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環境との共生を目指し、住まいづくりにはこれまで以上の配慮が求められています。環境に配慮した住宅は地球にやさしいだけでなく、同時に住む人にとっても様々なメリットがあると考えられています。住宅の環境性能について自主判断ができる評価ツール「CASBEE−すまい(戸建)」も産・学・官の共同プロジェクトで2007年に開発され、広く使われるようになってきました。「住生活基本法」(2007年施行)により、品質や性能のよい住まいづくりが求められています。特に省エネ性能が高く環境負荷の小さい住まいが評価され、長く住み続けられる住宅がスタンダードな時代になってきています。環境に配慮した住宅は、これまでの住宅とどこが違い、住む人にどんなメリットがあるのか? 環境に配慮した住まいづくりに詳しく、CASBEEの研究開発メンバーの芝浦工業大学教授の秋元孝之氏に話をうかがいました。
環境を意識した地球にやさしい住まいづくりがなぜ注目されているのですか?
地球温暖化や環境破壊が深刻化しています。暮らし方だけではなく、住まいを建てる中でも、資材の生産や運搬、工事などで多くのエネルギーや資源が使われ、CO2(二酸化炭素)も排出され、環境への負荷が高まっています。「自分が生きている間は大丈夫」と問題を見過ごさず、「次の世代のためにも環境への負荷を与えないようにする暮らしが今こそ求められている」との考えが世界的に高まり、住まいづくりでも環境対策が強く言われるようになりました。
住まいづくりを考えると、ほとんどの日本人が新築住宅をイメージします。日本では、新築を高く評価する時代が長く続き、スクラップ&ビルドが当たり前に行われてきた歴史があります。しかし、使われなくなった住まいは解体すれば、大量の産業廃棄物=ゴミになります。そのことに私たちはあまり注意を払わずにきました。
日本の住宅の平均寿命は30年程度と言われています。海外ではもっと長く、イギリスは約77年、アメリカは約44年もあり、リフォームを重ねながら住み続けられます。
日本のように短い期間に、壊して、建て替え、新しく建てる、新築偏重の傾向は、多大なエネルギーや資源の消費につながり、地球環境に過大な負荷を与えていることになります。
今後、環境問題や資源・エネルギー問題がますます深刻化していく中で、住まいは暮らし方、建て方の両面から見直す必要があります。
住まいもスクラップ&ビルドの使い捨ての時代が終わり、躯体や骨組みなど(スケルトン)は長い年月に耐えられるようにしっかりと建て、流行やライフスタイル、技術開発などで短い期間で変化する内装・設備(インフィル)などは、リフォームしながらきちんと手入れをし続け、長く大切に住み継いでいこうという考えが多くなってきました。
暮らし方と同じように、住まいづくりでも環境への配慮をする時代に。
環境に配慮した住まいは、住む人にとってどのようなメリットがありますか?
環境に配慮した長く住み継ぐことのできる住まいには、省エネや耐震、バリアフリーなどが取り入れられ、地球環境にやさしく、住む人にとってもやさしく暮らしやすい住まいになります。
特に省エネ面では、暮らしの中から発生するエネルギー消費をカットでき、ランニングコストやライフサイクルコストが抑えられるようになります。環境性能の高い超長寿命住宅や省エネ住宅などは、税制面でも優遇される方向にあります。イニシャルコスト、ランニングコストの両面から、メリットを期待できるわけです。
今、求められている住まいは、「無理せずに省エネが実現できて、快適に過ごせる家」です。そのために住宅の環境性能が高い住まいが考えられています。
環境にやさしい住まいを、環境性能の視点から見ると、省エネルギー、耐震、バリアフリー、設備機器の性能改善、シックハウス対策などがポイントになります。
住む人の立場で考えれば、環境性能の高さは暮らしやすさ、安全・安心して住める住まいにつながります。同時に柱・梁・床といった骨組み・躯体もしっかりしていることが大切です。
構造躯体が頑丈で、断熱性・気密性が高ければ、当然耐久性は高くなり、冷暖房にかかる費用も抑えられます。また、構造躯体が頑丈であることで設備や間取りといった内装部分は、将来住む人が変わっても変えやすくなり、ライフスタイルなどに合わせたリフォームが容易になります。
ユニバーサルデザインを採用すれば、幅広い人が快適に暮らせるようになります。環境性能が高い住まいは、地球にやさしいばかりでなく、住む人にとってもメリットが数多くあります。
暮らし方も環境性能が高い家は、快適性も向上する。
環境性能を高める設備の選び方について教えてください。
器としての断熱性・気密性がしっかりしていることを前提として、環境性能を高める設備というのはケース・バイ・ケースです。オール電化や燃料電池などが代表的なものですが、気象条件やライフスタイルに最も適した設備を専門家のアドバイスなどを参考に選ぶことをおすすめします。少なくとも、省エネルギー表示がある設備機器を選ぶことが、望ましいと思われます。
環境性能の高い設備というのは、どの住宅にとっても同じではありません。地域性、気象条件、家族構成などによって異なります。
家にかかるコストは、建築費、維持費、修繕費の3つに大きく分けることができます。環境性能が高い家を建てるとなると、初期投資である建築費が相当高くなるのではないかという声も聞かれますが、極端に高くなることはありません(※)。 それどころか、長寿命住宅にすれば、維持費を少なくすることができ、さらに修繕にかかる時期を遅らすことができるので、結果的にライフサイクルコストを軽減することが可能となります。目先の建築費だけで住まいづくりを考えるのではなく、トータルでのコストや暮らしやすさにも目を向けていきたいものです。
(※)具体的な建築費等の予算は設備・仕様その他の条件により変わってきますので、依頼先の建築家や工務店にお問い合わせください。
政府も環境に配慮した住宅の普及を急務としており、住宅の建設・維持管理・流通・資金調達のそれぞれの段階で、総合的な支援を展開していく方針を固めています。例えば独立行政法人のNEDO(新エネルギー産業技術総合開発機構)では、住宅に高効率な省エネルギーシステムを導入する際、その3分の1を補助する制度を実施しています(※)。
超長寿命住宅に関しては、優遇措置を設ける方向で調整が進んでいますので、今後も環境性能の高い住宅に対する支援・補助が進んでいくとみられています。
(※)補助制度を受けられる申請期間は、特定期日に限られている場合があります。条件等もありますので、事前に確認をされることをおすすめします。
設備は、ライフスタイルなどに合わせた選定が大切です。
住まいの環境性能は、どのように評価されるのですか?
