住宅デザイナーのタブチキヨシさんが、気になる間取りのアレコレを解説。
第三回は家族が集まるLDKについてご紹介。家族の人数別のアイディアも盛りだくさんです!
対面キッチンやテレビが、
家族の一体感を作り出した。
多くの方になじみ深い間取りといえばLDK。これが社会に普及した背景についてはLESSON2でも触れましたが、あらためて簡単に整理してみましょう。
かつての間取りは、お客様を迎えるために恥ずかしくない「箱」という考えがベースにありました。それが次第に、家族の一体感を重視するように変わったのです。この流れを受けて登場したのが対面キッチン。「家族を身近に感じながら料理したい」という女性のニーズを踏まえたものでした。
テレビの存在も見逃せません。家族がリビングルームに集まって一つのテレビを見るライフスタイルが確立しました。主に家事を担う女性が、なるべく家族といっしょの時間を過ごしたいと考えたとき、リビングルーム、ダイニングルーム、キッチンが一体となったLDKはうってつけだったのです。
1990年前後にポピュラーになってきた間取り。対面式のキッチンとなり、家族と会話を楽しんだり、TVをみながら料理が出来るようになりました。
従来のLDKに収まらない、
多機能な空間が求められている。
ところが近年は、さらなる変化も起きています。分かりやすい例としてはテレビとの関わり方。配信動画を各々が観たいタイミングで自分の端末で楽しむスタイルが珍しくなくなりました。みんなで1 台のテレビを観る生活習慣はすたれつつあります。それに伴って「リビングルーム」の概念も変わろうとしているのです。
個人的には「エンタメルーム」「フリースペース」という言葉がしっくりきます。 最近、ソファは3ピースのロングソファよりもパーソナルチェアの売れ行きがいいそうです。一人でスマホやタブレットで映画を観たり電子書籍を読んだりする分には、シングルサイズの方が使い勝手がいいからでしょう。また、テーブルは昇降式で、リモートワーク時のデスクとしても使えるものが人気です。家族それぞれが快適に過ごせる多機能な空間が求められていることが分かります。
最近はテレビではなく、リビングにプロジェクターを設置する家も増えてきている。リビングが広々としたフリースペースと化している。
(タブチさん施工例より)
とはいえ、みんなバラバラでつながりが希薄になっているわけでもありません。ある種の揺り戻しのように、鍋やお家キャンプなど、家族やごく親しい仲間内で集まって楽しむ「スモールギャザリング」が関心を集めています。6人ぐらいが座れるラウンド型のダイニングテーブルがよく売れているのは、お友達を招くことも想定されているから。いずれにしても、従来型のLDKでは応えきれない新たなニーズが生まれているのは間違いないでしょう。
個のスペースや時間は大切にしつつ、親しい人が集まれる「スモールギャザリング」のスペースも欠かせないものとなっている。
ダイニングルームを充実させて、
希望のライフスタイルを実現。
では具体的に、私が手がけたリフォームの事例から、LDKに関する最新の傾向を読み解いてみましょう。
一つは、17畳のLDKと8畳の和室があるお家をリフォームしたケース。奥様の趣味が手芸で、ミシンを使いやすくしたいとのご要望がありました。そこで、和室をリビングに、LDKをDKに変え、最大2メートル半ぐらいまで延ばせる伸長式のダイニングテーブルをご提案したのです。当然そこで食事もできますが、ミシンを置きっぱなしにしても支障はありませんし、お子さんの勉強机にもなります。ダイニングルームを、家族が思い思いのときを過ごせる多機能な場としたのがポイントです。
大きなダイニングテーブル兼作業台があれば、食事のたびに片づけをしなくてもすぐに作業に戻れる。(タブチさん施工例より)
別のケースでは、ダイニングルームを大きくした分、リビングルームはなくしてしまいました。タイニングテーブルの天板の高さを一般的なものよりも低く抑え、壁面に映し出されるプロジェクターの映像を、座面の低いソファからも楽しめるようになっています。リビングルームは一人で本を読める程度のヌック(=2〜3畳程度のこぢんまりとした部屋)に変えました。料理や食事の時間を大切にしたいという共働き夫妻のご意向を受け、ダイニングルームが「より豊かな空間」になるよう工夫したわけです。
こぢんまりとしたヌックは不思議と落ち着きを与えてくれる場所。一人で趣味を楽しむのに最適なスペース。
