( ドアで魅せる家づくりのヒント集 )

( ドアで魅せる家づくりのヒント集 )VERITIS MAGAZINE

( interview )

外部コーディネーターと挑んだ、進化系・和モダン

2023.01.05

text
片桐 絵都
photography
きるけ。

外部コーディネーターと
挑んだ、進化系・和モダン

辰巳住研株式会社 × design studio LASO

博多から電車で30分。のどかな田園風景の中で、一際目をひく1軒の平屋がある。この洗練された建売住宅を手がけたのは、住宅会社の辰巳住研とインテリアデザイナーの仲田千津子さん。設計の段階からタッグを組むことで、“当たり前”の新しさを超越した和モダンの空間をつくり上げた。

辰巳住研があえて外部のプロと家づくりを行う理由とは。代表の門田栄一郎さんと仲田さんに、今回の物件に込めたそれぞれの思いを伺った。

主観を押し付けず、
十人十色のお客さまに寄り添う

─まず辰巳住研さんの家づくりにおけるこだわりを教えてください。

門田: うちは注文住宅がメインですが、今回ピックアップしたような建売やモデルハウス、団地開発なども手がけています。その全てのベースにあるのは「お客さまの思いを形にする」こと。住まいというものは空間への憧れやイメージから始まるものだと思っているので、このキッチンがいいとかトレンドがどうとか、モノありきの提案ではなくて、お客さまの描く夢を形にすることが一番だと思っています。だからうちが手がける家はバラバラだし、辰巳住研のカラーといったものはないんですよ。十人十色のお客さまに寄り添うためには、逆にない方がいい。

─確かに、提案する側の主観が強すぎると、自由なイメージを邪魔してしまう可能性がありますね。

門田: 社内にも設計部はあるのですが、今回の物件を手がけてくださった仲田さんをはじめ、複数の外部コーディネーターとタイアップしているのもうちの特徴の一つだと思います。一番の理由は“○○風”の家づくりをしたくないから。ここ数年でずいぶん変わってはきましたが、これまで日本の住宅は、例えばブルックリンスタイルであれば、あくまでブルックリン“風”のものが多かった。どこかに無難さを残しておこうとする風潮が、僕は嫌だったんですよ。やるならとことんお客さまが憧れる世界を追求したいと思って、7年前からプロの力を借りるようになりました。仲田さんとはもう5年ほどのお付き合いになります。

─どういったきっかけで出会われたのですか?

仲田: 知り合いの設計士に門田さんを紹介されたのが最初でしたね。当時「ヒュッゲ」をテーマにした家をつくるということで、コーディネーターを探していらしたんです。

門田: 仲田さんは海外の展示会にも足繁く通っていて、北欧に限らず幅広いジャンルに精通している。新しいことをやりたいというこちらの思いにドンピシャで応えてくれました。

仲田: 門田さんはご自分のやりたいことが明確で、ずっと現場の第一線にいらっしゃるところがすごいと思います。発想が柔軟で、こちらのアイデアも尊重してくださるから、一緒に家づくりをしていてすごく楽しいんです。いわゆる“社長さん”っていう感じではなくて、“参加型の社長さん”みたいな。こんな言い方すると失礼かしら(笑)。

門田: (笑)。でしゃばりなだけだと思いますよ。新しいもの好きというか、今ある当たり前の新しさにはあまり興味がないんですよね。普段、SNSを発想源にすることが多いのですが、流れてくる情報をストックするだけでは「好き」や「素敵」の感覚に理屈が伴わないので、必ず自分のフィルターを通してチェックするようにしています。理屈がないと、お客さまの心には本当の意味では届かない。

その点、仲田さんと話していると、例えばこの空間にはなぜこのクロスなのかということが、最後にきちんと理屈に行き当たるんです。お客さまにも理屈までしっかり説明することで、その家のことをより好きになってもらえると思っています。

大胆かつ繊細に、
「和」を取り入れる

─今回の物件はどんな流れで進めていったのでしょうか?

門田: コンセプトから仲田さんにお任せしようということで、設計もうちの社員ではなく、仲田さんのお知り合いから選んでいただくようにお願いしました。その方が自分の描いたイメージをより形にしやすいだろうと思ったので。正直、そこから生まれる新しいものを見てみたいという僕の個人的な興味もありました。それで設計の段階から一緒に打ち合わせをさせてもらって、チームとして進めていきました。

仲田: 通常は設計ありきでコーディネートを依頼されることが多いのですが、今回はリビングの窓の向きなども細かく意見を出すことができたので、イメージが湧きやすかったですね。ターゲットはあまり絞らずに、住まう人が自由に想像しながら暮らせる家にしたかったので、幅広い年代に受け入れられる「これからの和モダン」をコンセプトにしました。

─全体のデザインはどのように決めましたか?

