日本の自然災害による 「通電火災ゼロ」を目指して

このたびの「令和6年能登半島地震」により被害を受けられた皆さまへ、
謹んでお見舞い申し上げますとともに、被災地の一日も早い復旧をお祈りいたします。

2024年1月1日、能登半島で最大震度7の地震が発生。建物の倒壊など甚大な被害に見舞われた街の様子は、皆さんの記憶にも鮮明に残っているのではないでしょうか。これまでも日本はしばしば大地震に見舞われてきましたが、地震発生後に人々の生命や家財を危険に晒すものの一つが、「火災」です。

「地震の揺れを防ぐことは難しいけれど、地震後の火災を防ぐことはできる」との強い思いで開発されたのが「感震ブレーカー」という小さな装置。揺れを感知すると自動的にブレーカを落として電力を遮断し、停電復旧時の火災である「通電火災」を防止します。

通電火災と感震ブレーカーの役割について、被災地の状況をよく知る防災アナウンサー・奥村さんと、感震ブレーカーの開発・販売に携わるパナソニックメンバーが率直な思いを語り合いました。

奥村 奈津美さん

防災アナウンサー/環境省アンバサダー

奥村 奈津美さん

仙台の放送局のアナウンサーとして東日本大震災で被災。発災直後から災害報道に携わると同時に、復旧ボランティアとして被災地支援にも精力的に携わる。日頃から備えることの大切さや被災者からの教訓を伝えるための防災啓発活動を行う。

能登半島地震では、要配慮者への入浴支援「テルマエ・ノト」プロジェクトを実施。
写真提供:一般社団法人危機管理教育研究所

感震ブレーカーを広く知らせる

丸木 一秀さん

パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
電材&くらしエネルギー事業部
マーケティングセンター 商品営業企画部

丸木 一秀さん

井上 敬文さん

パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
電材&くらしエネルギー事業部
マーケティングセンター 商品営業企画部

井上 敬文さん

住宅分電盤や感震ブレーカーの営業企画を担当。現在は感震ブレーカーの認知度向上や施策立案に携わる。

感震ブレーカーを安全につくる

篠田 尚規さん

パナソニック スイッチギアシステムズ株式会社
商品技術部 住宅盤商品技術課

篠田 尚規さん

住宅分電盤や感震ブレーカーの技術開発担当。業界団体である一般社団法人 日本配線システム工業会メンバーも務め、感震ブレーカーの仕様を統一するための活動に加わり分電盤の安全化に貢献。

感震ブレーカーを提供する

森西 真由美さん

パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
マーケティング本部 滋賀電材営業所

森西 真由美さん

照明・換気扇・配線など、多くの電気設備を扱う中で、感震ブレーカーがもたらす大きなメリットを知り、多くの住宅会社へのご提案と導入支援活動を行う。

多くの巨大地震で、
「電気による火災」が
二次災害を拡大

奥村さんは東日本大震災で被災されました。当時の体験を聞かせていただけますか?

奥村さん

はい。東日本大震災発災時、私は仙台市内のマンションで震度6弱を体験しました。報道に携わる身として冷静に安全確保を呼びかける立場だった私も、あまりの揺れに何もできず……。

冷蔵庫の上に置いていたオーブンレンジが飛んでくるなど命の危険を感じて頭が真っ白に。揺れが収まってから避難する際も、雪が降っていたのに上着も持たず、鍵もかけずに外に飛び出してしまいました。

いざ「その時」になると、平時なら当たり前のこともできなくなると痛感し、日頃からの備えの大切さを広く伝えたいと思うようになりました。

丸木さん

一昔前は「地震が起きたらガスの元栓を閉める」が合言葉でしたが、ガスメーターには揺れを感知してガスを止める機能が制度化されています。同じように、電気についても、いわば電気の元栓である住宅分電盤のブレーカを切ることが大事です。

でも実際、非常時に行動に移せる人は少ないと思います。東日本大震災でも大規模な火災が発生し、その原因の半数以上が電気関係によるものと見られています。※1

※1 参考:内閣府 平成30年3月「大規模地震時の電気火災抑制策の方向性について(報告)

森西さん

私自身も、予想外のことに対してパニックになりやすい性格なので、ブレーカを落とすという知識があっても、いざ大きな地震が起きたら、ブレーカのことを思い出せないかもしれません。

奥村さんは能登半島地震の発生直後にも被災地に入られていたのですね。
なぜ地震の後に大規模な火災が起こるのか現場で気づかれたことはありますか?

