( interview )
名古屋を拠点に、住宅リノベーションを手がけるEIGHT DESIGN。フルオーダーメイドで、つくる過程も日々の暮らしも「楽しむ」をデザインする。
2021年に完成した夫婦ふたり暮らしのマンションリノベでは「日々是好日」をテーマに、ささやかな日常や趣味を楽しめる工夫を散りばめた。
設計を担当したEIGHT DESIGNのデザイナー・福田さんにこだわりを聞いた。
──EIGHT DESIGNさんが家づくりで大切にされていることから教えていただけますか。
福田: EIGHT DESIGNらしさではなく、お客さまの“らしさ”が引き立つ家づくりを目指しています。事例が並んだときに、自分たちの色ではなくお客さまの色とりどりの個性が際立つような。あえて自分たちのスタイルや正解を持たないようにしています。
今の生活で困っていること、新しい家で叶えたいことを聞き取って暮らしやすさと実用性を大前提に、その先にある日々の生活が豊かに楽しくなる提案ができたらいいなと。


──お客さまの“らしさ”はどうやって見つけていくのですか。
福田: どういう人柄で、どういう価値観で、どんなことをしているときが楽しいのか。お客さまに成り代われるくらい広く話を聞きます。関係性を築きながらじっくり掘り下げていく感じです。
お客さまの意見が自分と違ったとしても、否定はせず受け止める。僕は助手席に座ってこっちに行ってみるのはどう?と提案しながら、一緒にドライブを楽しんでいるイメージです。運転席でハンドルを握って、どこに向かうのかを決めるのはお客さま。
家づくりのゴールに向かう過程も楽しんでもらいたい。家が完成したときに自分たちでつくった、という実感を手にしてほしいんです。

──過程も大切にしてらっしゃるんですね。EIGHT DESIGNさんを選ばれるお客さまの傾向はありますか?
福田: 音楽やキャンプ、車などこだわりの趣味がある方が多いですね。DJブースやガレージをつくりたいとか。
分譲マンションや建売のような多くの人が住みやすい家ではなく、自分たちにとっての心地よさを選びたい。“その他大勢”の常識にはおさまらない、遊び心がある家を求めている方が多いと思います。
──今回の物件にコンセプトはありますか?
福田: コンセプトは「日々是好日」。その心は、日々の普通の生活が幸せに感じられる家。キッチンでコーヒーを淹れるとか、窓の手前にひだまりが落ちるとか。クライマックス的な出来事ではなく、日常のちょっとした仕草が引き立つ家にしようと。
好きなものがはっきりしていて、奥ゆかしい雰囲気もあるご夫婦はとても仲が良くて。この家でふたりで過ごす何気ない毎日が特別なものになれば、という考えが根底にありました。
──素敵なコンセプトです。具体的にどう間取りに落とし込んでいったのでしょう?
福田: 第一に求められていたのは、余暇の最大化。ご夫婦の共通の趣味であるロードバイクとPCゲームを楽しむために、生活のノイズを取り除くことを徹底しました。
具体的にこだわったのは生活の細かな動線。例えば、玄関から通り抜けができるウォークスルークローゼット、脱衣所、洗面、寝室までをぐるっと一周できる動線に。
洗濯物は外干ししないとのことで、パジャマやタオルをドラム式洗濯機に入れて乾燥したものをそのままクローゼットに収納できます。

──趣味を楽しむ時間を確保するために、生活や家事の効率を重視したんですね。
福田: はい。食洗機や洗濯乾燥機のみならず、照明や空調の調整などスマート家電を取り入れて生活は効率的に。キッチンや水回りの生活導線、収納計画を徹底して、住みやすさと実用性を確保しました。
その上でロードバイクを飾れるガレージをつくり、自転車が眺められるようにリビングよりも過ごす時間が長いというゲームルームを隣接。モニターを4つ並べて横並びでゲームが楽しめるなど、ふたりの小さな幸せが引き出される間取りづくりを意識しました。
モニターの上にある小窓から自転車が見える
L字に配置したセパレートキッチンで動線をスムーズに
回遊性のある間取りプラン
スケッチの一例同化するドア
──デザインはどのように決めたのでしょう?
福田: 隠す収納で片づけ効率を重視して生活感が透けて見えないようにした結果、ホテルライクな意匠になりました。凸凹は最小限にして。
グレーの壁紙を起点に黒を散りばめて、ベースはモノトーンに。リラックス感が出るように、床の無垢材をはじめ木目やタイルなど温かみのある素材も取り入れました。
──ドアはどのような視点で選んだのですか?
福田: 今回のデザインのメインは和紙のような質感のあるサンゲツのグレーのクロスです。厚紙を折ってつくった箱のような見え方になるとおもしろいなと。ドアは壁に同化させることを重視しました。

ドア:VERITIS Standard Label(ベリティス スタンダードレーベル)PA型 カラー:ワイルドオーク柄(塗装対応) *グレーを塗装 引手:C1型 オフブラック色福田: ベリティスは無駄な意匠がないすっきりしたデザインが決め手になりました。引戸のおさまりもベストだなと。色柄はワイルドオーク柄にグレーのペンキを塗っています。
フルオーダーの場合、予算調整で既製品を選ぶケースが多いのですが、ベリティスの「塗れるドア」のように、自分たちで手を動かせる楽しみが加わると前向きな選択になりますよね。
壁や棚の木目とグレーに馴染むという視点で、洗面室と寝室にグレージュアッシュ柄の扉を選びました。
ドア:スタンダードレーベルPA型 カラー:グレージュアッシュ柄 引手:C1型 オフブラック色──今回の物件で、“常識におさまらない”個性はどこにありますか?
福田: やっぱりガレージですね。マンションリノベという限られたスペースの中で、無駄を省きつつ、ガレージにこれだけの広さを確保したのは思い切った選択だったなと。1階なので自転車の出し入れもしやすいですし。
ガレージは無骨なデザインが“常識”ですが、室内のテイストに合わせて温度感が漂うことにもお客さまの個性が現れていると思います。

導線、収納、ガジェットで家事を含む生活の効率を上げ、趣味を楽しみ、何気ない暮らしのシーンを味わう。記号化された“その他大勢”の常識ではなく、目の前の人の話を聴き温度を捉え、一つひとつの暮らしをデザインしていく。ほかの誰とも同じじゃない、カテゴライズできない色とりどりの個性に、EIGHT DESIGNらしさが宿るのだろう。
*記事内でご紹介した商品は、2025年12月1日時点の仕様となっております。
ご検討の際は、ショウルームやカタログ等でご確認ください。










