Archi-spec TOI:開発ストーリー

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ニーズの多様化と先鋭化が言われて久しいトレンドの中、当社としては販売以来60年の歴史を持つ雨といも例外ではありません。機能はもちろんですが、美しさという情緒にフォーカスし、様々な建築家からヒアリングを重ねご意見を吸い上げながら、プロジェクトとして取り組んだ商品がArchi-spec TOIです。発想から開発、販売と、ミッションを実現するということは、先行する美しさの感覚を機能が追いかけるという、およそメーカーとしては逆転的思考を必要とする挑戦でした。

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STORY

Story01 住宅を見上げるとき、空の形は雨といで決まる。

美しい街並みで、ふと気づく軒先の美しさ。そこには雨といの存在が感じられません。優れた建築家が設計した住宅には、雨といが内側に隠されていたり屋根の構造を変えたりと、腐心の跡がうかがえます。「家のアウトラインとなる雨といに、建築家は課題を抱えている」。一級建築士でもある当社デザイナーの心に芽生えたこの仮説が、開発への発端でした。
デザイナーの先行提案でスタートしたアーキ・スペック トイは、屋根に対して斜めに取り付けられる斬新なデザイン。軒とい部の断面は台形で、底に向かって急激に絞り込まれています。初期に製作したペーパーモデルの段階から、その意匠は建築家やハウスメーカーに高く評価され、「欲しい。使ってみたい」と期待を集めました。もっと軒先が美しく見える角度を、配管の存在感を消すデザインに。デザイナーは3Dモデルをつくっては、その下に顔を潜りこませ、ミリ単位の調整を繰り返しました。「住宅を見上げると、雨といが空の形を決めている」。技術メンバーも建築家の元を訪ね、ひざ詰めで「美しい雨とい」を追求しました。

Story02 美しく、しかもしっかりと雨水を受排水するために。

どんなに先進的なデザインであっても、雨を受け止め、速やかに排水する雨とい本来の機能はおろそかにできません。異形とも言えるアーキ・スペック トイは、雨水を導く構造面にも新しい手法を取り入れました。屋根と軒といの間をつなぐ「導水板」がその一つ。勾配のある屋根から、勢いのついた雨水がといの高さを超えないように、導水板が雨水をコントロールします。これは、従来型の部材でいえば、豪雪地で施工する「マルチカバー(雪よけ)」を応用したもの。巻き込むような形状で、斜め形状の軒といに雨水を受け渡します。さらに、メンテナンスの面でも、落ち葉などのごみ詰まりから雨といを守ってくれるスグレモノです。

アーキ・スペック トイのたてといは従来品より細い直径45ミリの仕様ながら、十分な排水能力が実現されています。これは、一定量の水がたまると勢いがついて流れ出す「サイフォンの原理」を研究した成果。サイフォン状態が起こりやすいように、縦といの取り付け角度や排水口の形状を最適化しています。降水量が多い日には、一気に流れ込む水そのものが排水力につながる仕組みです。細く、納まりよく、排水もよく。美しさと機能が一体になった縦といです。

Story03 建築家や設計士からのご要望の中にこそ未来がある。

軒といに採用した鋼板は、建築家が好んで屋根にセレクトする素材で、施工後の統一感に好評を得ています。その高級感に負けないように、たてといは樹脂ながらも光沢を抑えた仕様にしています。そのザラザラとした独特の手触り、上質な質感には、細部にこだわる建築家も納得。耐熱・耐風・耐荷重や経年変化まで、長年雨といの素材を研究し続けてきた、プロダクトの粋がそこに宿っています。

アーキ・スペック トイは発売後も建築家と対話を重ね、進化を続けてきました。進化の原動力は建築現場の声。最も多かったのが、屋根を支える木の切り口を覆う「鼻隠し」の接合部分に使いたいという要望です。さまざまな勾配に対応できるように、受注生産として部材をラインアップ。また、家屋の側面へ垂直に添わせる縦といの部材などが拡充されました。軒先の納まりにアプローチする姿勢を評価していただき、逆指名で要望が届きます。「雨といから日本の軒先を変える」というコンセプトに共感した建築家からは「設計中の物件に使いたい」とお声がかかり、商品の価値が高まっています。

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PROJECT MEMBER

建築家の思いをカタチにした。私の原点であり、進行形の雨とい。 黒田 久美子/デザイン・マーケティイング

建築家の先生との出会いがこの商品の始まりです。軒先をシャープに見せようにも、デザイン性が高い雨といは選択肢が限られていて、材質面でも屋根と調和する商品が少ない。既製品では満足できないからといって、一点ものの雨といを自作しても何十年という品質保証ができません。ならば、メーカーで雨といを担当する自分が解決するしかない。ですから、アーキ・スペック トイは私がデザインしたというより、建築家の思いを形にした商品なのです。
発売後も常に原点に返ろうと、建築家の方を訪問しています。営業マンや販売店にも共感者を増やして、日本各地にファンをつくることが目標です。ウェブやカタログなどでのPRは重要ですが、自分の足でも、もっともっとこの商品をアピールしていきます。

