( ドアで魅せる家づくりのヒント集 )

( ドアで魅せる家づくりのヒント集 )VERITIS MAGAZINE

( interview )

LDKを疑い「新たな時間」をデザインする

2023.06.01

interviewer
田中佳佑(NEWPEACE Inc.)
text
徳 瑠里香
photography
森 亮

LDKを疑い「新たな時間」をデザインする

クリエイティブユニットgraf

大阪を拠点に、「暮らしを豊かにすること」を芯に置き、家具の製造販売から、コミュニティデザイン、建築まで幅広く展開するクリエイティブユニット「graf(グラフ)」。

既存のカテゴリーにおさまらないgrafの仕事はどのように生まれているのか。削ぎ落とされた余白に個性が滲み出る空間はどのような思想でつくられているのか。

計246件の応募が集まった「VERITISくらし空間コンテスト」で審査員を務めた、grafクリエイティブデレクターの服部滋樹さんと、プロダクトデザイナー松井貴さんに語ってもらった。

異業種が集まって、
新たな仕事をつくる

プロダクトデザイナー、設計、企画、広報、料理人、家具職人。grafには、専門分野が異なる人たちが集う。複数の異業種の掛け合わせた組織のあり方が、grafの仕事をかたちづくっているという。

服部さん「ものづくりを中心に、異業種が集う組織で新たな仕事をつくり、社会を巻き込むようなかたちで展開していくのが、僕らの事業だと思っています」

たとえばお店の空間設計を担当するとき、grafは設計のみならず、そこに置く家具の製造、プロダクトデザイン、空間をデビューさせていくためのコミュニティデザイン、空間を活かすイベント運営までを一事業体で展開していく。

服部さん「僕らはコストや目的にあったアウトプットにとどまらず、その周辺にある、まだ見えていない課題にアプローチしていきます。“クロスイノベーション”と言われるように、ジャンルを越境して、新たな仕事を生んでいく。それは異業種が集まる組織だからこそできることだと思います」

松井さん「grafは1998年に、インテリアショップで出会った異業種の友人たちとスタートした活動です。そこからメンバーが増えて、仕事の幅がどんどん広がっています。異業種が集まる組織の仕組み自体がそのまま提供できるソリューションの幅の広さになり、僕らも想像できていなかった新たなカテゴリーの発見、新たな提案につながっています」

grafが目指す理想は、産業革命が進んだ十九世紀に、ウイリアム・モリスが思想家や建築家を巻き込んで起こした『アーツ・アンド・クラフツ運動』。職人の手仕事に回帰し、生活と芸術を統一することを主張し、装飾、インテリアを生んだ。

服部さん「僕らは今、二十一世紀の価値観を生み出すタイミングに立たされていると思うんです。アーツ・アンド・クラフツ運動がそうだったように、新しい技法を生み出し、メンバーを集めて実装する仕組みをつくることで、新しいカテゴリーが生まれていくんだと思います」

対話を生み、
個性を引き出す「隙間」を残す

grafが手がける仕事のひとつに、デザインから仕入れ、製造販売までを一貫して行う家具づくりがある。たとえばその中で、2011年に発表したオリジナル家具シリーズ「TROPE(トロープ)」には、grafの哲学が宿る。

服部さん「個人の選択ができるはずなのに、メインストリームが消費行動を促していることにその頃からずっと違和感を持っていて。みんなにとっての“ちょうどいいもの”を揃えていくと、個性は消えていくわけですよね。ものが溢れて、野生が失われ、進化が途絶えてしまっているのではないか。じいちゃんばあちゃんは一つの道具を2〜3通りの用途で使っている。ものの細分化が進んだ今、僕らはそれぞれの用途に合ったものが与えられていて、考えなくても行動ができる。

このままでは、単なる消費者となって、“よき生活者”ではいられないんじゃないか。ものづくりはつくり手と使い手である生活者の対話であり、両者が切磋琢磨できる関係を築けなければ、破綻してしまうと思うんです。そうした問いかけがTROPEをつくった初期衝動でした」

あらかじめ決められた用途や役割がないTROPEは、使い手が想像力を添えながら、関係性を育んでいくことになる。

撮影:下村康典(Shimomura Photo office inc.)

