( interview )
躯体が剥き出しになったリビングのコンクリートの壁に窓から陽の光が差し込む。引っ越したてのようなモノの少なさなのに、そこにはしっかり暮らす人の気配がある。
このミニマルな空間の家主はYASUKICHIさんとmaicoroさんご夫婦。2018年に築23年のマンションをリノベーションした。
どんな思考で空間づくりを進めたのか。ミニマルな暮らしの極意とは?
maicoroさんとYASUKICHIさん福岡でヘアサロンを営むふたり。東京からYASUKICHIさんの地元である福岡に戻ってきて、“好きな家に住める”タイミングでマンションの購入を検討した。
YASUKICHIさん「当初はリノベ済みの中古マンションを探していたんですが、たまたまサロンのお客さまにリノベ会社の方がいて。予算も含めて提案してもらったので、お願いすることにしました」
ご縁のあったアイケンジャパンと家づくりがスタート。理想に掲げたのは「倉庫みたいな家」。
YASUKICHIさん「もともとモノが少ない暮らしをしていたので、備え付けの棚とか収納はいらない。海外の古い倉庫みたいな家がいいと思っていたんです」
間取りは3LDKから2LDKへ。リビングを広げて寝室と小部屋を設けた。リビングのガレージ感の決め手になっているのが躯体が剥き出しになった壁と天井。


YASUKICHIさん「最初にお願いしたのが、リビングの躯体をあらわにしてほしいということ。壁を剥がしてみないと状態がわからなかったんですが、整っていないムラのある壁がかっこよかったので、手を加えずにそのまま活かしました」

リビングの一部の壁はプロジェクターを映すことを目的に凹凸のない白いクロスに。そのほかはしっくい調のクロスを選んだ。床は無垢材の明るいメープル柄に。
YASUKICHIさん「床も土間にしたかったんですけどね。マンションの規定上難しかったので、フローリングから選びました。木の質感が裸足で歩いたときに気持ちがいいんです」
打ちっぱなしの壁にするという希望を叶えたYASUKICHIさんは、ドアのセレクトをmaicoroさんに託した。
色数もデザインもミニマルなリビングに佇むのはVERITIS Craft Label(ベリティス クラフトレーベル)のLH型、ブルーグレーオーク柄のドア。
ドア:クラフトレーベルLH型 採光部:透明熱処理ガラス カラー:ブルーグレーオーク柄 ハンドル:B1型 真鍮色蝶番は他のドアの取っ手と合わせてオフブラック色に。ドア枠は壁に馴染ませるためホワイトに。
maicoroさん「カスタマイズできる選択肢の幅が広かったのでベリティスがいいなと。もともと部屋に窓を付けたかったんですが、予算上叶わなくて。ドアから光を取り入れられるように採光部のあるデザインにしました。ハンドルを真鍮の握り玉にしたのもこだわりです。
色柄は彼が映画『かもめ食堂』が好きなので。かもめ食堂の腰壁の北欧ブルーを思い出して、ブルーグレーオーク柄にピンときたんです。アクセントにもなるさわやかな色味が気に入っています」
maicoroさんの言葉に「僕のことをよくわかっているんです」と顔をほころばせるYASUKICHIさん。お互いを理解し尊重するふたりは、リノベの過程でぶつかり合うことはなかったのだとか。

リビング以外のドアは白いクロスに馴染むホワイトオーク柄のドアに。取っ手はオフブラック色で統一した。
モノが少ない暮らし
倉庫のようなシンプルなリビングにある家具はダイニングテーブルと2脚のチェア、小さな棚が2つと1人がけのソファのみ。収納はクローゼットとパントリーだけ。モノが少ない暮らしを選ぶ理由は?

YASUKICHIさん「最初はモノが少ない方がかっこいいなと減らしていったんです。手放して大事なモノだけ残したら、自分の理想の暮らしが見えてきて。空間の余白が心の余裕にもつながる実感がありました」
自分にとっての心地よさを求めていった先に行き着いたミニマルな暮らし。引っ越してきた当初はあった大きなソファも1人がけの小さなチェアに買い替えた。
YASUKICHIさん「家具が少なく小さいので模様替えがしやすいんです。僕は1ヶ月に1回くらいの頻度で模様替えをするんですが、小さな変化でも気分転換になる。好きに暮らせる自由を感じるんです」
家具はすべて福岡の北欧ヴィンテージショップで1点ものを迎え入れてきた。選ぶ基準は部屋に馴染む濃い木目であることと、大きすぎないこと。高さは椅子に座ったときに目線に入らない600mm以下のものを選ぶようにしている。

生活を重ねていくとどうしてもモノは増えていってしまう。だからこそ家づくりでは「収納は多い方がいい」という通念もある。モノが少ない暮らしを保つ極意はあるのだろうか。
YASUKICHIさん「一つ増やしたら一つ減らして総量を増やさない。所有するモノが少ない分、今は価格を抑えた良いものもありますが、良いなと思ったものが高くても、できる範囲で買う選択をしています。需要があるいいものは自分にフィットしなかった際に買い取ってもらえるので」
そもそもモノが少ない暮らしのスタートラインに立つのも難しい。
YASUKICHIさん「モノが少なければいいというわけではなくて。モノを手放すことは目的ではなく手段。モノを手放す過程で自分にとって心地よいモノの量、その先にある理想の暮らしを見つめることが大事だと思っています」
ふたりの時間を
この家でふたりで暮らし始めて7年半。グラノーラを焼いてコーヒーを淹れて、ダイニングテーブルで向き合って朝ごはんを食べる。YASUKICHIさんがソファでアニメを観て、maicoroさんがカウンターでアクセサリーをつくる。この家で過ごす、そんなふたりの時間が心地よい。
YASUKICHIさん「同じ空間にいながらそれぞれの居場所がある。やりたいことに没頭できる時間が好きですね」
maicoroさん「自分たちが選んだモノがある、好きな空間に身を置いている。窓から夕陽が差し込むとか、ふとした瞬間に幸せを感じます」
DIYでキッチンの壁を塗ったり、収納動線を変えたり。心地よい暮らしを探求するふたりは、理想の暮らしを更新し続けている。これからやりたいことは?
YASUKICHIさん「叶うなら床をライトグレーにして、幅木をなくしたいですね。リノベをしたときは幅木にまで目線がいかなかった。けど、細部に美しさが宿ると今は思うので。空間とモノと向き合いながら、心地よく穏やかに暮らしていきたいです」

シンプルな空間に佇むブルーグレーオーク柄のドアには相手の“好き”を尊重する思いやりが映し出されていた。モノを手放す過程、家づくりを通して自分の好きの輪郭を確かめたふたりだから、相手の好きも大事にできるのだろう。理想の暮らしを見つめた先に流れる穏やかな時間。ミニマルだけど、だからこそふたりの温度が漂う暮らしがそこにあった。
拭くと福が来る「拭く活(福活)」や暮らしの時間を楽しむ「暮時楽-クジラ-」を実践し、Instagramで発信。整理収納アドバイザー。
- https://www.instagram.com/84kichi/
夫婦ふたりのシンプルな暮らしをInstagramで発信。アクセサリーやイラスト制作も手がける。
- https://www.instagram.com/01coro/
*記事内でご紹介した商品は、2025年9月15日時点の仕様となっております。
ご検討の際は、ショウルームやカタログ等でご確認ください。










