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南面が大きな開口部のK邸。ガラスとコンクリートの無機質な印象を、ベランダに茂る木が和らげている。(*)
都心への通勤が便利な住宅地の一戸建てです。敷地は74m²(22坪)で北東西の3方を隣家に囲まれるものの、道路と樹木の茂る公園に面した南面は、景観や陽光が存分に楽しめます。鉄筋コンクリート造(RC造)と木造の混構造による3階建ての住まいは、夫婦と子ども2人がのびのび暮らせるように各フロアがゆったりしたワンルームプランの間取りです。南北の窓とトップライト、それに外壁のガラスブロックの効果で、光と風が通り抜ける気持ちよい空間の住まいです。
施主のKさんは30歳代、奥様と小さなお子さん2人の4人家族です。以前は都内のマンションにお住まいでした。夫婦2人であれば住み心地のよかった1DKのマンションも、お子さんが増えるにつれて手狭に。新宿への通勤が便利であることを基準に、郊外や都心にこだわらずにマンションや一戸建てと幅広く探していました。
ところが、目にする住宅の多くは、部屋数を確保するためか、Kさんご夫妻には間取りが細分化され過ぎているように感じられました。様々な物件を目にする中で、「部屋数は少なくてもゆったりした空間が欲しい」と自分たちの希望の具体化に繋がりました。そこで、間取りなどを自由にできる一戸建て住宅に絞ることになりました。
ダークチェリーで統一された床材と家具、コンクリートとガラスの質感のリビング空間。奥は、バルコニー。
建築家との出会いは、建築家の手掛けた狭小住宅を取り上げた雑誌記事への問い合わせからでした。狭小を感じさせない設計に魅かれたKさんは、現在の土地の契約前に建築家に相談し、思い描くプランニングが可能かを打診。建築家に南が道路と公園という立地から、将来、建造物や日射が遮られる可能性が少ないことがメリットだとアドバイスを受け、購入を決心しました。
希望だった新宿への交通アクセスもよく、近辺の保育園など子育てに必要な設備も整っており、Kさんご夫婦の要望にかなった土地とめぐり合えたのです。
K邸の敷地は74m²で、北東西の3方を隣家に囲まれた、典型的な都市型狭小住宅地です。この地を活かすために建築家は、敷地の建蔽率も容積率も最大限に活用したボックス型の3階建てを提案しました。
トイレ、洗面、バスを集中させたサニタリースペース。壁で細分化せずにゆったりと使える。
Kさんからの要望は、「生活感を感じさせない、シャープでモダンな印象にしたい」、奥様は、「南仏のプロバンスのカフェのような素朴で温かな家に」という異なる要望と、「子どもたちのためにゆとりある空間にしたい」という共通の思いがありました。
Kさんご夫婦の考えを聞いた建築家は各階を1つのスペースとして利用するワンフロア・ワンルームの家を提案。1階に駐車場と夫婦の寝室、2階にはゆったりしたリビングとキッチン、バスなどの水まわり、3階には子ども部屋が用意されています。
建物のボリュームと採光と風の流れがしっかり計画されていれば、将来のライフスタイルの変化に対してどんなふうにでも使え、仕上げは好みにすればいいとの建築家の考えでした。そこからワンフロア・ワンルームの設計にたどり着きました。細部の変更はあったものの、最初のこのプランが採用されています。
明るくゆったりした空間の子ども部屋。将来は、2つに間仕切ることのできる設計に。
道路から眺めたK邸の外観は、立方体に格子が挟まったように見えます。1階は開閉のできる頑丈なスチール製格子がはめ込まれ、2階はその格子部分にガラスブロックが埋め込まれています。格子にすることで威圧感を抑え、視線や風通しを確保しています。
木製の玄関ドアの脇にははめ込みのガラス、ガレージと室内を分ける壁もガラスを採用。あかり取りの窓や上階からのトップライトを設置し、暗くなりがちな1階に自然光を導きます。
ご夫婦の寝室と書斎スペース、トイレ、そして来客時には和室にできる畳コーナーが設けられています。
