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長火鉢を中心とする茶の間(LDK)。箪笥などの家具は、広さを感じさせるため、高さが700mm以下のものを揃えています。障子は組子3本の縦繁障子を特別につくり、ご主人が塗装。マンションの天井高を縦のラインを強調することで救っています。
水まわりの老朽化をきっかけにリフォームを計画したご夫婦が、「木の温もりに癒される住まい」を考え、趣味で集めてきた骨董家具をインテリアの随所に活かし、古材を利用した素敵なリフォームを実現されました。“和”のインテリアが見直される中で、長年ご夫婦で培った趣味をリフォームにまで広げた施主様にお話を伺いました。
ご夫婦は、18年前に新築のマンションを購入。3LDK(64㎡)の住まいは、角部屋で日当たりや風通しもよく、家族3人で快適に過ごされてきました。 リフォームのきっかけは、キッチンをはじめとした水まわりの老朽化です。4階の最上階で階下への水漏れの危険なども考えるとリフォームを急がねばならず、取り敢えず、和室と寝室の2室を残し、1LDK・トイレ・風呂・洗面室・玄関スペースをリフォームすることにしました。
引戸を開けた茶の間。テレビを収納。
リニューアル前のLDK
リフォーム前のLDKは、カーペットの床にクロス壁、サッシ戸と一般的な居室でしたが、ご夫婦はこれを、古材を利用した古民家風の住まいにしようと考えました。ご夫婦は以前から共通の趣味として陶芸を楽しまれ、また骨董や古民家が好きで、雑誌で情報を集めたり、旅先で古民家や骨董店に立ち寄るなどして、気に入った生活雑器や家具などを集めておられました。
ご主人は「どんな住まいにしたいかと考えたときに、最初に癒される、落ち着いた住まいにしたいと思いました。自然に古材を活用した古民家風の家が思い浮かび、これをマンションで再現できないかと考えたのです」と話されます。落ち着く住まいの空間。木の温もりや年月を経た民具や家具に囲まれた生活がイメージに浮かんだのでした。
家具その1
水屋ダンスの下段を単独に使ったもの。横は東南アジア製の梯子。インテリアのアクセントに使っている。
家具その2
床にはアジアンテイストの家具を置き、櫓炬燵(やぐらごたつ)の上枠を壁掛けに転用している。
家具その3
骨董品として入手した井戸ポンプもアクセントに。
ご夫婦は、まず知り合いの紹介で建築家に設計を依頼。さらにインターネットなどで近隣の工務店などを検索。何社かに実際話を伺いながら、お隣の川越市にある工務店に依頼することにしました。
工務店は日本民家再生リサイクル協会に所属。自然素材や伝統的な民家の古材、素材を再利用しての活用にこだわられ、新聞や雑誌、テレビなどでも紹介されていました。
訪れた「古材ギャラリー」で、対応された社員の方と意気投合。古民家への愛情や古材への知識、ご夫婦がこだわるリフォームに対して、丁寧にアドバイスしてくれる社員の方の熱心な姿に心を動かされ、同社を選ばれたと話されます。
茶の間から見た書斎コーナー(奥)側。
中央の大黒柱(太さ約21cm、ケヤキ)と梁は、新潟の農家で使われていた百年以上経過したもの。
階段ダンスを仕切りに使った奥の書斎コーナー。
リフォームに当たってご夫婦がまず考えられたのは、これまでの椅子に座る生活とは違った床に直に座わる生活です。
マンションは構造上の制約から、壁を抜くことができなかったため、LDKの構造は変えずに現状の間取りをそのままにリフォームすることを前提としました。まずLDKの中心にある袖壁に古材の大黒柱を立て、連続した天井の一部に現し梁を架け、LDKの中心をつくることにしました。
さらにこれまでサッシだった開口部は内側に障子をいれて二重とし、壁を珪藻土の和壁とすることで古民家風の雰囲気を演出しています。壁は最初、趣のある土壁を望んでおられましたが、ぼろぼろ落ちやすいなどの欠点があるため、珪藻土に藁を入れて、土壁の風合いや強度を補うようにしています。
床はこれまでのカーペットをすべて剥がし、古材の松の床板を使って張り替え、重厚感がありながらソフトな感触の床になりました。
また床座の生活は視線が低くなり、マンションの天井高(2400mm)を考えると一般的な高さの家具では圧迫感や狭い印象を与えることにもなります。ご夫婦はLDに置く家具の高さを700mm以下にすべて押さえる工夫で、広く感じさせています。
これらの古材は住まいのデザインが大方決まった段階で、「古材ギャラリー」にストックされた柱・梁・床材などから選んで使っています。
洗面室とバスルーム。透明感あるガラス素材が和の雰囲気と絶妙なハーモニーを醸し出す洗面室。
トイレ。古民具の糸巻をトイレットペーパー置きにして工夫。梯子は手拭きタオル掛けとして使用している。
玄関スペース。靴箱の外側はご主人の自作。上がり框の前は、小石を配し土間風に仕上げている。
キッチン向かい側の壁。今回リニューアルをしなかった和室と寝室の扉も、和風に仕上げている。
ご主人のリフォームに対する考えは、建築家や工務店の専門知識を借りながらも、任せっきりにせずにご自分の好みや思いを正確に伝え、「依頼主と建築家、工務店の3者が協力しあって住まいづくりをしたい」というもの。ご自身も古材の色調を揃えるのに苦心され、大黒柱や梁、障子などの塗装を手掛けられたり、壁塗りなどに挑戦。特に13枚に及んだ障子の框(かまち)、組子などの塗装は、大工さんのスケジュールに合わせるために帰宅後、深夜まで刷毛を握られました。
「建て主も家づくりにできるだけ関わられた方が愛情がわき、家への理解も深まる」との工務店の考えから、「セルフビルドの部分を残すようにしている」とのこと。
リフォーム後の住まいに対してご夫婦は、障子のおかげで夏の朝の日差しが部屋に入らず、暑くならない(目覚めが気持ちよい)。壁の調湿効果でサッシ窓に結露がなくなった・・・などの変化を挙げられています。何より、「素足で床の上を歩き、柱や壁に触る。この感触が住み心地につながっています。本当に落ち着ける住まいができました」と満足そう。
真夏に1ヶ月半の工期で完成したリフォームで、ご夫婦は、「自分たちのこだわりを形にするのは思ったよりも大変でしたが、その分、完成後の喜びも大きい。」と話されています。
ご主人が作られた間取り図。
拡大図はこちら >>>
所 在 地 |
: |
埼玉県富士見市(高野邸) |
設 計 |
: |
ビルディングランドスケープ |
施 工 |
: |
家づくり工房(古材ギャラリー併設) |
構造・階数 |
: |
集合住宅(総戸数20戸)、4階建ての4階部分 |
住戸面積 |
: |
64m2 |
工 期 |
: |
約45日間 |
工 事 費 |
: |
約400万円 |
築 後 |
: |
18年 |