環境性能に関連する制度には、「環境共生住宅」や「自立循環型住宅」などがあります。これらの既存制度の個々の評価手法を使いながら、建物を総合的にトータルで評価しようという取り組みが始まっています。集合住宅などではすでに活用されていますが、2007年9月から戸建住宅も評価の対象となり、「CASBEE」という評価をする基準の“モノサシ”が誕生しています。
住みやすさや周りの環境に与える影響を客観的に評価するツールが「CASBEE−すまい(戸建)」です。「Comprehensive Assessment System for Building Environmental Efficiency(建築物総合環境性能評価システム)」の頭文字をとって、「CASBEE(キャスビー)」と呼びます。
断熱・気密性や省エネルギーといった個別の性能評価ではなく、広い意味での環境性能を全国共通のモノサシで測り、客観的に評価することによって環境に配慮した住まいの普及を目指す取り組みです。住宅と暮らしによって生じるエネルギーをトータルで減らし、末永く環境と共存できる方向性を求めているのがCASBEEの考え方です。
住み替えや転居で住まいを選ぶ目安は、人それぞれです。断熱・気密性を重視する人もいれば、バリアフリーを第一条件に挙げる人もいるはずです。CASBEEの評価を活用することで、自分が重要視している項目の評価や全体のバランスを知ることができるため、住宅を選ぶときにも比較検討がしやすくなります。
また、CASBEEの値が高い住まいは、環境にやさしく住まい手にとっての快適さも実現します。なによりも、さまざまな観点から住まいを評価することで、自分の住まいを知ることにもつながります。入居後の快適な暮らしに欠かせない住まいの維持管理やリフォームなども、住まいのよい点や弱点を予め知っておくことで、維持管理計画が立てやすくなるなどのメリットがあります。
環境に配慮した家は、末永く住み継ぐことができる快適な環境であり、環境性能を測るCASBEEで評価の高い住まいは、資産価値の面でも高い評価になります。住宅を選ぶ際にも客観的な評価があることで、比較や検討がしやすくなり、よりよい住まい選びもしやすくなるということになります。
CASBEEで評価の高い住まいは、資産価値も高く評価される。
住まいづくりの中で、どのようにCASBEEは関わってくるのですか?
CASBEEは、住宅会社や工務店、建築家が使うものと思われるかもしれませんが、専門家だけのものではありません。住まい手の私たちにも内容がわかりやすく、評価できるように平易に作られていますので、自主評価が可能です。CASBEEでは、どれだけ環境にやさしい住まいで環境負荷を軽減している家なのかを客観的に数値で知ることができます。それは、住まいの優れた点や弱点を知ることにもつながります。
CASBEEの評価は、5つのランクが★の数で表示されます。CASBEEを用いた評価は始まったばかりですが、例えば、住まいを作るときに、間取りの要望を伝えるのと同じように、「CASBEE 3.0以上の住まいにしたい」という依頼の仕方も可能になってきています。環境に配慮した住まいは、地球にやさしいだけではなく、省エネ・省資源で質の高い暮らしを実現します。
CASBEEでは、住まいのさまざまな品質や性能の良し悪しを総合的に評価していきます。これまで住まいと言うと、「住宅の中にいる住む人にとって快適かどうか」のみが評価の対象となっていました。CASBEEでは地球環境や周辺環境にどれだけ配慮しているかが主軸になっています。
具体的には、「質の高さ(=環境品質)」をQ、「環境に与える負荷」をLで表して、QをLで割り算し、その値(BEE)で評価するものです。その数値が高いほど、環境性能に優れた住まいです。
環境品質・性能(Q)が高いことを評価するのは、
Q1 室内環境を快適・健康・安心にする
Q2 長く使い続ける
Q3 まちなみ・生態系を豊かにする
の3つです。
さらに、環境負荷(L)を低減する取り組みを、次の3つのLR(※)で評価します。
LR1 エネルギーと水を大切に使う
LR2 資源を大切に使いゴミを減らす
LR3 地球・地域・周辺環境に配慮する
(※)LRは環境負荷低減性と呼びLoad Reductionの略
この6分野がさらに細分化され、「バリアフリー対応」「化学汚染物質の対策」など合計54の採点項目が設定されています。これらの項目ごとに1〜5までの点数を選びます。最終的に出たQの数値をLの数値で割ることによって総合的な環境効率BEEの値が算出され、この値の大小によって評価していきます。
■評価結果の表示シート(例)