( ドアで魅せる家づくりのヒント集 )

( ドアで魅せる家づくりのヒント集 )VERITIS MAGAZINE

( interview )

モデルハウスをアートギャラリーに?

2023.10.10

text
徳 瑠里香
photography
きるけ。

モデルハウスを
アートギャラリーに?

山﨑建設

新潟県妙高市を拠点に、創業から100年以上、地域に密着し続ける総合建設会社「山﨑建設」。

この夏、山﨑建設は上越市に新しく建てたモデルハウス「大和の平家」を、新潟の作り手の作品を通して衣食住のライフスタイルを提案するショップ兼ギャラリー「HOUSE OF OUR MOMENTS」として開放した。一年限定で、展示される作品は、春夏秋冬ごとに変わる。

新しいモデルハウスのかたちに挑む経緯や背景にある思いについて、山﨑建設3代目社長・山﨑健太郎さんに伺った。

行き過ぎない“心地よいふつう”を突き詰める

──最初に山﨑建設さんの強みからお聞きしたいのですが、創業から100年以上の歴史があるんですよね。

山﨑: はい。当社は1916年(大正5年)に薪炭・製材を扱う材木会社として創業し、祖父がその土建部として建設業をスタートさせました。道路や橋、行政施設などの公共事業をメインに工事を行ない、1980年代半ばから民間住宅事業にも着手し、現在に至っています。

公共事業に長く携わってきたことから現場管理の経験が豊富なので、品質管理の徹底された現場から生み出される高品質な住まいを提供できることが私たちの強みだと感じています。2001年にパナソニックビルダーズグループに加盟してから「テクノストラクチャー工法」の住宅も約200棟以上建築していますが、品質管理にはプライドを持って施工に当たっています。

──数多くの公共工事を手がけてきた実績と経験で、構造から安心安全をベースとした家づくりを行っているのですね。

山﨑: そうですね。当社がこだわっている品質とは、躯体(構造)をはじめ目に見えない部分が多いかもしれません。そのためか、目に見えるデザインという点では、当社は飛び抜けた個性のない至って“ふつう”な住まいを建築してきたことに気付きました。それを逆手に取り、 “つきつめた ふつう”をコンセプトに掲げ、当社がこれまであたりまえに積み重ねてきたこだわりを押し出したフラッグシップのようなモデルハウス「大和の平家」が完成しました。

モデルハウス「大和の平家」のコンセプトは“つきつめた ふつう”

──山﨑建設さんが突き詰めた“ふつう”ってどんなものなのでしょう?

山﨑: 明確な定義はありませんが、一言で表すのなら「シンプルであること」と言えるでしょうか。無駄を削ぎ落とし、特別な主張はせず、慎ましくあること。「大和の平家」は家事導線など暮らすことの必要最低限を優先させつつも、住む人それぞれの“ふつう”を受け入れられる器のような住まいをイメージしています。

建材も当社の標準仕様のものを採用しています。基礎(土台のコンクリート部分)もデザイン性に捉われない当社の標準、少し高めの降雪地仕様です。あくまで暮らしやすさを優先し、すべてにおいて行き過ぎない「心地よいふつう」を突き詰めました。

経年変化を楽しむ、
シンプルな色合い

──具体的な家づくりにおいて、どんな“ふつう”を突き詰めたのでしょう?間取りのこだわり、平家にした理由もあれば教えてください。

山﨑: まず間取りは、主役となるアイランドキッチンを中央に配置し、そこから水回りと居室へ家事導線を直線でつなげたシンプルな設計です。

平家にした理由は、暮らすことの必要最低限を突き詰めた美しさを際立たせたかったことです。同時に、部屋数を減らしてミニマルな空間をつくることで、丁寧さや慎ましさを感じとってもらいたかったこともありますね。

──デザイン面はどんなことを意識したのでしょう?

山﨑: 住む人それぞれの“ふつう”を受け入れるために、主張を抑えることを意識しました。窓枠と廻り縁(天井と壁の見切り縁)をなくし、巾木(床と壁の見切り縁)は細身の「スマート巾木」を採用。色数を抑え、床や建具は普遍性の高いナチュラルオーク、天井と壁は漆喰調のオフホワイトで統一した2色展開です。モデルハウスは様々なデザインパターンをお客様に提案する必要があるため、1階と2階でトーンを変えたり、複数のカラーバリエーションを入れることが通例なのですが、「大和の平家」は部材と色味を絞り込んでいます。

ドア:スタンダードレーベル PA型 カラー:イデアオーク柄 ハンドル:A2型オフブラック色

──リビングに面する3つのドアが空間に馴染んでいますが、決め手は色味ですか?

