日々を楽しむ小さな工夫 
編集者・フリーライター 
一田憲子さんvol.2

日々を楽しむ小さな工夫019-vol2 考えるより、まずやってみる。その先にやっとヒントが見つかる

「人にできても、
自分にできるとは限らない。
それを理解して初めて
スタート地点に立てます」

一田さんは、ご自身の性格を“大雑把で三日坊主”と公言されていますが、若いころはそれがコンプレックスだったと言います。仕事で素敵なお宅を訪ねたり、丁寧な暮らしぶりを見たりする機会に恵まれ、緻密な収納方法や器づかい、生活ルールなどに感化されては実践し、うまくいかずにがっかりすることが多かったそう。

「どうしてできないんだろうって真剣に考えた時期があったんです。それで、結局どうやったって直らないんだという結論に至りました」。

十人十色。人には簡単でも自分にできないことがあるものと理解してからは、「どういう方法なら私にできる?」と考えをシフトして、自分にフィットする方法を探すようになったそう。それは、自分の癖や性質を見つめ、改めて自分を知る作業でもあったようです。

「やってみて継続できれば、
自分に合っているということ。
続かなくても、
解決のヒントが隠れている」

自分にフィットするかどうかの判断は、あれこれ考えるよりもまずやってみること。すんなり続けられれば自分に合っているということ。たとえ続かなくても、それはひとつの経験として残るものがあるはず。一田さんの場合は、自称“大雑把で飽きっぽい”という性質に照らし合わせて、やり方をアレンジしたり今後の参考にしたりしています。

使いやすく、美しく整えられたキッチン。

そうして定着するようになった暮らしのルールはいくつもありますが、なかでも顕著なのが掃除と収納です。
「四角い空間に丸く掃除機をかけるようなタイプで、多少ほこりが舞っていても気にしていませんでした」。
ところがあるとき、掃除のプロを取材した際に“毎日30分だけ”掃除することを教わったそう。挑戦してみたら、「雑でもいいから毎日続ける」ことでほこりが溜まりにくくなり、気持ちが軽やかに。30分で終えるために工夫するようになり、床置きしていた物を移動して掃除機をかけやすくしたことで、インテリアまですっきりしました。
「これは私に合ってる! と思いましたね。実際続いているんです」。

使いやすく、美しく整えられたキッチン。

  • ソファの足元に置いた大きなバスケットは、ご主人が頻繁に着用する衣類入れ。出しっぱなしにならず、掃除の際に簡単に避けられます。

  • 以前は、チェストやソファなど家具の下に本や荷物を入れていましたが、速やかに掃除ができるように移動。視覚的にもすっきりしました。

また、ある日の取材では、収納の達人が引き出しの中をきっちり仕切って見やすく整理しているのを見て感激し、その足で仕切りを買って帰り生活雑貨コーナーを細かく分別。ところが、定位置に戻すことは習慣化しなかったそう。そこで辿り着いたのが、ざっくりした種類別の箱に入れるだけの方法です。中は整理しなくても、仕分けさえしてあれば探しやすく、戻すときはポイッと入れるだけ。

一田さん宅のボックス収納。ラベリングして種類別に分け、“ただ入れるだけ”に。中は雑然としていてもチェストの扉を閉めればすっきり、という仕組みをつくりました。

「三日坊主という性質のおかげで、続けられるか否かの結果はすぐに出ます。また、一度方法を見つけても、さらにいいひらめきや出合いがあれば、すぐに試してみます」。
暮らしのなかにある作業をひとつひとつ拾い上げ、“トライ&エラー”を繰り返すことでようやく、“フィット”を導き出すヒントが見えてくるのです。

一田さん宅のボックス収納。ラベリングして種類別に分け、“ただ入れるだけ”に。中は雑然としていてもチェストの扉を閉めればすっきり、という仕組みをつくりました。

「継続するために無理をしない。
『できない日があってもいい』と
柔軟に考えています」

試行錯誤しながら自分にフィットする方法を見出してきた一田さんですが、心にとめているのは、ストイックになりすぎないこと。
「忙しい日も気分のすぐれない日もありますから、そんな日はさっさと諦めます。大切なのは継続していくことなので、“少しさぼっても大丈夫”くらいの緩さを持たせる方がいいんです」。

また、自分の変化に合わせて暮らし方を柔軟に変え続けることも意識しています。

ここ数年で大きく変えたのは、朝型へのシフト。夜になると集中力が落ちるようになってきたからです。実は、現在の住まいに越してきた15年前、新しい生活のスタートとともに切り替えようと、一度挑戦したことがありました。実際にやってみると、朝型にするためには寝る時間や食事など全ての行動がひもづくため、調整が難しいと気づいたそう。
「悩んでいたところに、取材先で『朝型に切り替えた』というお話を伺う機会があり、自分の失敗談を披露しました。そのとき頂いたのが『まだ必要ないからでは?』という言葉。ハッとしました。当時の私は朝型への憧れはあったものの、夜型の生活でも不便はなかったんです」。

50代に入り、いよいよその必要性を感じてからは、1日のスケジュールを変える覚悟も決まり、毎朝目覚まし時計の音と格闘しながら5時までに起床。半身浴で目を覚ます新しい習慣も加わりました。
目指したい理想の暮らしはあるけれど、必要に応じて切り替える柔軟性も大切。その時々の快適さを自分に問いながら、暮らしを更新しています。

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vol.3 一田さんの3つ目のルール
「“素敵”と“暮らしやすい”を
バランスよく取り入れる」をご紹介します。

Profile

一田憲子 Noriko Ichida

一田憲子さん 写真

編集者、フリーライター。OLから編集プロダクションへ転職、その後フリーランスに。日々の暮らしのなかにある小さな発見や課題に焦点を当てて、雑誌や単行本などで執筆するほか、ムック『暮らしのおへそ』『大人になったら着たい服』(ともに主婦と生活社刊)を立ち上げ、企画から編集、執筆までを手掛けている。『暮らしを変える書く力』(KADOKAWA)、『日常は5ミリずつの成長でできている』(大和書房刊)、『大人になってやめたこと』(扶桑社)、『丁寧に暮らしている暇はないけれど。』(SBクリエイティブ刊) など著書も多数。2016年から自身のウェブサイト「外の音、内の香」を主宰。

https://ichidanoriko.com/

一田憲子

noriichida

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