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東京・世田谷区の住宅街に建てられたI邸。小学生のお子様とご家族3人暮らしです。手狭に感じるようになった住まいの引っ越しを検討する中で、新築を選択。「片付けが苦手…」という奥様がめざした新しい住まいは、必要な所に必要な物がムダなくピタリと収まる、暮らしに便利で快適な機能的な空間です。とことん整理整頓にこだわった住まいづくりの収納計画をお聞きしました。
今回は、住生活アドバイザーのすはらひろこさんに、I邸の収納ポイントと、建てる前に考えておきたい収納アドバイスをお聞きしました。
キッチンからすべての部屋がみわたせる。I様希望の空間が実現。
階段は、トップライトからの光が差し込む。
玄関収納は、靴だけでなくコートなども収納できる。
扉を開くと靴を履いた状態で全身をチェックできる。
収納扉に付けた姿見で全身をチェック
玄関収納は、玄関に入って、左側に傘や靴を納める収納、右側には外出用のコートなどを掛けておける収納を配置しています。収納扉には、全身を映せる姿見を付け、靴を履いた状態で身だしなみをチェックできるようにしました。スタイルチェックができる姿見はとても便利です。
また、玄関近くの壁面には、小さな棚を取り付け、鍵や印鑑など、小物を置けるスペースも設置。玄関で応対する宅配便の認印や、外出時に忘れがちな小物をここに置いて活用しています。
濡れた状態で傘をしまっても水滴が下に落ちる仕組み。
玄関から見えない位置に作られた小物入れスペース。
玄関収納は、靴はもちろん、傘や上着など外出に必要なモノもしまえると便利です。Iさんのように、鍵のような小物をしまう場所が設計時に組み込まれていると、散らかりにくい玄関が実現できます。
ウォークインスタイルの靴収納の場合も、ハンカチや帽子のような小物をどこにしまうかを考えて計画しましょう。また、ゴルフや野球などのスポーツ用具、ベビーカーといった屋外で使う物を土間のスペースに収納できると、汚れを室内に持ち込まずにすみます。ペットと暮らす家庭では、犬の散歩用品などがしまえると嬉しいですね。
収納は、扉の代わりにロールスクリーンを採用
1階は寝室、洗面室、バスルームを配置。収納は、押し入れ収納、階段下収納、ウォークインクローゼットが設けられています。
I邸の収納の大きな特徴は、すべてに扉がなくロールスクリーンが取り付けられていることです。こうすることで、普段使う物は棚に置くように便利に出し入れができ、来客時など空間をすっきりさせたい時は、スクリーンを降ろしておくことができます。
押し入れは、前面と後面の両方から出し入れができるようにし、上段にハンガーパイプを2本設置。奥にも洋服が簡単に収納できるようにしています。下段には、布団などの大きなものを収納しています。
階段下収納は、奥に入れた物が取り出しにくくなりがちですが、押し入れ収納と同様に、2方向から取り出せるうえ、照明を付けるなど使いやすい工夫をしています。
収納は、出し入れのしやすさと、通気性も考えて扉はつけず、ロールスクリーンで対応。
■2方向から取り出せる押し入れ収納
どちらの部屋からも取り出せるようになっている。
■上から見たところ
仕切りがないので、奥行も無駄なく使うことができる。
使わない荷物の置き場になりがちな階段下収納もI邸では、出し入れがしやすいので、しっかり活用されている。
デッドスペースを作らないために2方向から取り出せる収納を
階段下も収納スペースにすることがよくあります。そのときに気をつけたいのは、階段下特有のデッドスペースです。奥行や高さを十分に使いこなすのは難しいスペースなので、Iさんのように2方向から使えるようにするのはいい方法です。また、照明をつけることによって暗がりがなくなり、どこに何をしまったのかが見やすくなり、その分だけ持ち物を活用する機会が増えます。階段下であっても、明るく風通しのいい収納にするのがポイントです。
■押し入れ収納のルール