寝室は間接照明で落ち着いた雰囲気に。
駐車場への出入り口もガラスにすることで視覚的にもゆとりを感じる。
玄関ドア横の壁面には、天井高までガラスをはめ込みアクセントに。導光の役目も果たしている。
2階には、生活の中心の場となるリビングとキッチン、バスとメインのトイレがあります。約20m²の広さを確保したリビングは、家族の生活の中心です。
壁面は片側がコンクリートの打ち放しで、もう片方と天井はオフホワイトのペンキ仕上げ。深い色目のフローリングとのコントラストがモダンな印象です。壁面に造り付けたサイドボード、テーブル、ソファなどを低くすることで、視線などが低い位置になり、仰ぎ見る天井ののびやかな高さを感じさせています。
バルコニーへのサッシは、折れ戸のように開放できるため、天気のよい日には、バルコニーとリビングを一続きで使うこともできます。バルコニーにはシンボルツリーのヤマボウシが1階から枝を伸ばし、ガラスブロックに写る公園のグリーン色の樹木とともに、潤いのある景観となっています。
キッチンは、既製のキッチン扉をステンレスに付け替え、スタイリッシュかつ清潔感のあるワークスペースになっています。トップライトと窓から自然光が入り、立ち作業になりがちなキッチンのワーク空間の圧迫感を和らげています。
設備には、安全性や機能面からIHクッキングヒーターや食器洗い乾燥機を導入。背面に収納と冷蔵庫が並びます。調理、後片付け、収納をキッチンに集約することで、家事動線も短く機能的になっています。
サニタリースペースは、30cm角のタイルとガラスの隔壁で、ホテルライクな印象に。収納の扉を鏡にすることで、コンパクトなスペースを広く感じさせています。
機能性を重視したキッチン。左に見える戸は、勝手口。コンクリート打ち放しの壁の上部にあるトップライトから、日が差し込み圧迫感を和らげる工夫も。
日当たり、風通しとも最高によい3階部分は子ども部屋です。現在は1部屋でプレイルームのように使われていますが、子どもたちの個室が必要になってくれば、間仕切りで2部屋に区切れるように設計されています。
K邸では、1、2階は鉄筋コンクリート造ですが、コストを抑えるために3階は木造にしています。木造の壁面全面にクローゼットが配され、本や家族の衣類が納められています。壁や床は、2階で使われていた材質よりもナチュラル感のある素材で仕上げられています。
南側の窓から陽光が差し込む部屋に、奥様は、子育てに自然の太陽の光の大切さを感じるようになり、夜型だった生活も昼型に変わったと、満足されています。
木の素朴な材質をそのまま活かした子ども部屋。等間隔の材を並べ、電球をアクセントのように天井に配した遊び心も。
建築家が当初提示したプランでは、建築費が予算よりオーバーしていました。とは言え、全体のプランニングは希望どおりだったことから、デザインは変えずにコストダウンを図りました。
トップライトの天上部分を強化ガラスからガラスブロックやポリカーボネイトに変え、床材や壁材なども機能性を損なわずに安価なものに変更するなど、細かい部分で費用を圧縮しています。一方、生活のメインとなる2階リビングは、素材感を落としたくないことから、メリハリのある素材選びをポイントに快適な住まいづくりを実現させています。
初期プランでは強化ガラスだったキッチンのトップライト。コスト面からガラスブロックに変更したが、光の表情が豊かになるメリットも。
所 在 地 |
: |
東京都世田谷区 |
設 計 |
: |
大塚泰子(ノアノア空間工房) |
構造設計 |
: |
クレモナ建築構造研究所 |
施 工 |
: |
吉野建設 |
構 造 |
: |
鉄筋コンクリート造(RC造) |
敷地面積 |
: |
74.08m² |
建築面積 |
: |
44.44m² |
延床面積 |
: |
120.00m² |
竣 工 |
: |
2006年5月 |
工 期 |
: |
約180日 |
(*) 印の写真は©大野繁