奥村さん

はい。能登半島地震では、揺れの直後に大津波警報が発令されました。すぐに避難せざるを得ない状況になったため、ブレーカを落とす余裕のない方が大勢いたと思います。

暖房器具にカーテンなどが触れて発火したり、断線による火花が近くの燃えやすいものに引火して起こったりと、通電火災にはいろいろなケースがあります。どんな火災も初期の段階で消火できれば大火災にはつながりません。

ただ、今回のように避難しなければならない状態、または平日の日中など誰もいない状態で通電火災が起こると、初期消火は不可能です。さらに能登半島地震では断水が起こり、消防が駆け付けても消火栓から水が出なかった。こういったイレギュラーの連鎖こそ、大火災を起こす要因になっています。

どんな揺れにも対応するためは
どうすれば良いか?

地震後は初期消火が難しくなるからこそ、
電気を遮断して火災の発生源を絶つ「感震ブレーカー」が重要なのですね。
「感震ブレーカー」が開発された経緯についても教えていただけますか?

丸木さん

感震ブレーカーの開発がスタートしたのは、阪神・淡路大震災がきっかけだと聞いています。阪神・淡路大震災でも揺れの直後に大火災が発生し、多くの尊い命が失われました。大きな揺れで停電が起き、人々が避難している中で電気が復旧し、スイッチONのまま放置されていた電気製品や断線した配線に電流が流れて火が出たことが報告されています。

井上さん

そんな中、揺れを検知して自動的に電気を遮断する何らかの安全装置が必要ではと多くの声があがり、国内の電気設備メーカーが安全装置開発に着手したのです。パナソニックでは住宅には必ず設置される「住宅分電盤」に安全機能を追加する方向で開発が進みました。

篠田さん

1998年に内部に金属球があり、球の揺れを感知してブレーカーを落とすタイプを発売。当時はメーカーごとに検知する震度、揺れの時間、電力を遮断するまでの時間がバラバラで、住宅会社様や一般の方々にとっては比較検討しづらい状態でした。

そこで同年、当時の一般社団法人 日本配線器具工業会(現・一般社団法人 日本配線システム工業会)が東京消防庁から要請を受け、感震規定化委員会を発足。

この中で感震機能付住宅分電盤の仕様統一化の議論がなされて、2001年に調査結果に基づいた選定基準を明確にしたガイドラインを発行。2003年には性能や試験基準を定めた規格を制定しています。

篠田さん

当社の感震ブレーカーはさらに進化し、2006年には分電盤と一体化したタイプを発売。2017年には検知のための仕組みを金属球から加速度センサーに変え、スリム化することに成功しました。センサー化する際、どのような揺れでもきちんと感知するようプログラムづくりにもこだわっています。

地震によって揺れの方向・強さ・時間は異なるため、過去の地震の揺れと今後起こりうる揺れに関する学術データをすべてとり入れ、プログラムを構築しています。

井上さん

家が倒壊してしまって、分電盤が斜めになった状態でも正しく動き、ブレーカを落とすことができるんですよ。

奥村さん

小さな製品に、すごい技術が詰まっているんですね!製造工程においても安全性を確実なものにするため工夫をされているとか?

篠田さん

はい。発売当初からこだわってきたのが、「全数検査」です。震度5強以上の揺れと15度以上の傾きをすべての製品が検知し安全機能が作動するかどうか、最終の工程検査だけでも16項目を超える試験を全数実施して出荷しています。命に関わる製品ですから、品質追求にも妥協を許しません。

防災のキーワードは
“フェーズフリー”

感震ブレーカーの「現在地」について、皆さんのご意見をお聞かせください。

奥村さん

実際に被災地で取材をすると、感震ブレーカーがあれば防げた火災がいかに多いかを思い知らされますね。被災された方々からも「こういう設備があると知っていれば……」と悔しい声をお聞きすることもあります。

防災の第一歩って、「知る」なんです。実際、知ってさえいれば守れた命があったと、多くの被災者が話されます。現在の感震ブレーカーの認知率はどのくらいなのですか?

井上さん

東日本大震災の後、防災意識の高まりから販売数が伸びましたが、いまだ感震ブレーカーの一般認知は3割程度※2、設置は3%程度※3にとどまっています。まだまだ……というのが現状ですね。

※2 パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社調べ ※3 一般社団法人 日本配線システム工業会調べ

メーカーとしても個人宅のリフォームや集合住宅の修繕などにも対応できるよう、既存のパナソニック製の分電盤に組み込むタイプ、旧型の分電盤や他社分電盤に後付けできるタイプなど、製品ラインアップを充実させてはいるのですが。