押し入れを布団の収納として使うには問題ないのですが、衣類をしまうには奥行が深くて上手く使いこなせません。でも、Iさんは上中下段を設け、使い分けることで便利な収納を実現しています。出し入れのしやすい中段を洋服の収納場所として両側から出し入れできるようにしたことと、あえて扉を付けないというのが実用的です。押し入れとはこういう収納といった固定概念にとらわれず、どんな使い方がしたいのかといった発想を出発点にすると良い結果が得られます。
また、押し入れを計画する際のポイントは、「一目瞭然」ですべてが見渡せる収納にすること。引き違いの襖にこだわらず、観音扉にして全開できるようにするのも手ですね。収納内部の使い方としては、市販の押し入れ用収納用品を組み合わせて、深い奥行の使い勝手を調整するといいでしょう。
高さを合わせたテーブルと棚で、空間をすっきり
ダイニングテーブルは、高さをテレビボードとリビングを囲む棚に合わせています。こうすることで、リビング全体がスッキリと見えます。テレビボードは、引き戸にし、扉を2枚にすることで、スムーズに出し入れできるようにしています。
2枚扉は、開き戸に比べてスペースの節約にもなる。
■テレビボード下収納の工夫
(上から見たところ)
テレビボード下の収納は、2枚扉にし、中のものが取り出しやすいように工夫。
2Fリビングは、小上がりにしたことで、自由な使い方ができる。足元には、新聞がストックできるスペースを設けている。
ダイニングテーブルの下には新聞や雑誌がストックできるスペースがあるので、読み終わったらすぐに片付けることができる。
使う場所の近くに収納を設ける
家族が集まる場所には色々な物が集まってきて、ときとして散らかることがあります。居心地の良さを高めるには片付けることが必要。ですが、いつも片付けてばかりでは、疲れてしまいます。そんな困りごとを解消するには、収納が欠かせません。Iさんのように、モノを使う場所の近くに収納を設けることが肝心。
特にダイニングテーブル、ソファ、テレビまわりに注目。読みかけの新聞や雑誌といった置きっぱなしになりがちなモノでも、その場でサッとしまうことができれば散らかりません。目立たない場所に収納を設けたり、扉を閉めれば隠れる収納スタイルにするなど、インテリアにも気を配りましょう。子どものおもちゃ、ゲーム用品、ひざ掛けなど繰り返し使うモノは、バスケットやボックスといった収納用品でまとめるだけでもOK。使いやすさを優先して、家族の誰もが片付けられる方法をみつけたいですね。
壁が十分にある部屋なら、壁面収納にすると集中的に持ち物が管理できるので重宝です。本や家の書類、パソコン、趣味の品、花瓶などを一か所にまとめて収納することで室内が広々と使えます。隠し方や見せ方を工夫して、わが家ならではの収納を楽しみましょう。
普段はキッチンまわりの収納に。
来客時には引き出して調理スペースを確保。
ワインセラーが
ぴったり収まった食器収納。
キャスター付き調理台で、作業スペースを広げる
I邸では、料理好きのご主人が腕を振るう時に、キャスター付きの調理台を使っています。引っ越し前から使っていた調理台は、普段は、造りつけのテーブルカウンターの下に収まっていますが、料理する時には簡単に引き出せ、作業スペースが広がります。
造り付けの食器収納の下には、ワインセラーの専用の置場が設けられています。事前に持っていくことを決めていたので、無駄なスペースがありません。
食品庫イメージ
使う場面を想像して収納場所を決めていく
キッチンは、そこで使いたいモノの種類や数が多いのが特徴ですが、料理から片付けまでのプロセスは誰もがイメージしやすいはず。わが家の食生活を思い描いて、どこに何をしまったら使いやすいかを考えて、モノを配置していくのがキッチン収納の進め方です。
Iさん宅は来客が多く、ご主人も料理をされるとのことで、みんなで賑やかに作って食べられる。そんなオープンな場所としてキッチンが位置づけられています。食器収納がキッチンとダイニングとの間に設けられているのは、そのためです。食器棚はここにあるべきといった考え方ではなく、日常使いの食器はキッチンに、ティータイムと来客時に使う食器はダイニングといった具合に、使う場面を想像して収納場所を選びましょう。
