日々を楽しむ小さな工夫
編集者・フリーライター
一田憲子さんvol.3
「昔から古いものが好きだから、
家そのものに味のある
日本家屋がよかった」
一田さんが暮らすのは築55年の日本家屋。二間続きにしてリビングとして使っている和室の南側には広縁が広がり、今は珍しい手すき硝子が、庭から差し込む日差しに一層やわらかな表情をつけながら室内に光を広げます。
古い家屋を選んだのには、幼少期に数年間京都・舞鶴で日本家屋に暮らした時の楽しい記憶が根っこにあると言います。それからずっと後に、古民家を洋風に住みこなしている素敵な方を取材したことで、さらに憧れが強まったそう。
「古い家ってそれだけで力があって、光や影もインテリアの一部になる。手を加えなくても十分美しいんですよね」。
「ディスプレイを楽しむ暮らしから
少しずつシンプルな
しつらえに変わりました」
この家が気に入って暮らし始めて15年ですが、実はインテリアをシンプルに変えて、家そのものが持つ味わいを生かすようになったのは最近のこと。かつて、古道具や雑貨類を多く持っていた頃は、あちこちにディスプレイをして、古い家と雑貨のスタイリングを楽しんでいました。
「ただ、丁寧な掃除ができなくて、せっかくの雑貨もほこりをかぶる結果に。自分にはこういうスタイルは向かないなと学びました」。
その後は「古い物は雑貨よりも実用品で楽しもう」と家具を中心に設え、好きな雑貨を飾る時は、コーナーを絞ってポイント的に配置することに。管理に手間がかかる要素を間引いた結果、家の魅力がますます際立つようになりました。
「アートや植物には空間の
雰囲気を一変させる
エネルギーがあるんですね」
ディスプレイを絞り込んで徐々にシンプル化する一方で、新たに加わったものも。
「アートです。もともと絵なんて全然わからなかったのですが、ご縁があっていろいろと見るうちに、時折“パチン!”と響くものがあって。印象的に見せられるように空間のポイントになる位置に飾るようになりました」。
飾る場所はあらかじめ決めてあり、飾りきれない作品はストックして、気分や季節によって入れ替えているそうです。
また、一田さんのお宅の各部屋で季節感を放つ植物も印象的です。春先はクリスマスローズ、初夏はあじさい、夏はセージなど、庭で育てている花を生かすことも多く、玄関やリビングを装い、四季の変化を楽しんでいるそう。
「簡単に育てられるものが中心ですが、庭があるって豊かだなと思いますね。放ったらかしでも定着してくれた植物が毎年少しずつ生長するのが楽しみです」。
玄関にも、季節の花とアートをディスプレイしています。
これまで、「心地よく暮らせている?」というご自身への問いかけに対し、たくさんの試行錯誤を重ねてきた一田さん。50代の今たどり着いたのが、「縁あって手元に残した愛用品を上手に生かし、負担に感じたモノやコトは思い切って手放す」ことでした。
小さな発見や調整を繰り返しながら、ご自身のため、そして暮らしにまつわる情報の発信者として、今後も“問いかけ”は続きます。
玄関にも、季節の花とアートをディスプレイしています。
Fin
次回は、住まいコーディネーターの
高橋記子さんに登場いただきます。
Profile
一田憲子 Noriko Ichida
編集者、フリーライター。OLから編集プロダクションへ転職、その後フリーランスに。日々の暮らしのなかにある小さな発見や課題に焦点を当てて、雑誌や単行本などで執筆するほか、ムック『暮らしのおへそ』『大人になったら着たい服』(ともに主婦と生活社刊)を立ち上げ、企画から編集、執筆までを手掛けている。『暮らしを変える書く力』(KADOKAWA)、『日常は5ミリずつの成長でできている』(大和書房刊)、『大人になってやめたこと』(扶桑社)、『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』(SBクリエイティブ刊) など著書も多数。2016年から自身のウェブサイト「外の音、内の香」を主宰。
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