様々な条件下での特定天井改修へのヒント

意匠性・工期面をクリアし
黒川紀章氏の建築哲学を継承

福井県立恐竜博物館

広大な空間を覆う天井を、地震時でも安全性を確保できる現行法規を満たす造りに改修するにはどうすればいいか。
福井県立恐竜博物館は軽量天井材「エアリライト」をご採用され、地震時に脱落し重大な危害を与える恐れから解放。
設計を担当した黒川紀章建築都市設計事務所設計部課長に採用の決め手をお伺いしました。

黒川紀章建築都市設計事務所 齋藤織江様
黒川紀章建築都市設計事務所
齋藤織江 様

MOVIE

黒川氏の建築哲学を
未来へ継承していくために

そもそもこのプロジェクトは、博物館が開館より20年以上経過し、来館者数が当初の25万人から90万人まで大幅に増加したことにより、福井県で機能強化を検討した結果、増築と大規模改修を行うことになったものです。その既存棟は黒川紀章が生前自ら選定した代表作品のうちの1つです。黒川の建築哲学を継承し、未来へ受け継いでいくという観点から、増築・改修の設計はぜひ受注したい、という私たちの願いが叶いました。

PROBLEM

  • 黒川デザインを継承するため、
    天井の存在感を消すこと
  • 改修工事の閉館期間を最小限にすること

主役は、トップライト。
それが黒川氏のデザイン

地下1階から地上3階まで吹き抜けた広大な空間の主役は上空に向かって円錐状に伸びるトップライト。ほかの要素は、色を合わせたうえで存在感を消す。それが、故黒川紀章氏のデザインでした。

閉館期間を「最小限」に。
その要望に、発想を転換

この天井は、建築基準法令で定める「特定天井」に該当する高さや広さを持つため、改修時には脱落対策が求められました。一方で県からは、改修工事の閉館期間を最小限としたい、と要望されてもいました。

悩み抜いて最初に提案したのは、足場を組まずに天井の懐に入り、そこで天井材を吊っていたトラスから天井材を補強し脱落対策を施す、という施工方法です。この方法なら日中も夜間も施工可能なため、休館せずに済みます。しかし、作業員が万が一工事中に足を踏み外すと、非常に危険です。そこで、足場を組んで天井を張り替える前提で施工方法を見直すことにしました。

足場を組むとなると、改修工事中は休館せざるを得ませんが、県の意向を踏まえ、できるだけ短い工期で済ませる必要があります。また検討期間中は新型コロナウイルス禍だったこともあり、鋼材の価格が高騰し、様々な材料の調達に時間がかかるようになっていました。そこで発想をがらりと変えたのです。

ACTION

意匠性、工期面の課題をクリアするため
「エアリライト」を採用

#施工性が高い #色合わせが可能 #目地が目立たない

工期短縮のために
現場施工性の高さで
エアリライトが候補に

天井自体を軽くすれば「人に重大な危害を与えるおそれが低い天井」と見なされ、吊り材による補強をしないで済みます。ちょうどその頃、内装工事を手掛ける専門工事会社から、パナソニックハウジングソリューションズの不燃軽量天井材「エアリライト」を紹介されたこともあり、軽量の天井材に張り替える方向に改めました。

軽量の天井材は私もすでにいくつか目星を付けていたので、工期短縮のために複数の専門工事会社にどの製品が施工しやすいかヒアリングしたところ、有力な専門工事会社から“現場施工性の高さ”で勧められたのが「エアリライト」でした。

黒川デザインを損なわない
色対応と目立たない目地が
採用の決め手に

ただ、当初はほかの製品を利用するつもりでした。天井材の色を周囲の壁や柱の色と合わせられなかったためです。
吹き抜け空間にはもともと、クリームがかった白を用いていました。黒川のデザインを受け継ごうとするからには、これを変えたくない。でも、同じ色が既製品のカラーバリエーションの中になかったのです。色合わせできないという理由で採用を断念していたところ、専用塗料での現場塗装を可能にすることで色合わせできるようになった、と連絡をいただきました。

色合わせができるようになったことで、目地が目立たないという良さも生きてきました。ほかの製品では、天井材そのものは色合わせが可能でも、目地が目立つため、そこまで塗装する必要が生じてしまいます。目地が目立たない製品というのは、私が目を付けていた中には、「エアリライト」以外にはなかったように思います。

意匠性の観点から「エアリライト」の割り付けにも注意を払いました。天井面にはダウンライトをその形状に合わせて楕円状に配置するのですが、「エアリライト」はパネルの穴あけ可能範囲に制限があるため、現場で寸法を測りながら天井材の割り付けを決めていきました。足場を解体した後でズレが見つかったら困りますから慎重でしたね。結果的にズレなく納めることができて安心しました。

間近で見ても、思い通りに仕上がっています。ダウンライトもきれいな楕円状に配置できました。この空間の主役は、天井面の真ん中にうがたれたトップライトです。トップライトを目立たせ、それ以外のものは存在感を消す。それが、黒川のデザインでした。それをしっかり受け継ぐことができたと思います。

予定より工期短縮を実現。
コスト面でも優位性あり

工期は、想定より短く済みました。天井材を「エアリライト」に張り替える工程だけなら、10日間ほど。2週間強の予定でしたが、早く済みました。

私たちは黒川が手掛けた全国600件ほどの建築主に、改修するにしても意匠性を損ねないように、と声を掛けさせていただいています。「特定天井」に該当する高さや広さを持つ天井を改修する場合、鋼材での脱落対策はいま、コスト面の理由から難しいように思いますので、これからも軽量の天井材の出番は必ずあるはずです。
「エアリライト」はやはり見た目が良く、工期ばかりでなく、コスト面でも優位性がありますので、今後も改修案件の設計に携わる機会があれば、ぜひ採用していきたいと考えています。

福井県立恐竜博物館

恐竜に関する資料を中心とした地球史を学習できる国内最大級の博物館。巨大なドーム型の展示ホールが印象的。博物館の機能強化と来館者の満足度向上を目指し、2023年7月にリニューアルオープン。

大幅な軽量化により、
安全性と施工性が劇的に改善

エアリライト

一般的な化粧石こうボードの約12分の1の本体質量を実現し、設置時間も約半分に短縮。大地震等による万一の落下時の衝撃も大幅に削減し、室内の安全性も高めることができる。