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西側外観
交通量の多い道路と建物を木製の塀で隔て、騒音を和らげるとともに外観のアクセントに。
九州・熊本市郊外の幹線道路沿いに建つU邸。将来、自宅でのカフェ経営への夢を抱く、ご夫婦が暮らす住まいです。共働きの今は住まいとして快適に、将来はカフェとしても快適に過ごせるようなアイデアがちりばめられています。料理好きなご夫婦のライフスタイルを考慮し、「今」と「将来」両方の暮らしを視点に設計された住まいをご紹介します。
熊本市の中心街に向かう、幹線道路沿いの角地に建つU邸。郊外型の大きな駐車場を持つ店舗が建ち並ぶ中、ひときわ目を引く瀟洒な外観の「カフェ兼住宅」です。
住まいづくりに当たってUさんご夫婦の譲れない条件が「店舗兼住宅」。料理好きなUさんが、「美味しいものを食べて欲しい」と夢に抱くカフェの開業を、具体的に描くことから住まいづくりがスタートしました。
細かいプランへの対応や、施工をしっかり監理してもらえるとの期待から建築家へ依頼。住まいへの要望は、明快なもので、「営業許可が出る仕様と設備を入れて欲しい」、「居住スペースとカフェスペースを分けて欲しい」というもの。それに対して建築家の答えは、「住まいとカフェの両方を楽しめ、両立させる」こと。今の暮らしと将来、カフェを経営した時を考え、随所にアイデアが詰め込まれた住まいが誕生しました。
ペット連れのお客さんも想定して屋根付きのデッキ席も用意されている。
北側と西側が道路に面した敷地の北西角に3台分の駐車スペース。その隣りには、電動シャッター付きのガレージ(幅2m73cm×奥行き5m46cm)があります。
ガレージの奥には、食品などのストックルームがあり、そこから厨房への出入りができます。現在は、その利便性のよさから、内玄関のように使われていますが、カフェ営業時には搬入口として裏動線の役割を果たします。
駐車スペースから屋内を覗くことのできるガラス張りの壁面は、将来のカフェを意識したもの。中が見えることで雰囲気が伝わり、安心して入りやすいようにと工夫されています。
閑静な住宅街での隠れ家的なカフェを考えたものの、店舗経営を優先して幹線道路沿いの立地を選択。
駐車スペースから塀沿いに南に向かって歩道を10mほど進むと敷地への開き扉の入口があります。中に入るとアプローチが現れ、折り返すように今度は北に向かって、玄関(カフェ入口)まで10mほど歩きます。この程よい距離が敷地内をより広く感じさせると同時に喧騒を忘れさせ、ゆったりとした雰囲気づくりにも一役買っています。
アプローチには、白い砂利を敷き詰め、アクセントに枕木を敷いています。白い砂利は、光を反射させて屋内への導光の役割も果たします。
アプローチ周辺には、複数のコンセントが取られています。カフェの看板や入口、アプローチを照らす照明用など、カフェ営業時に欠かせない部分です。今は使われていませんが、後からつける場合は、工事が大掛かりになるだけではなく、位置や仕上がりなどの見栄えにも影響する部分です。設計段階から配線計画も取り入れ、先行配線がされています。
屋内の照明がルーバー状の塀の上からも見えるように、塀の高さを設定。
玄関(カフェ入口)は、数人が一度に立てる横幅のある上がり口でカフェ対応に。正面には、ガラス張りの吹き抜け状の階段室があり、2階や駐車スペースに面したガラス壁面から、明るい光を玄関にもたらしています。階段室をシースルーにすることで、玄関も広々した空間を感じさせます。
駐車スペースから見えた屋内は、この階段室です。U邸では、住まいとして生活している時も見られては困らない部分を外に向けてオープンにしています。
屋外は竹の植栽とルーバー、屋内はロールスクリーンで視線をコントロールできるようになっています。外に向かってオープンにしつつ、プライバシーも守るという微妙な距離感を階段室が保っています。
この階段室は、1階のカフェスペースと2階のプライベートスペースを緩やかに分ける役割もあります。
“見せる階段室”を念頭に、白を基調にした明るくお洒落な空間を演出。
今はリビングとして使われているスペースが、将来のカフェスペースです。4人掛けが4テーブル、カウンター席が5つ、デッキに3〜4人掛けが2テーブルの約30人分のスペースが確保されています。
U邸の構造は木造2階建です。3面開口でしかも間仕切り壁のない大空間を確保するために、綿密な構造計算もされています。
