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日本海に臨む島根県大田市。浜辺から歩いて10分ほどの、のどかな住宅地に「階段形状」のI邸があります。教育関係のお仕事をするご夫婦と6歳になる双子のお子さんが暮らす住宅は、「友人・知人が集まる家」「暖かく明るい家」「プライバシーを守れる家」など要望をかなえるための、合理的なデザインです。住宅全体を「階段形状」にすることで、階段の段差を活かした窓を設け、自然光を採り込み、屋上部分はテラスとして利用できるなど、開放的でありながら、家族のプライバシーも守れる快適な暮らしを実現したI邸をご紹介します。
松江市内の賃貸アパートに住んでいたIさんご家族。お子さんには「自然の中でのびのび育ってほしい」との思いから、自然に恵まれた郊外での家づくりを考えました。ご夫婦が教育関係の仕事をされていることもあって、さまざまな人とのふれあいや、出会いがある地域の環境を大事に思われたのです。
車で通勤されることから、かなり広い範囲から、いくつかの候補地をピックアップ。最終的に奥さまのご実家の近くで馴染みがあり、駅や小学校などからも近い場所に決めました。敷地の南側が運動場になっており、畑地も点在するなど、自然に恵まれた環境もポイントとなりました。
設計に当たってIさんご夫婦が建築家に要望したのは、「暖かく明るい家にしたい」「教え子や友人が集まりやすい広々とした雰囲気の家にしたい」「リビングダイニングは、吹き抜けのような大空間にしたいが、高窓の拭き掃除など日ごろの手入れが大変なのは避けたい」「外からのプライバシーは守りたい」などでした。
それに対して、建築家が提案したのが、「階段形状」の家です。島根県の冬は、冷え込みが厳しく、海からの寒風も吹き付ける気候、敷地の条件、来客に対する考慮、家族一緒に過ごせる大空間、自然環境を取り入れた省エネ設計、家族それぞれのライフスタイルなど、一つ一つの条件をクリアしていく中で、南向きの敷地条件を活かし、風と光を効率的に住まいの環境に生かすことができるのが「階段形状」の家だったそうです。
なだらかな「階段形状」の外観が目を引くI邸。雨仕舞いなども壁面内に設置しているためにすっきりした印象。
Iさんご夫婦の「暖かく明るい家にしたい」という希望は、冬は曇り空が多く日照時間が短い山陰地方の厳しさを知っていればこその条件。この気候条件を踏まえて、南側の壁・屋根を一体化して緩やかな「階段形状」にし、さらに、段差に当たる蹴り込み部分に窓ガラスを設けることで、ここから多くの外光を家の中へ引き込むようにしています。太陽の位置が低い冬は、日が室内の奥まで差し込み、空間全体を暖めます。木漏れ日のような光が降り注ぎ、穏やかで明るい住まいが実現しているのです。逆に太陽が高い夏は、直射日光を遮り踏板に反射した柔らかな間接光を室内に取り入れ快適な室内環境を保ちます。
南側で地面から立ち上がり、北側で一番高くなる「階段形状」の勾配は、通風を採り入れ、循環させる面でも大きなメリットがあります。南端にある和室のジャロジー窓から取り入れた外気は、吹き抜け上部に溜まり、さらに暑い空気を北端のロフト上部のセンサー付き換気扇から排出されることになります。家全体の構造の中で、外の空気を利用した効率的な空気環境を実現し、足りない部分を補う家づくりの考え方です。
環境問題の意識が高まる中で、建築家は「できるだけ自然から発生するエネルギーを使うようにしたかった」と話しています。
和室にある窓は、プライバシー確保を考慮し、外からは見えにくく、逆に室内からは外の気配が感じられる配置となっています。
南面下部のジャロジー窓から外気を取り入れ、北側ロフト上部の換気扇へ、屋根の句配に沿った空気の流れができる。
階段の窓ガラス部分から光を取り入れ、木漏れ日のような光が差し込む。
