インスタグラムなどのSNSで料理写真の投稿を楽しみ、器や盛りつけに関心を持つ方も増えています。日本の食卓で使われる食器の特徴とは?器づかいを楽しむには?今回は、国内外に知られる老舗食器メーカー、株式会社ノリタケカンパニーリミテドを訪問。愛知県名古屋市「ノリタケの森」内にある食器販売直営店「ノリタケスクエア名古屋」で、食器事業部の落合さん、青木さんにお話を伺いました。
— 美しいデザインの食器がたくさん並んでいて楽しい!
アレも素敵、コレもいいねと、目移りしてしまいます。
落合さん: 「ノリタケスクエア名古屋」は、食器という「モノ」を売るだけでなく、ライフスタイルの発信基地であることを目指しています。キッチン展示にはビルトイン食洗機も設置。暮らしを楽しむヒントになればと様々なイベントも行っています。
青木さん: 何も決めていないけれど、楽しそうだから行ってみようとお客様に思っていただけるように作った場なんです。
落合さん: カフェでは、「ノリタケ」の食器を使って、お客様3人なら、3種の食器でふだんの食卓のように提供しています。日本では、自分用のお茶碗を使うなど、独自の食器の文化があります。セットで揃えるというよりは、さまざまな器の表情を楽しむ趣向ですね。洋食器は、10ピースあればすべて同じデザインという「揃い」の文化が基本ですが、日本の食卓ではぜひ、洋食器も和食器のように組み合わせながら楽しんでいただきたいですね。
青木さん: ノリタケは外貨を得ることを目的に明治に創業し、「白色硬質磁器」を用いた日本初のディナーセットを完成、1914(大正3)年に洋食器の輸出を始めました。ノリタケの日本国内での商売が本格化したのは戦後のことです。戦後の日本では高度成長にともない洋食文化が広がりましたが、和食や中華、エスニックなど、様々な料理が入り混じった独自の食文化が形成されてきました。
落合さん: たとえば、ステーキなど、「プレート=平らな皿」に盛って食べることが多いアメリカに対し、日本では、汁気がある料理が多く、「ディッシュ=深めの皿」がよく使われます。ノリタケは、日本ならではの多様な食文化に合うサイズ・形・デザインの器を時代やスタイルに合わせて開発してきました
— 日本の独自の文化に合わせて進化をしてきたのですね。
近年のお客様のニーズは、どう感じていらっしゃいますか?
落合さん: 食器は引き出物などのギフト需要も大きく、かつては華やかで見栄えのするものが人気の中心でした。それが最近では、実用性の裏付けがあって「自分が使いたい、おすすめできる、自分のスタイルが表現できる」ものをと、こだわって食器を選ぶ方が多くなってきたと感じます。ノリタケでも、エレガントさは失わず、デイリーユースの食器のご提案に力を入れるようになってきています。電子レンジ対応はもちろん、最近では食洗機の使用を想定して、絵柄が洗浄成分でダメージを受けにくい絵付方法を積極的に採用しています。
落合さん: 磁器の表面のガラス層を釉といい、釉薬(うわぐすり)を施して焼成することにより作られます。このガラス層と顔料(絵の具)の上下関係によって絵付方法が分類されます。「下画付け」や「シンクイン※」は、絵柄がはがれにくい反面、鮮やかな発色が得られにくいデメリットもあるので、バランスを取りながら、デザインと絵付方法を選んでいます。この「アルファベットマグ」は、「パーマコート」という技法で、コーティング材を転写紙とともに刷り込みます。透明なガラス層を印刷して絵柄を覆うから、「シンクイン」ほど温度を上げずに焼成できて、絵柄の色が守られるんです。
— 摩耗しにくさと発色のよさの両立に工夫しているのですね。
青木さん:もともと、食洗機を使うことが当たり前のアメリカの家庭向けに多く輸出してきましたから、それに適応する機能性は必然だったわけです。すべての商品は発売前に、生地の強度や絵付の耐久性を確認する試験を受け、当社基準をパスしないものは出荷できません。特に「食洗機による洗浄」に必要な耐久性については、パナソニックさんと共同で研究しているところです。
また、毎日気持ちよくお使いいただけるよう、素材の開発にも力を入れています。ノリタケを代表するシリーズ「シェール ブラン」などに使われている素材は、美しい白と薄さと軽さ、食洗機でもお使いいただける強度が特長です。
— 「何を選べばいいかわからない」「盛りつけに工夫してみたい」というお客様に、どんなアドバイスをされていますか?
落合さん: 主菜皿として使いやすいサイズの基準は27㎝前後ですね。食卓スペースもお皿を選ぶポイントです。少し幅を取ると感じる方には、ひとまわり小さい24㎝前後をおすすめします。
食器の大きさはもちろん、丸や四角などの形、リム(ふちの平らな部分)の幅、深さなどによっても、印象が違います。器と料理のバランスを考えて盛りつけることが基本です。
たとえば、器に対して料理を盛る量。上品に見せたいときは、余白をたっぷり取る。ボリューム感を出したいときは余白を少なめにします。
リムがあるプレートと、リムがないクープ皿の使い分けはよくおすすめしますね。リム幅の大きなプレートで、平らなスペースが広いと、余白にソースでデコレーションしたり、付け合わせの野菜を添えたり、盛りつけで遊ぶことができます。一方、ワンプレートディッシュとして毎日の朝食でカジュアルに使うなら、リムのないクープ皿をおすすめすることがあります。立ち上がりに少しかかっても、美しく盛りつけできる。このクープ皿はお客様のご要望に応えて追加した、人気のアイテムです。
茶色っぽい料理を盛りつけて、何か足りない…と思ったときは、絵柄があるお皿に盛りつけると、印象を変えられます。「まず白い皿を」という方もいらっしゃいますが、自分が気に入った絵やデザインで、お料理が映える色合いを意識することも、ふだん使いの器を選ぶコツのひとつだと思います。