※写真はパナソニックの参考プランです
この2つのケースに共通するのは、ご自分たちが求める暮らしを実現するために間取りを変えたということ。古いものを残しつつ、新しい暮らしを手に入れる。近年のSDGsやアップサイクルといったトレンドに呼応するニーズが見受けられるのも確かです。
[人数別のポイント]
一人暮らしはダイニングルームを
コンパクトに。
では、LDKの観点から、新築やリフォームの際の留意点について、家族の人数別にご説明しましょう。
まずは一人暮らしの方。未婚率、離婚率が上昇しているのは周知の事実ですが、40代、50代で今後も独身と決めて、親御さんが用意した土地に家を建てるケースは、特に女性の間でますます増えそうです。人口減の影響が懸念される住宅業界にとっては新しいマーケットの誕生でもあり、希望の光といえるでしょう。
そんな一人暮らしの方からどんなニーズが生まれるのか。私も手がけた事例は決して多くありませんので、鋭意研究中です。その人のライフスタイル次第ではありますが、カフェのラウンジみたいにお客さんをおもてなしできる空間を求める声があります。私が最近担当した女性のお施主様2人は、どちらもそのような要望でした。リビングルームは応接室を兼ねてある程度広く、リッチな作りに。その分DKはささっと食事を済ませられる程度にコンパクトに。そんなご要望をお伺いしながら間取りを固めていきました。
一人暮らしのLDKはおもてなしスペースとしても兼用。話がはずむカフェのようなリッチなつくりの空間がおすすめ。
[人数別のポイント]
2人ならリモートワーク前提、
シニア夫婦は雰囲気重視。
次に2人の場合を見ていきましょう。まず共働きのケース。どちらか1人、または2人とも自宅でリモートワークというのはごく一般的ですから、ワークスペースをどう確保するかがポイントになってきます。小さくてもいいので2つあるといいですね。それと併せて、オン/オフの切り替えがしやすいかも留意したいところです。
リビングや寝室の他にも廊下やパントリーにデスクを置いてワークスペースに。
共働き夫婦はお互いに集中とオン・オフが切り替えられるワークスペースの確保が大切。
シニア層になると、セカンドライフに向けて断捨離するので、意外にモノは少ない人が多いです。だから、収納ありきではなく、どちらかいうと情緒やわびさびを求めて、間接照明が人気に。ホテルライクな空間を志向する方が多い印象です。家事のことはあまり想定せず、機能性より雰囲気や気持ちよさが優先されます。最近手がけた2組のお施主様は、どちらも和風の造りを選ばれました。おそらく気分的に落ち着くからでしょう。
和風の空間で落ち着きをだしつつ、間接照明をつけることでホテルライクの上質な空間に。
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ワークスペースは
夫婦2人分をつくる -
大きなキッチンパントリーで
LDKはすっきり -
二人で料理ができる
アイランドキッチン
ワークスペースは
夫婦2人分をつくる
夫婦ともにリモートワークになっても、働き方は人それぞれ。
別々にワークスペースをつくれば仕事に集中できます。
(写真はタブチさん施工例)
大きなキッチンパントリーで
LDKはすっきり
保存食や細々とした調味料は、大きなパントリーにまとめて収納。LDKがすっきりして見えます。
(写真はタブチさん施工例)
二人で料理ができる
アイランドキッチン
左右どちらからでも入れるアイランドキッチンなら、二人でキッチンを使ってもお互いが邪魔になりません。
[人数別のポイント]
子育て世帯は子ども部屋の
広さに留意しよう。
リビングの壁一面にデスクを設置した例。親の仕事スペースとしても、子どもの勉強スペースとしても使えて便利。(タブチさん施工例より)
最後に3~4人の子育て世帯。かつての「夢のマイホーム」の時代と比べて、子ども部屋が明らかに狭くなっています。「いずれ子どもたちは巣立っていくのだから、スペースが無駄になりかねない」と認識される親御さんが増えました。「子ども部屋を狭くする分LDKを広くしたい」という意見をよく耳にします。家族が集まりやすく、そこでお子さんは宿題ができて、親御さんの仕事スペースにもなるように、というわけです。
先にも述べましたが、住む人それぞれが心地よい時間を過ごせるのが一番大事。だからこそ今、新しいLDKの在り方が模索されているのです。