傾斜天井全体から太陽光が差し込む。薪ストーブが団らんのアクセントに。
Iさんご夫婦が希望されていた「自然に囲まれた暮らし」は、内装部分にも反映されています。天井は、柱や梁をあらわしにして、北山杉の床柱を使用するなど、木の持つ温かみや素材感を大事にした仕上げになっています。
色調は、壁の白、床や家具の木目と、ドアや手すり、暖炉などは、色合いを抑えることで大空間をまとまりのあるものにしています。
あかりは、ダウンライトやペンダントライトで必要な部分を明るくし、部屋全体を陰影のある設計にしています。
LDKとバスルーム等を仕切る壁は、シナ材を古材風の塗料で仕上げ、落ち着いた雰囲気に。
天井にはマツ材、床にはクリ材を使用。作り付けの造作家具も、同じ素材を使用し統一感を生む。
Iさんご夫婦は、特に教え子や友人が集まる開かれた住まいを希望されました。屋根を屋上テラスとして使うことができる「階段形状」の屋根です。晴れた日には、階段に腰掛けて街並みを眺めながら読書も楽しめます。友人を招いてのバーベキューパーティーはもちろん、ご近所の方とコミュニケーションの場としても使えます。「階段形状」が、庭先や縁側のようなオープンスぺースの役目を果たすことで、住まいが閉鎖的にならずに、地域に対して明るく開かれた印象を与えています。
遊ぶのによし、腰かけても快適な、「階段形状テラス。タイルの色調や素材感が新鮮。
間取りは、1階南側に玄関、和室(6畳と板の間)、吹き抜けのリビングダイニングがあり、北側にキッチン、バスルームなど水まわり・ウォークインクロゼットなど、家事動線はコンパクトになるように集めています。
洗面室には、洗面ボウルを2台設置。朝の慌しい時間でも家族がスムーズに使えます。
また、夏は近所の海へ海水浴に行く機会も多く、外からバスコートを通って、バスルームに直行できるのも工夫の一つです。
2階はスタディールーム、子ども部屋、寝室のプライベートなスペースがあります。1階のリビングダイニングで一緒に楽しみ、2階のプライベートゾーンでプライバシーを保ちたいとの考えです。
その他、収納をすべて作り付けにすることで、すっきり整理された空間が実現されています。階段の壁面の本棚は、ご夫婦の書籍やお子さんの絵本をすぐ手にとれる状態に置きたいとの希望から。ハシゴなしでも読みたい本が手に届き、腰かけに座って読書ができる環境は、家族の憩いの場にもなっています。
Iさんご夫婦は、環境への配慮と、快適で便利な設備を追求され、薪ストーブを加えたオール電化を検討されました。エコキュートなら給湯が深夜電力利用で割安になり、しかもお湯切れの心配がないことが採用のポイントとなりました。オール電化を使うようになって、奥様は「夏場の調理が暑くなく、快適になった」と満足されています。冬に、薪ストーブはインテリアとして広いリビングダイニングで、暖かい団らんの光景に存在感がありますが、自然エネルギーと床暖房で十分、暖かい室内づくりが実現されています。
夏に、海水浴から帰宅する際、海水で濡れたままバスコートを通り、そのまま浴室へ直行できる。
階段沿いの作り付けの本棚は、書物の出し入れがしやすく、その場に座って読書を楽しむこともできる。
所 在 地 |
: |
島根県大田市 |
設計・監理 |
: |
y+M design office |
施 工 |
: |
あおき |
構 造 |
: |
木造/地上2階建て+ロフト |
敷地面積 |
: |
343.24m² |
建築面積 |
: |
110.46m² |
延床面積 |
: |
142.66m² |
竣 工 |
: |
2007年9月 |
工 期 |
: |
180日 |
うす型大画面テレビ、IHクッキングヒーター、エコキュート、床埋込型フロアコンセント、
ダウンライト
オール電化