建物は形状を左右対称形にすることで強度が増します。U邸では、1階のガレージを除いた部分がT字型の左右対称形になっています。1階と2階をぴったり合わせ、T字の3カ所でバランスを取ることで、十分な耐震性となっています。
リビング(カフェスペース)は、通風や採光だけではなく、より広さを感じさせる3面開口の大空間が広がる。
エアコンはカフェ営業時を考えて、容量の大きい天井埋め込みタイプを採用。照明は、天井をすっきりさせて高く感じさせるように、スポットライトやダウンライトを採用しています。また、スポットライトはその日の雰囲気に合わせてフレキシブルに移動が可能な、レールを取り付けています。
床材は汚れや耐久性を考えてセランガンバツという屋外のデッキなどに使われることの多い、硬い南洋材を採用しています。椅子を引きずったりなどの使われ方に適応しながらも、住まいとして素足で歩いても気持ちがよいことから選ばれたものです。
セランガンバツは、風雨や日差し、温度変化による反りやひび割れ、ねじれの出にくい素材。月に数回の水拭きですむなど、メンテナンスが楽なのも特徴です。
奥が対面式の厨房、左手はアプローチ、手前にはデッキ、右手は庭。
カフェ営業となれば本格的な厨房機器が必要になります。Uさんご夫婦は将来のリフォーム時にではなく、業務用の厨房機器を最初から取り入れています。それは、カフェ開業への強い決意と、1日でも早く開業したいという思いからです。
ガスオーブン付きで、火力の強い5口コンロの本格的な設備が揃った厨房です。営業を意識した機器を導入する一方で、住まいとしてのデザインにも配慮をしています。
アンダーカウンターは使い勝手から業務用、上部カウンターは目に付きやすいため造作に。蛍光灯を上部に埋め込み、間接照明で演出しています。業務用のいいところと住宅用のいいところを取り入れています。
カフェ営業の条件でもある、
「厨房のWシンク」、「トイレ・洗面を別にする」をクリアし、すぐにでも営業可能な設備を整えている。
カウンターは、Uさんご夫婦の開業を待ち望み、試食に訪れる友人たちの席。カフェ営業時には、常連さん用に。
2階の居住スペースは、シースルーの階段室を上りきった正面に寝室、右手に収納ルーム、その隣りにはゲストルームと続きます。カフェ営業時には、1階のリビングスペースがなくなるため、寝室は寝る機能だけではなく、それ以外の時間もくつろげる工夫がされています。
日当たりも考えて南面に開口部とオープンテラス、21.53m²の広さと書斎スペースを確保したセカンドリビング的な寝室です。
また、寝室の床にある2本の溝は、可動間仕切りのレールです。今は、開け放ったまま使われていますが、カフェ営業時には1階からの音を防ぐ役割があります。可動間仕切りで、今と将来の生活にフレキシブルに対応できる空間になっています。
ゆったりした寝室は、セカンドリビング的な使い方も可能な仕様に。右手奥が書斎スペース。
寝室に面したオープンテラスは、お茶をしながらくつろぐこともできます。近隣から見えないように道路とは反対側の東に面し、寝室と廊下、バスルームに囲まれています。オープンテラスを中心に、回廊のような廊下を進むと突き当りがバスルーム。ちょっとした離れの気分です。動線をあえてつくることで雰囲気づくりをしています。
奥にバスルームを持っていくことで1階のデッキ上に位置し、万が一の水漏れもカフェ営業への影響が少なくすむようになっています。防水もシート防水ではなく、メンテナンスがしやすく補修が楽なFRP防水を採用しています。
Uさんご夫婦のカフェへの夢と建築家のアイデアで誕生したU邸。「住んでから気づく利便性など、発見があって楽しい家」という、Uさんご夫婦の快適な「カフェ兼住宅」を実現しています。
オープンテラスを中心に部屋が並ぶ2階。手前が寝室。バスルームへの廊下は、回廊のようで雰囲気のある空間に。
所 在 地 |
: |
熊本県熊本市 |
設 計 |
: |
矢作昌生(矢作昌生建築設計事務所) |
構造設計 |
: |
野口豊高建築構造設計 |
施 工 |
: |
岩永組 |
構 造 |
: |
木造2階 |
敷地面積 |
: |
208.14m² |
建築面積 |
: |
90.27m² |
延床面積 |
: |
147.84m² |
竣 工 |
: |
2006年4月 |
工 期 |
: |
約160日 |
工 事 費 |
: |
3,200万円 |