを行き来するよりも一つの集合収納で済ませるのがおすすめです。無駄な動きがなくなり、家族で手分けしやすくなります。
玄関収納が大きいとまとめて保管でき、家を出る前に取り出せて、帰ってすぐ片付けられます
お子さんがスポーツをやっている場合は、かさばる道具類を子ども部屋に集約する手があります。今担当しているお客さんは、剣道の道具が4人分あり、その収納を検討するところから打ち合わせが始まりました。タテ90センチ×ヨコ90センチ程度の単位で、少しでもたくさんスペースを確保したい、とのこと。子ども部屋だけで賄えない場合は、玄関クローゼットも視野に入ります。
子育て世帯の間取りは、一人や二人の世帯と比べると、収納や動線はより複雑になり、生活の動線を効率的にするためのハードルは上がります。自分たちの現状や希望をしっかり認識した上で、施工業者に相談することが大切です。