丸木さん

2019年には「内線規程」によって感震ブレーカーの設置が一部地域で勧告対象となり、自治体の補助金制度も拡大しました。住宅密集地や集合住宅で火災が起きると、たった1軒から出た火がエリア全体の大火災につながりかねません。“点”ではなく“面”で感震ブレーカーを広めていく必要があると思います。

奥村さん

確かに。昨今、災害への備えのキーワードとして「フェーズフリー」が注目されているんです。「フェーズフリー」とは、普段使っているものを、災害時も役立つようにするという考え方。つまり、フェーズフリーな製品やサービスを取り入れることで、意識しなくても備えられている状態を持続できるのです。

感震ブレーカーが付いたブレーカーは、まさにフェーズフリーな製品!その家に住む人が何の操作をしなくても自動的に電気をシャットダウンしてくれることでどれだけの二次災害を防げるか、広く知ってもらいたいですね。

「通電火災ゼロ」を
目指して

森西さん

私は販売担当としてさまざまな住宅会社様と関わる中で、お客様が感震ブレーカーに興味を示される機会が増えてきたと実感しています。

京都府の住宅会社様は「安心安全を提供するのは住宅会社の責任。これほどコンパクトで設置も簡単な感震ブレーカー一つで、お客様の暮らしを守れるなら」と全棟標準採用されました。

ここ数年、住宅の付加価値の一つに“レジリエンス”があり、建物の耐震性との相性も良い製品だと感じています。

丸木さん

大阪府内で、戸建て団地全体で感震ブレーカーを採用していただいた事例があります。大阪北部地震の際、しっかりと揺れに反応してブレーカが落ち「安心感があった」と喜びの声をいただきました。

ご高齢の方からは「高い場所にある分電盤にはなかなか手が届かないので、いつまた揺れがあるかわからない状態でブレーカを落とすのは難しい。自動でブレーカを落としてらえるのはありがたい」との声もいただいています。

篠田さん

一方で、住宅への導入数が増えている蓄電池とは機能が相反するという理由で、感震ブレーカーの併設を見送られる住宅会社様も多い。蓄電池と感震ブレーカーはそれぞれに役割があり、併設には問題ないと知っていただくことも普及率アップには必要ではないでしょうか。

地震以外を原因とする停電では蓄電池で電力を使用する、地震時は感震ブレーカーで一度電力をシャットダウンして設備や室内の安全を確認してから蓄電池を活用して復電してもらう、という方法が良いと私は考えています。

最後に、皆さまの「通電火災ゼロ」への思いをお聞かせください。

奥村さん

日頃の備えの一つとして、感震ブレーカーの重要性を、今後さらに力を入れて伝えていきたいと思います。パナソニック製品は一般の方々の暮らしにも浸透していて、馴染みのあるものばかり。

その中で感震ブレーカーは日常の暮らしに寄り添うと同時に、万が一の事態でも大きな安心感で支えてくれる、まさにフェーズフリーな備えとして素晴らしい製品だと思います。

森西さん

これほど小さな存在なのに、万が一の際に守ってくれる安心感は本当に大きいと思います。住まいが大きな揺れを耐え抜いたとしても、家財がすべて燃えてしまったら…生活必需品だけでなく思い出の品がすべてなくなってしまったら…そう考えたら怖いですよね。

展示会などで多くの住宅会社さんや一般の方々に、私のおすすめ商品である感震ブレーカーを広く伝えていきたいと考えています。

井上さん

分電盤はどの家庭にも必ずあるものですが、「見たことがない」という方も多いのでは。もともとは電力会社から送られた電気を部屋・フロアに安全に分配するための設備ですが、昨今では電気製品の多様化に対応したり、環境性能を高めたりと進化しているんです。

感震ブレーカーも進化した機能の一つ。住まいづくりの際などに「どんな分電盤を選ぶか?」も一度考えていただき、防災を考える機会にしてもらえたらと思います。

篠田さん

実は住宅分電盤の国内シェアの6割をパナソニックが占めています。すべての分電盤に感震機能を持たせることができれば、感震ブレーカーの普及率も高めることができるはず。住宅分電盤に感震機能を標準搭載することが、私たちの今後の課題だと考えています。

丸木さん

創業者の松下幸之助は、生産者の使命は、良い製品を水道の水の如く、量を多く安く提供して世の中に貢献することだ、と「水道哲学」で説きました。感震ブレーカーはまさに通電火災ゼロの世の中を実現するために必要な製品。水道の水のように社会に広め、一人ひとりの日常を守りたいですね。

住宅分電盤は暮らしの電気を司る設備です。防災だけでなく、エネルギー面でも、スマートな生活を様々に支える大きな可能性を秘めています。これからも一歩ずつ進化しつづけていくものと思います。

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