山﨑: その通りです。標準仕様であるVERITIS(ベリティス)のイデアオーク柄、デザインは飾りのないStandard Label(スタンダードレーベル)のPA型です。取手はスタイリッシュなA2型、サッシの色と揃えたオフブラック柄を差し込みました。

尖ったトレンドのデザインは、時を経て廃れてしまうものも少なくありません。数十年後も色褪せない、経年変化を楽しめる普遍性の高いデザインを選定しています。

床は、ドアと同系色のパナソニックのアッシュクリア。リサイクル木材や環境に配慮した塗料を使った「サスティナブルフロアー」を採用しています。当社が行なっているアップサイクルの取り組みとの親和性も高い。パナソニックのサスティナブルフロアーはCO2削減に貢献できることに加え、無垢材のような風合いを楽しめる質感も魅力的ですね。

環境に配慮した塗料を使った「サスティナブルフロアー アッシュクリア」
歴史を継承する“いいもの”に
触れながら暮らす豊かさを

──環境に配慮しながら“ふつう”を突き詰めたこのモデルハウス「大和の平家」は、1年限定でギャラリー兼ショップとして開放されています。おもしろい取り組みだと思うのですが、どんな経緯で始められたのでしょう?

山﨑: インテリアショップを営む私の友人が、民芸品をリデザインしたプロダクトも販売しておりまして。彼の不易流行の考え方が、空家再生や廃材活用などに取り組むアップサイクルの理念と見事に重なりました。彼がディレクションを引き受けてくれたことで、「新潟の慎ましく丁寧な暮らし」を発信したいという共通の想いが形となり、今回のギャラリー「HOUSE OF OUR MOMENTS」の開催に至りました。

「衣・食・住」をキーワードに、「大和の平家」にて新潟県産の良質なプロダクト(家具・雑貨・クラフト・アート)を展示し、1年間限定でギャラリーを開いています。

モデルハウスに飾られている、新潟の作家がつくる工芸品

──すでに多くの作品が空間に溶け込むように展示されていますが、作品はどのように選ばれているのでしょう?

山﨑: まず新潟という地域性があること。そして伝統や技法の本質を守りつつも形を整え、移りゆく時代に順応しているプロダクトを選んでいます。今回は約20人の作家さんに参加してもらっているのですが、プロダクトには一つ一つストーリーがあり、それでいて誇張はせず生活に馴染むものばかり。奇抜なアートというよりは、暮らしを囲む道具の延長線上にあるものを展示しています。

──今後、展示される作品は変わっていくのでしょうか?

山﨑: そうですね。現在は夏の会期になるのですが、今後は秋・冬・春と、四季に合わせたプロダクトを展示していく予定です。また、展示だけではなく、例えば花師の作家さんからフラワーアレンジメントのワークショップを開いてもらうなど、ものづくりによる交流が生まれる場としても活用していきたいと考えています。

──モデルハウスでもあり、ショップ&ギャラリーでもあり、イベントスペースでもある。可能性が広がる場所ですね。

山﨑: はい。単にモデルハウスをつくりたかったのではなく、ワクワクできる空間をつくりたかった。来場される方には、地元の作家さんがつくる“いいもの”に触れ、暮らすことの豊かさを感じるきっかけにしていただけたら嬉しいですね。

新潟ならではの
春夏秋冬を味わう

──このモデルハウスは、1年後には売却されるのですよね。ここではどんな暮らしが叶うのでしょう?

山﨑: はい。「大和の平家」は1年間ギャラリーで使用した後、2024年春がお引き渡し時期になる物件です。あくまで家とは器なので、どのような暮らしが叶うかは住む人次第。その人の色に染めてもらいたいと思っています。

立地環境としては、自然豊かなパノラマビューと風がよく抜けるロケーションなので、移り変わる上越の四季を目と肌で存分に味わっていただけるかと。町内のお祭りを始め、古き良きコミュニティがしっかりと生きている場所でもあるので、地域交流も楽しんでいただけると思います。

──移り変わる四季を味わうという点では、リビングの大きな窓から見える田園風景が本当に美しいですね。

山﨑: ありがとうございます。田植えから稲刈り、そして冬には真っ白な雪原に鳥が舞い降りる新潟ならではの田園風景を味わってもらえるよう、幅広の掃き出し窓を採用しました。また、南面のピクチャーウインドウからは地域のシンボルでもある妙高山を眺めることができます。

──新潟だからこそ叶う暮らしの豊かさが想像できます。

山﨑: この地で100年以上の実績と経験を積んできた私たちだからこそ追求できる、「新潟の慎ましく丁寧な暮らし=豊かな暮らし」を発信、提案し続けていきたいですね。これからも“心地よいふつう”を突き詰めてまいります。

暮らしやすい導線を反映した間取り、オークと白を基調としたデザイン、伝統を継承しながらも現代の生活に馴染むインテリア。時を経ても古びないように、住まう人の色に染まっていけるように、シンプルを極めた。山﨑建設が“つきつめた ふつう”を体現した「大和の平家」は、モデルハウスとして、ショップ兼ギャラリーとして、これからも新潟ならではの民芸品や春夏秋冬を味わえる豊かな暮らしを提案していく。