松井さん「どう使うかが問われるので、使い方に個性が出る。ある意味“不便な道具”ではあるけれど、それぞれ違う目的をカバーできる包容力のあるものをつくりたいんです。余白があって、プラスマイナスゼロになるような」

服部さん「TROPEに限らず、僕らのプロダクトはぜんぶ、“隙間”をデザインしています。具体的に言えば、TROPEは40%、活動当初から制作しているシリーズNarrative(ナラティブ)は20%の隙間がある。人が関わる隙間をどう残すか。完成したものを鑑賞するのではなく、ある種“未完成”を届けて、人が介在する余地を残し、対話を生む。それがデザインだと思っています」

LDKの概念を取っ払って、
暮らしの時間軸から考える

grafは家づくりをするとき、住まい手一人ひとりに「100の質問」を投げる。「珈琲を飲みますか?紅茶を飲みますか?」「新聞を読みますか?」「デザートを食べますか?」「家に人を呼びますか?」と。

服部さん「そうした質問の答えから、暮らしの時間軸が見えてくるんです。家づくりは、その人が24時間をどう生きているかと太陽のサイクルの組み合わせで考えています。何百年も続いている生活のスタイルは変わらないので、玄関は100%開かれている空間、縁側は50%、寝室は0%と、その場所が何%開かれているかから考えることもできる。住まう人の時間が、2ステップでも3ステップでも開かれて、躍動的に生きることにつながったらと思いながら、空間設計をしています」

世の常識を疑いながら、住まう人の個性に寄り添うgrafは、家をLDKありきでは考えない。

服部さん「僕らはLDKを疑うっていう思想を持っていて。LDKはもともと人口が増えて、マンションタイプの住居が中心になった際に、主婦の生活導線革命のために生まれた概念なんですよね。以降、暮らし方が変わっているにもかかわらず、ずっとLDKに束縛されている。LDKが本当に住まう人の暮らしを充実させるのかは疑って考えたほうがいいと思っています」

松井さん「僕は家具を、食べる、眠るといった、24時間のルーティーンに深く関わる道具だと考えています。たとえば、ソファは見た目よりも、クッションの中身にこだわっていて、リラックスできる状態をデザインしている。LDKという概念をなくしたときに、ソファがある場所が寛ぐ場所から眠る場所になるかもしれない。空間の設計や家具づくりは、その人の暮らしやルーティーンが変容していくことに対応できるし、新しい時間を生んでいくことにもつながっていくはずなんです」

主張しすぎず、
きちんと存在しながらも馴染む

そうした哲学を持つgrafは、「VERITISくらし空間コンテスト」の審査員として、どんな視点でVERITIS(ベリティス)のある空間を見ていたのか。

服部さん「ベリティスのデザイン性を“主張しすぎないこと”を意識して見ていました。一つのスタイルでまとめることをせず、住まう人の暮らしに沿って、シーンごとにベリティスをうまく取り入れている空間が印象深かったです」

松井さん「空間に馴染み、役割に徹することができるのがベリティスの良さだと思います。その良さを活かすことで、 “普通すぎる、けどほかにはない風景”が生まれる。受賞作品として選んだ空間には、佇まいに品を感じました。桂離宮の庭園のように、何気なくそこにあるものたちがきちんと存在していて、周りと調和しているものに品は宿るのだと思っています」

審査を経て、grafのふたりは、ベリティスだからできることにも注目する。

服部さん「ベリティスは、色、テクスチャー、光沢、細部にまで目を向けて研究開発されているなと思いました。“イミテーション”という言葉を超えて、木を扱うのはコストがかかるから環境に配慮してベリティスがいいといった視点での選び方もあるのではないでしょうか。VERITISが住まう人の個性を引き出していく選択肢のひとつになることを期待しています」

「家は、暮らしによって出来上がっていく器のようなものだ」と服部さんは言う。完成したものを鑑賞するのでは決してなく、住まうことで、子どもの感性、家族の関係性、暮らしを育んでいく動的な場所でもある。だからgrafは人が関わる「隙間」をデザインする。残された隙間でどう遊ぶか。どんな対話ができるか。単に消費者ではなく、“よき生活者”でありたいと思う。

VERITISくらし空間コンテスト
https://sumai.panasonic.jp/interior/veritis/contests2206/

graf(有限会社 デコラティブモードナンバースリー)