さらに缶詰や乾物などの食品や、お正月や誕生会の時だけ使う器や道具もあるかもしれません。使う頻度が低くても、なくては困るといったストック品のために食品庫(パントリー)があると便利です。半畳ほどのスペースでも、棚で仕切っておけば立派な収納スペースになります。災害用の備品も一緒にしまえると安心です。
機能的なデスクまわりで仕事を効率化
家で仕事をされることも多い奥様は、仕事机の下に書類ボックス(A4ファイル)に合う棚を設けています。ぴったりと書類が収まり、無駄がありません。本棚も収納する書籍の高さを調べたうえで作られています。
家事の合間、切れ切れの時間に作業をすることの多い奥様にとって、いつもいるリビングにすっぽり収まるワーキングデスクがあることは、快適に作業を進める上で欠かせないと話されます。
どこに何を収納するか決まっているので、整理整頓がしやすい。
出し入れが面倒なファンヒーターにも定位置があります。
A4サイズを基準にして収納棚を作る
パソコンは、生活に欠かせない道具として、専用の置き場所が欲しいものです。プリンターと紙、書類、CDといった関連品もあわせて収納できると管理がラクになります。その際にはIさんのように、A4サイズを基準にして収納棚を計画すると無駄ができません。取扱説明書や保管書類などのほとんどが、A4サイズに規格化されてきているので整理しやすくなります。異なるサイズのモノでもA4のフォルダーを使えば、同じサイズで揃えることも可能です。
狭いスペースは家事動線を考えて合理化
洗面台の高さに合わせて作られた洗濯用品入れ。使いたいものが使う場所の近くにあることで、家事がスムーズになります。洗面室には、物干しハンガーを掛けられるフックを設置。洗濯物を干したら、そのまま外へ持っていけるなど、家事動線がしっかり考えられています。
洗濯用品をまとめて収納。
生活動線を考え、お風呂上りに必要な下着やタオルなどの収納を洗面室に。
洗面室に取り付けられた洗濯ハンガーを吊るすことができるパーツ。
家事の行程を想定して収納場所を決める
洗濯機で洗う、干す、取りこんでアイロンがけ、あるいはたたんで収納するといった洗濯は、家のあちこちを移動する作業を伴うことがほとんど。そこでIさんは、あらかじめ洗濯の行程を想定して、洗濯物をハンガーに吊るしてから、テラスへ移動して干すといった流れに沿って収納場所を決めたそうです。その結果として、天井には洗濯ハンガーを一時的に吊るせるパーツを付けたり、下着の収納家具を洗面室に置くといった方法にたどり着いています。
洗面室に洗濯機を置いて使う場合は、洗剤や道具もいくつか種類があるため、収納場所をきちんと確保しておかないと収まりきらないことも。そもそもタオルや入浴用品のストックなどもあるので、しまいたいモノは想像している以上に多いかもしれません。それなのに広さが限られているので、洗面台の下や洗濯機の上などのスペースを立体的に使いこなして収納不足を補いましょう。
同じ目線で考えてくれる建築家との出会い
I邸は、設計に際し既存の家具や購入予定の家具・設備機器などを事前に建築家に伝えたことで、全体の統一感につながっています。
住んでみて、「あれが足りなかった」「ここをこうすればよかった…」ということがこれまでにないというI様は、「満足の理由は、結局、十分に話し合える建築家と出会ったこと」と、話されています。
I様の建築家選びのポイントは、住む人の立場で(特に家に居る時間が長い主婦の立場で)、家事や掃除のしやすさを考えた家づくりをしていることだったそうです。
現在、奥様は家づくりの経験を活かし、建築家と一緒にワークショップを開催。これから家づくりを考えている方に、建てたからこそわかる情報をお届けしています。
所 在 地 |
: |
東京都世田谷区 |
設 計 |
: |
奥山裕生設計事務所 |
構 造 |
: |
木造2階建て |
敷 地 面 積 |
: |
103.36m2 |
建 築 面 積 |
: |
45.83m2 |
延 床 面 積 |
: |
83.79m2 |
各階床面積 |
: |
1階:42.10m2 |
竣 工 |
: |
2011年5月 |
工 期 |
: |
150日 |
居間
個室