実際に住宅に取り付けたあの日、イメージが確信に変わった。 太田 智之/商品企画

新しいことって、やってみないと分からない。最初は「デザイナーが何か難しいことを言っている」と、捉えていました。こんなに尖った商品では、おそらく数も出ないだろうし、それでは社内の理解が得られないだろうと感じていました。ところが、試作品を持って建築家を訪ねると皆さんが「欲しい」と言ってくれる。気づくと「使ってみたいという方が、こんなにいます!」と社内を説得する立場になっていました。いつの間にかアーキスペック トイの信者になっていました(笑)。
一番のターニングポイントは、ヒアリングに伺った建築現場での一言でした。「3日で現物が用意できるなら、この家に付けてみようか?」と建築家が申し出てくださいました。物件の寸法に合わせた部材を大急ぎで用意して、本当に3日後に実物件に取り付けられました。机上のモック、CGの施工例では分からない軒先との一体感、その価値を自分の肌で感じました。施工の面で問題がないと確認できたのも大きかった。この実物につながった建築家との出会い、お客様の厚意が背中を押してくれました。

精一杯積み重ねた施策、最後に落とし穴が!?
			 大橋 晋太郎/構造設計

最も手こずったのがサイフォン構造です。どうすればこの現象が起こるのか、全てが手探り。アイデアを出し合い、何種類も試作をして順番に試す。方向性が見えて、部品を変えてまた試作。ようやくつなぎ目の形が決まって完成……、したはずでした。ところが、念のためにと実施した最終テストでサイフォン現象が起こらない。金型も仕上がり、発売日も決まった段階でです。設計をやりなおし、テストを重ねました。この商品を見ると、雪の舞う真冬の試験場を思い出します。

先輩から受け継ぐ技術が、45ミリのたてといに生きている。
			 中川 雅貴(左)/材料設計 阪本 悠喜(右)/形成技術

中川(左):材料設計で雨といの外観に特徴をつくる。初めての経験でしたが、建築家の元に通って期待の大きさを肌で感じました。雨といの技術は、材料・成形・金型の三位一体です。建築家や施主に喜んでいただける製品に仕上がったのは、その連携があってこそです。私の役割は、お客様が求める雨といの表情を考え抜き、成形・金型の部隊にバトンパスすることでした。実現には当社に蓄積された多くの技術を組み合わせる必要があります。材料メーカーの協力も得て、材料設計の勘所を上司や先輩から教わりながら、当社独自の外観表現を生み出すことができました。

阪本(右):入社2年目で初めて担当した新商品で、気合が入りました。押し出し成形は、気温や湿度など環境のちょっとした変化にも素材が影響を受けやすく、まるで生き物。新しい材料設計のこの商品はさらに扱いにくい。金型設計の思想から変えて、中川さんと検討を重ねました。細いサイズ感も手触りもいい。仕上がりがとても気に入っています。材料だけでなくデザイン・企画・営業・製造まで、皆と大きなプロジェクトに携わったんだと実感し、嬉しさが込み上げてきます。

特殊な軒とい、どこでどうつくる?試行錯誤の日々。
			 田中 文明/生産技術

今回、デザインと企画から要求されたのは、今まで作ったことのない素材であり、形でした。まっすぐに美しく成形するために、数えきれないほどの試作を繰り返しました。開発時は毎週、進捗報告で「苦戦しています」って言い続けていた(笑)。それぐらい特殊な形状でした。当時の私は入社4年目で、初めて担当した新商品。現在は担当から外れましたが、今でも思い入れのある商品です。

本音で語り合って壁を動かす。建築家の声を聴き、考え、伝えた。
			 寺山 和宏(左)/デザイン 横田 惇(右)/営業

寺山(左):テーマアップの前に先行デザイン展で何度もアピールしたのを思い出します。まだ諦めないのかと、あきれ顔の方もいらっしゃいました(笑)。アーキ・スペック トイは、建築家の皆さんとともに、日本の建築や街並み、景観を良くしようと学びながら高めた商品です。建築家は今までの雨といに満足していない、その分だけ本音で語ってくれました。私たちに要望しながら進めるなんて、建築家の流儀も変わったかもしれない。このプロセス自体が貴重な経験でした。まだまだ、同じようにメスを入れるべき住宅のパーツがあるはずです。これからも楽しみですね。

横田(右):入社2年目、私は雨といの知識ゼロからスタートした営業担当でした。一番困ったのは発売後です。販売会社から「従来商品に比べると高い」というお声が届き、頼りにしていた先輩メンバーも他部署へ異動となっていました。そのとき助けてくれたのが寺山さんです。販売会社を一緒に回ろうと、全営業所に同行してくれました。2人で商品コンセプトや建築家の声を丁寧に伝え「この商品で住宅の雰囲気が一気に変わる」のだと訴えました。地道に商品のコンセプトや付加価値を伝えることで、販売会社から適正価格を認めていただけました。そこだけは自分を褒めていいですか(笑)。

特殊な軒とい、どこでどうつくる?試行錯誤の日々。
			 田中 文明/生産技術

Archi-spec TOIは、2018年社内の商品表彰(※1)でWonder賞(※2)という社長表彰を受賞しました。

※1 商品表彰/創業者、松下幸之助の強い想いで1961年に創設。
※2 Wonder賞/お客様が「驚き・期待・チャレンジ」を感じる、当社の変革を示す商品であり、当社成長に寄与することが期待される商品に対して授与される。商品表彰の中で唯一、審査途中に「社外の目」として様々な分野の有識者からも審査される。


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