( interview )
福岡にある戸建のモデルルーム。吹き抜けのある全館空調の開放的な空間には、優しい光が差し込み、穏やかな空気が巡る。明るすぎず暗すぎないグレーを基調に、上品で柔らかな雰囲気が広がっている。
この空間を手がけたのは、アズマチハル ID Officeのインテリアデザインディレクター・東千晴さん。マンションのモデルルームのコーディネート・注文住宅の内装デザインを中心に、間取り設計からインテリアまで、細部にこだわった、美しくて心地よい空間をプロデュースする。
今回の物件のこだわりと仕上がりについて、話を訊いた。
統一感のある美しさを両立させる
──東さんは普段、どんな点にこだわって空間プロデュースをされているのでしょうか?
東: 私たちは、マンションや戸建のモデルルームをプロデュースさせていただき、その後、入居されるお客さまのご要望に合わせたコーディネートを提案させていただく機会が多いです。
モデルルームをつくる際はまず、「この物件の魅力はどこだろう」と考えます。間取り変更はしますがゼロからつくり直すことはしないので、その物件がもともと持っている魅力を引き出すことを意識します。天井に梁があるなら意匠的に活かすとか、キッチンとバルコニーが横並びなら開放感を演出するとか。
その上で、訪れるお客さまが「こういう暮らしがしたい」と想像を膨らませられる導線やインテリアをコーディネートしていきます。インテリアは、素材、色味、形、使いやすさといった細部にこだわって、全体が調和するように。全体のデザインも、奇抜なアイキャッチをつくるより、統一感を重視して、美しい空間に仕上げるよう心がけています。
──心地よい暮らしやすさと、統一感のある美しさが共存する空間づくりを大切にされている。東さんが手がける物件は、ホテルライクというか、大人の上品さや高級感が漂っているように感じます。
東: たしかに、明るい色味を取り入れる際も、素材の選択で上品さや高級感を出すことは意識していますね。ナチュラルなカフェスタイル、ワイルドなブルックリンスタイルよりは、繊細で品のある大人の雰囲気な空間づくりを得意としているかもしれません。

ゆるやかにつながる曖昧な空間
──今回の物件は、どんなコンセプトで空間づくりを進めていったのでしょう?
東: この物件の特徴は、吹き抜けがある全館空調であること。各部屋を仕切って個別にエアコンを設置するのではなく、家全体の空間をつないで同じ空調・温度を保ちます。全館空調は、急な温度変化によるヒートショックの予防にもなりますし、空間全体を活用できるメリットがあります。寒いから2階には行かないってことにはならない。

全館空調という機能的な特徴から、空間自体も境界線が曖昧になっています。リビングで家族全員がぴったり一緒にいるというよりは、それぞれ個別の部屋で過ごしながらも、なんとなく気配を感じつつ、一緒にいる。たとえば、2階にあるワークスペースに、VERITIS(ベリティス)の室内窓を使って、部屋の中がなんとなく見えて、空気が循環するようにしています。

ほかにもリビングの床とウッドデッキを同じ高さでつなげたり、中2階にお茶を飲んだり勉強や仕事ができる自由なスペースを設けたり。全体と個別の空間、家族と個人、内と外の境界線の「曖昧さ」がこの物件のコンセプトかなと思っています。
質感のあるパールグレー柄のドア
──上品で温かみのあるグレイッシュな空間デザインはどのように決まっていったのですか?
東: 私は、デザインを床から考えることが多いんです。今回は、ベリティスフロアーWクラフトのグレージュ色(アッシュ突き板)を使ってみたかったんですね。個別で見ると、色味が濃いかなと思うんですが、全体に貼ってみると想像以上に明るくて、いい選択でした。
床に合わせて、1階はベリティスのパールグレー柄のドアを選びました。幅木も同じパールグレー柄にしたので、馴染みがいい。壁のクロスに真っ白を選ぶことはあまりないので、ドアが白だと逆に目立ってしまいます。その点、パールグレー柄はちょうどいいんですよね。質感も良くて、色味はくどくないし距離感によっては見え方も変わる。存在感がさりげなくて、一押しです。
今回リビングの壁にアートシェイドという珪藻土を使っていて、職人さんにグレーをベースに白を重ねて塗ってもらったんです。曖昧な色味の壁にもパールグレー柄のドアがすごく合っていると思います。
ちなみに、吹き抜け部分の壁には床に合わせてグレーを塗装した木目の突き板を大胆に貼っています。同じグレーではなく、より温かみを出すためにあえて外した木目調にしてみました。

──グレージュの床を基調に、パールグレー柄のドア、グレーがかったクロス、と全体のデザインカラーが決まっていったんですね。
東: はい。そこからキッチンもパールグレー柄に合わせたものを選んでいきました。
インテリアにおいては、床との組み合わせで照明を重視します。面積の広い床を照明でどう照らすか、光の加減によっても印象は変わってきますし、ランプシェードには目が行くのでイメージをつくりやすい。今回、ダイニングには、FOSCARINI(フォスカリーニ)というイタリアのブランドの照明を採用しています。照明は多少お金をかけても、デザイン性が高く上質なものを選ぶようにしていますね。

部屋の個性を立たせる
──階段を登って2階に行くと、また少し雰囲気が変わりますよね。
東: そうなんです。階段が白く、2階は子ども部屋もあるので床をワントーン明るくして、ベリティスフロアSのホワイトオーク柄を採用しています。ドアも床に合わせて、ベリティスのナチュラルカラー・グレージュアッシュ柄にしました。

ドアのない書斎の床は、天然石やモルタルの質感があるラピスタイルフロアーのモルタルグレー(石質仕上げ材)にして雰囲気を変えています。連なる床も同じグレーが基調になっているので、素材感や明るみが違っても、違和感なく馴染んでいると思いますね。

──今回、ベリティスの床、ドア、室内窓を取り入れてみて、仕上がりの印象はどうでしたか?
東: ベリティスは、床もドアもすごく質感がいいですよね。シートで同じ色味であって木目調など質感の出し方が優れているなあと思います。パールグレー柄はほかにはないですし。床とドアの組み合わせの選択肢も多く、色味が合わせやすい。おかげで、1階と2階の雰囲気を変えながらも、統一感のある柔らかい空間に仕上がったと納得しています。
以前、戸建のモデルルームをプロデュースした際に、ベリティスのワイルドオーク柄(塗装対応)のドアを採用し、お客さまに塗ってもらう楽しみを提供したことがあったんです。住む人が好みに合わせてカスタマイズできる選択肢があるのもいいですよね。

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ベリティスのグレージュ色の床とパールグレー柄のドアの選択から、広がっていった空間づくり。建材の色味や素材の組み合わせ、風と光の演出、導線……その一つひとつの機微に東さんのプロの視点とこだわりが滲み出る。各部屋が個性を保ちながらも、柔らかいグレーに包まれた一体感のある美しい空間は、住まう人の暮らしを豊かに照らしてくれるだろう。