仲田: まずは頭の中で空間全体の雰囲気をイメージして、細部のデザインまで固めた上で図面に落としていきました。中でも一番に考えたのは格子戸を使うこと。図面の段階から、リビングに通じるドアは絶対に格子のデザインにしようと決めていました。

─大胆ながら強すぎない、絶妙な「和」の取り入れ方ですよね。

仲田: 色々なメーカーさんのものを検討したのですが、適度に明るく、来客時には気配を感じられるようにしたかったので、高さのしっかりあるVERITIS(ベリティス)のデザインがベストでしたね。開放感とともに重厚感も出すことができました。

─同じく「和」の取り入れ方として、リビングの壁の一面だけクロスが違うのも特徴的です。

仲田: お化粧も全部同じトーンだとお顔がぼんやりした印象になるでしょう?だからこのクロスは口紅のようなもの。ただ、和紙っぽい質感が強すぎると全体のバランスが崩れてしまうので、繊細かつ洗練されたデザインを選びました。

ナチュラルなカームチェリー柄の床で、
まとまりを

─床はどういったところにこだわりましたか?

仲田: 和のイメージとの馴染みを考慮して、ベリティスフロアーSのナチュラルなカームチェリー柄にしました。白木っぽさがそこまで強くないので、間延びしたりチープに見えることなく全体が綺麗にまとまります。床板の幅もポイントで、細すぎると貧弱な印象になるので、今回は15cmにしています。

あと、やっぱり重要なのは木目の美しさ。無垢材のようなランダムな木目とリアルな質感は、さすがベリティスだなと思いますね。床は一番面積が広く、空間の印象を大きく左右します。クロスは定期的に張り替えられても、床はなかなか難しいですから、私はいつも床と建具は最初の段階で決めるようにしています。キッチンなどは後付けでどうにでもなるんですよ。

─とはいえ、キッチンもとても印象的です。一見異質なデザインに思えますが、モダンな一体感がありますね。

仲田: 空間の一つのシンボル的な役割を担いつつ、横の和室とトーンを合わせることで一体感を出しています。ここに茶色の木目のキッチンがあると想像してみてください。野暮ったくてつまらないでしょう(笑)?せっかく門田さんとお仕事させていただいているんですから、当たり前のことはしたくないですよね。

色のトーンと質感に、
緻密なトリックを

─和室もコンパクトなつくりながら心地よい空間ですね。

仲田: 配色の畳やシックな網代調の天井など、洋間と一続きで見た時に違和感のないようにモダンに仕上げています。備え付けの間仕切りがあるので、ちょっとお昼寝したい時や来客用の寝室にも使えるスペースです。

─クロス、床、建具と、トーンと質感の組み合わせが緻密に計算されていますね。

仲田: 色の遊びというか、トリックみたいなものはよく使いますね。例えば奥の二つの部屋はプライベートな空間になる可能性が高いので、ドアはクロスと同系色にして主張を抑えました。同時に空間全体を広く見せる効果もあります。

─今回の仕上がりを見て、門田さんはどう思われましたか?

門田: 僕はすごくいいと思ったんだけど、その価値観が社員たちとはなかなかリンクせず、賛否両論ありました。でもね、お客さまにはとても気に入っていただけて、すぐに申込みが入ったたんですよ。ある意味、それが一つの答えだと思う。みんなが理解できる新しさは本当の新しさではないと僕は思っているので、社員たちの反応が悪い方が実は嬉しいことなのかも(笑)。

─そんな門田さんが住まれているのはどんな家なのか、とても気になります。

門田: それが、僕自身は主観とか好みがないんですよ。“お客さまの家”をつくることができたらそれでいいので。だから僕の家は妻と娘の好みを最大限形にしたものになっています(笑)。

コンパクトな中に暮らしやすさが整った巧みな平屋。ベリティスの格子戸からはやわらかな光が差し込む。多彩な色と質感が同居する和モダン空間には、センスと経験に裏打ちされた技術が隠されていた。革新を追求する二人が次に手がける家は、どんな驚きに満ちているだろう。

design studio LASO