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大阪府南部、関西国際空港を間近に望む住宅街に建つU邸。子育てを終え仕事もリタイアされたUさんご夫婦が第二の人生を楽しく暮らしていくため、自宅を建て替えた平屋建ての住宅です。シニアライフのためのバリアフリーに配慮しながらも、あえて一部に段差を残すことで、「コンパクトでありながら快適に楽しく暮らしていくためのさまざまな工夫」が凝らされています。間仕切りで広さを柔軟に変えられる居間、南側に水まわりを設置した大胆な間取り、四季折々の自然の光と風を感じることができる採光計画など、U邸の魅力をご紹介します。
30年以上の間、家族の暮らしを見守ってきた木造2階建てのU邸。お子さまも独立し、不要な部屋ができたこともあり、定年を機に夫婦二人暮らしにふさわしいコンパクトな住まいへのリフォームを検討しました。しかし、不要な2階部分の減築など具体的にプラン検討を重ねると、増改築を繰り返していた木造住宅は傷みも激しく、基礎や構造の補強費用など「見えないコスト」もたくさん必要になることが判明。平屋の住宅への建て替えへと方向転換し建築家へ設計を依頼したのです。建て替えにあたってお二人が考えたポイントは「自分達の身の丈にあった広さ、メンテナンスに煩わされることなくずっと快適に暮らしていける家にしたい」。そして、「兄弟や子供、孫たちが集まった時にも対応ができること」でした。
静かな住宅街に位置し、落ち着いたたたずまいを見せるU邸。道路からの邸内へ視線を遮るよう配慮されている。
Uさんのご要望に対して建築家が提案したのが「二人暮らしにふさわしいコンパクトサイズと、可変性を備えた居間の可能性の追求」でした。この住宅にはLDKという明確な区分がありません。家の中心に人が集まる場所として配置された居間空間を中心に、無駄を省いたコンパクトな間取りプランです。普段は障子で東側の和室と仕切られた居間で、座卓に座って仲良く夫婦二人の日常生活を過ごせる一方、兄弟や親戚が集まる際には障子を引き込み約20畳の大広間として、また子供や孫が遊びに来た時には居間スペースにも布団を敷くことで泊まることができます。
居間とも一体化したオープンキッチンは、床面を一段下げた設計にしており、居間の座卓に着いたUさんとキッチンで調理中の奥様の目線の高さが近くなり、会話もはずみます。「建て替え前の60坪の2階建て住宅では家の中でも離れて暮らす時間も多かった二人が、いつもそばにいて暮らせる空間にしたい」という考え方に基づいた設計です。Uさん夫婦が若かりし頃、30数年前の住まいは台所の隣に茶の間があり、お互いの気配を感じられる暮らし方をされていました。その暮らし方が現代風にアレンジされて見事によみがえったのです。
(上)居間を中心に、東側の和室、西側のキッチン、北側のテラスを一体化した大空間として利用できる。(下)和室の東側の壁には高窓と地窓が設置され、採光とともにプライバシーも確保。
主室である居間を中心にして浴室・洗面所などの水まわりを南側に、北側には庭を配置した敷地計画と光環境の設計もこの住宅の大きなポイントです。出歩くことが少なくなるシニアライフだからこそ、「日常の暮らしの中で、美しい自然と景色を眺められる住まいにしたい」というコンセプトに基づいています。
北側の大窓は、米杉で作られた格子戸を全面開放すると、室内からウッドデッキや庭までが一体となったパノラマ空間が広がります。木枠のサッシが額縁のようになり、玄関から居室へ足を踏み入れるとまるで一枚の絵のようにも思えてきます。一部に米杉張りを施した塀で隣家の視線を遮りながら、庭木には季節ごとの日射量を調整できるように落葉樹を植樹。北側に庭を設けることは、南側を向いて花をつける植物を正面から眺められるようにという設計意図もこめられています。
一方、居室の南側には高窓が設けられ、いつでも空を眺めることができ、冬場には暖かな日差しが居間に差し込むように設計されています。高窓のすぐ下・ロフト部分にはステンレスの反射板が組み込まれており、夏の高い太陽光はロフトで反射して天井面を照らします。また、ロフトには換気扇が設置され、高窓から入ってくる熱気を排出し、北窓からの清涼な空気を取り入れることを助けてくれる設計です。
夜になると、壁面上部に配置された電球色の間接照明が天井に反射、柔らかな明かりに照らされ陰影のある落ち着いた雰囲気に。高低のある室内空間と、存在を主張しすぎない照明器具を採用した照明計画とが一体となって、自然光のようなあかりで満たされた、豊かな生活空間が浮かび上がってきます。居間やキッチンには調光設備が設置され、現在は50%前後の光量での暮らしをこころがけているそうですが、将来的に視力が落ち照度がもっと必要になった際には簡単に調整ができる設計です。薄型テレビを設置する壁面部分も照らすことでテレビ画面と壁面の照度差を少なくし目が疲れないようにしています。
U邸では、バリアフリーリフォームにみられるような手すりなどは設置していませんが、玄関の靴箱やキッチンのカウンター、食器収納棚などは、手を添えるためにちょうどいい高さ80cmに設計されています。アプローチから玄関までを段差ができないようにスロープで結ぶなど、シニアライフへの備えが随所に見られます。
ただ、完全にフラットな家での暮らしに慣れてしまうと、外出時の些細な段差でケガをする可能性も高まります。昔の家には土間と居室の間に段差があり、この段差を上り下りすることが自然に筋力を維持することにつながっていたと言われています。U邸ではキッチン床面をあえて一段下げて、居室との間に2段分の階段を設けました。また、ダイニングテーブルやソファの暮らしではなく、座卓での生活は立ち座りを行う間にストレスにならない程度の負荷を体に与えてくれます。日常生活の中で、知らず知らずのうちに体を動かす機会を生み出してくれる住宅なのです。
「居心地がいいのか、訪ねてきた友人や親族の滞在時間が長くなりました」とおっしゃるUさんご夫妻。楽しく快適なお二人の暮らしが、きっとこれからも長く続いていくことでしょう。
(左)玄関の靴箱は高さが80cm。手すりの役割を果たしている。(中)キッチンカウンターも高さは80cm、仕切り板も手を添えることができる。(右)キッチンから見た居間との段差。
所 在 地 |
: |
大阪府泉佐野市 |
設計・監修 |
: |
一級建築士事務所 松浪光倫建築計画室 |
施 工 |
: |
コアー建築工房 |
構 造 |
: |
木造(在来工法)平屋建て |
敷地面積 |
: |
134.60m² |
延床面積 |
: |
61.13m² |
竣 工 |
: |
2008年12月 |
工 事 費 |
: |
約2,350万円(空調・家具・外構・造園含む) |
建築化照明 Home Archi Architectural Light(居間・キッチン)、
ダイニングペンダント(居間)、LEDフットライト(アプローチ・勝手口)