住宅デザイナーのタブチキヨシさんが、気になる間取りのあれこれを解説。
第一回はマンションと戸建の間取りを検討する際におさえておきたいポイントをご紹介します。
3LDKや4LDKはもう古い?
ライフスタイルに合った
間取りを選ぶ時代。
間取りは、住む人のニーズを受けてつくるものです。そのため時代とともに人の考え方やライフスタイルが移り変わるにつれ、間取りの主流も変化してきました。
家族の形やあり方も、この半世紀で大きく変貌を遂げています。数十年前は、両親と子ども2人が標準とされ、3LDKや4LDKが普及しました。ところが現在は、むしろ「3LDKや4LDKから引っ越したい」と考えるファミリー層が増えている。それが私の実感ですね。
マンション・戸建ともに現在も4人家族を想定した3LDK・4LDKの間取り。そこから脱却したい人が増えている
家づくりのテーマが、「家族みんながハッピー」から「家族それぞれがハッピー」に変わりつつあると思います。個々のプライバシーがほどよく守られているのと同時に、家族のつながりも感じられる。そんな間取りが求められているのです。居間にみんなが集まっていっしょにテレビを見ることは少なくなりました。一方で、在宅ワークが一般的になり、自宅は仕事場を兼ねるようになっています。そういう変化に、従来の3LDKや4LDKはそぐわなくなっているんですね。
在宅ワークが一般的となったこともあり、自分のためのちょっとした空間を持ちたいというニーズが増加。(タブチさん施工例より)
では今、間取りを考える上で何がポイントになっているのでしょうか。マンションのリノベーションと戸建の新築では少し違いがありますので、それぞれご説明しましょう。
寝室・個室は小さくして、
集合収納を配置。
マンションのリノベーションの
鍵は「収納計画」。
まずマンションのリノベーション。限られたスペースで皆さんが一番悩まれるのは収納です。しまいやすく、取り出しやすい「収納計画」を立てることがポイントです。家族構成や所有する物の数にもよるので一概には言えませんが、収納スペースはなるべく広く確保することをおすすめします。家族みんなのものをまとめた集合収納スペースが3畳程度あるといいでしょう。では、どのようにスペースを捻出するか。「寝室は6畳ぐらい必要」など先入観にとらわれず検討するのも大切です。寝室をもっと狭めて、その分の収納に充ててみてはどうでしょうか。私だったら、寝室6畳、クローゼット0.75畳という提案はしません。収納には妥協しない方がいいと思います。
では、どこに収納スペースを設けるのか。ちょっと考えてみてください。クローゼットの場所は、寝室内でなければならないのか。身支度に適した場所は本当に寝室でしょうか。着替えたりするわけですから、洗面所やバスルームとつながっている方が合理的です。実際に私が手がけたケースでは、3LDKを2LDKに変えて、洗面室と隣接する集合収納を設置しました。効率的に収納を配置することでスペースを捻出し、ワーク&スタディルームを設けるなどお客様のご要望に応じた空間をプラスしています。
洗面室に集合収納をつなげることで、洗濯物の「洗う」「干す」「しまう」を一本化。室内物干しがあれば便利。(タブチさん施工例より)
収納スペースを考える際に、「子ども部屋の広さ」も合わせて考えてみましょう。子どもが巣立つと、往々にして「物置」と化してしまいがち。子ども部屋の広さは集合収納を設置することを念頭に、中長期的なスパンで考えるといいでしょう。寝室・子ども部屋に必要な物だけをしまえる収納があれば十分です。
子ども部屋は将来使わなくなる可能性も考えて、スペースの配分を考えましょう。
寝室・子ども部屋の
収納はコンパクトに
子ども部屋は10年後には使わなくなることを想定して、最低限の収納スペースに。
バスルームや洗面室近くに
集合収納スペース
身支度を整えるサニタリー周りに集合収納があると、着替えや洗濯ワークもささっとできて便利。
あちこち行く必要はありません。
くらしに合った
+αの空間をプラス
仕事をしたり、趣味をしたりする+αの空間があることが、家族それぞれの幸せにつながります。
戸建は、家族との時間を充実させる
「回遊性」のある間取りがおすすめ。
戸建を新築する場合のポイントは、L(リビング)、D(ダイニング)、K(キッチン)の関係性。特にキッチンの位置付けです。最近よく聞くのは、「料理しているときに家族と離れているとさみしい」という声。夕食だったら、後片付けを含めると1時間~1時間半ぐらいキッチンに立っていてもおかしくないですよね。そのため、キッチンと家族がどう関わるかを考えるのはとても大切です。共働き世帯が増える今の時代、「家事の時短」も間取りに欠かせない要素。キッチンを中心に回遊できる間取りで、家族とのコミュニケーションと家事効率の両方を高められます。
たとえば、対面キッチンにすればリビングダイニングの家族とのつながりが高まりますし、ダイニングテーブルをキッチンに横付けすれば、配膳や片付けが楽になるメリットも。空間の広さに合わせてキッチンのスタイルを考えてみましょう。対面キッチンだとリビングからコンロやシンクの中が見えやすくなり、生活感を醸し出してしまうのは否めませんが、キッチンの床を少し底上げして見えにくくする方法など解決策はあるので、いろいろなパターンをシミュレートするといいでしょう。
オープンなアイランドキッチンは左右どちらからでも入れるので、回遊動線ができる。家族とのコミュニケーションもとりやすい。
家事動線をよくする工夫として、私が提案するのがキッチンに隣接するパントリーの設置。食品や飲料をストックすることが当たり前になってきているので、充分な収納スペースが求められています。それともう1つ。キッチンと洗面室・バスルームをつなぐ動線をつくり、その途中に収納を設置すると、回遊しながら収納ができるので片付けやすくなります。一つひとつの家事が効率よくできるというわけです。
動線を考えて、通り道にパントリーをつくると効率よく動けるように。
固定観念にとらわれずに
それぞれの“好き”を
取り入れた間取りづくりを。
大切なのは、設計士や工務店の方にしっかり要望を伝えること。その際、理由も合わせて伝えることが大切です。別の解決策を示してくれたりするので、選択の幅が広がるはず。第三者の客観的な意見は、軸を定めていくのに役に立ちます。
私の場合、設計図を書く前のご家族へのヒアリングは、趣味、好み、重視していることを聞き出すことを目的にしています。ご家族とLINEグループを作ることもあります。それぞれが服や音楽など“好き”なものの写真を交えて送ってもらいます。家族や夫婦の総意として送ってもらう必要はありません。「妥協の産物」になってしまいますからね。それらを取りまとめるのは、私の仕事です。
「家を買いたい」の前に「暮らしを変えたい」があるのが今の時代。家に生活を合わせるのではなく、自分たちが望む暮らしに合った家を求める人たちが増えています。間取りを考える上で重要なのは、固定観念にとらわれないこと。それこそが理想の間取りへの第一歩となるのです。