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耐震強度偽装問題がマスコミなどで取り上げられる中、耳にする機会が増えた「耐震構造」。今回の問題をきっかけに、建物本体の揺れを小さく抑える「免震構造」、「制震構造」に注目が集まっています。そこで、これからの住まいづくりの視点に欠かせない耐震構造について、特に一戸建て住宅にも広がってきた免震・制震構造の特徴について、東京工業大学教授、建築物理研究センター長の和田章氏にお話を伺いました。
■阪神・淡路大震災の死亡原因
約8割の方が住宅の倒壊によって亡くなられています。
※出典:『阪神・淡路大震災調査報告総集編』(阪神・淡路大震災調査報告編集委員会)より作成
地震に耐えるように考慮して設計された構造を、耐震構造と言います。日本は過去に何度も大きな震災に見舞われており、そのたびに尊い人命が失われ、甚大な被害を受けています。その教訓を活かしながら建築基準が改正され、耐震技術も進展してきました。このような技術を駆使した住宅づくりをしておけば、巨大地震から身を守ることができるのはもちろん、地震後も建物の補修がさほど必要なく、普段通りの生活を続けられます。
1920(大正9)年に日本最初の建築法規が施行されました。イタリアなどヨーロッパの国々には、古くから耐震設計という考え方がありましたが、世界で最初に法制化したのが日本です。関東大震災の翌年、1924(大正13)年には、耐震構造学の第一人者と呼ばれた佐野利器(さのとしかた)が提唱する「耐震規定」が初めて法律に盛り込まれました。これ以降、数々の震災を教訓として耐震構造技術が向上し、建築に関する基準が改正されてきました。
特に、1978(昭和53)年の宮城県沖地震は都市型地震として甚大な被害を出したため、1981(昭和56)年には建築基準法の「大改正」が行われました。この改正で震度6強の地震が起きた際、家が傾くことはあってもつぶれない、という基準が設定されました。
1981年の大改正後も、一部法改正が行われましたが、大枠の「震度6強の地震が来たとき、傾きはするけど、つぶれない」という基準は変わっていません。いわば、命さえ助かればいいという最低基準です。
しかし、これだけで本当に十分だと言えるでしょうか。最低の基準はあっても、建てる土地の地盤や建て主の希望など、各々の諸条件を踏まえたうえで、地震の後もそのまま住み続けることができる家を、十分な強度で建てておくことが、今後もっとも求められていくと思います。
固い地盤の上にしっかりとした基礎で建ち、壁が十分に配置された長方形に近い形状が、地震に強い住宅です。
壁を上手に配置していなければ鉄筋でも弱くなるし、木造でもきちんと筋交い(すじかい)や壁が入っていれば、強くなります。ポイントは、地震のショックを吸収してくれる「「耐力壁」」の配置と量です。
住宅の立地は、丘陵地などの固くてしっかりとした地盤を選ぶことが大事ですが、弱い地盤でも、固い地盤まで杭を打ち込むなどの補強をすれば、安全性は高まります。
建物の形状はシンプルな長方形か、少々の出入りがある程度のものがベストです。木造建築の場合は、太くて腐りにくい、質のいい構造材を選び、耐力壁、筋交いがきちんと入っているかどうかが重要となります。
複雑な形よりも、長方形や正方形などの単純な形状のほうが、耐震性が高い。
1階部分に車庫や開口部の広い窓が多い場合など、壁の少ない構造は耐震性が低い。
最も大事なのは、建築物に地震などによる外力がかかった場合、その水平力を保持するために構造を支える筋交いや構造用の合板で構成された壁=「耐力壁」の量とバランスです。柱と梁が建物の重さを支えているのに対し、耐力壁は地震のショックを吸収してくれる役割があります。
間取り図(平面図)を見るときは、耐力壁が建物の東西南北にバランスよく配置されているかどうかを確かめましょう。
例えば、北側にはトイレや納戸を配置して壁が多くなり、南側は柱と窓ばかり、という住宅が住みやすいと考えがちですが、これでは地震のときに南だけ動き、ねじれてしまいます。それが原因となって崩壊する可能性があるので、木造でも鉄骨でも十分な量の耐力壁がバランスよくしっかりと入っていることが大事です。
◎よい配置
開口部を減らし、筋交いや耐力壁を増やす。
△よくない配置
開口部が多いほど地震に弱い
地震に耐えるように設計された耐震構造には、現在大きく分けて3種類あります。建物全体で地震の揺れに対応する従来型の「耐震構造」、基礎と建物を切り離してその間に免震装置を入れ、建物本体への揺れを軽減させる「免震構造」、建物内部に制震装置を取り付けてエネルギーを吸収する「制震構造」です。
従来型の「耐震構造」は柱や壁を強化し、建物全体で揺れに対応する構造です。人命を守ることが優先され、壁や梁が一部痛んだり壊れたりすることはやむをえない、というものです。
これに対して「免震構造」と「制震構造」は、建物全体で揺れに対応する構造ではありません。「免震構造」は、建物と基礎の間に水平方向に自由に動く「積層ゴム」などを設置して、地表の揺れを建物上部に伝わりにくくする構造です。
一方の「制震構造」は、建物の中に「ダンパー」と呼ばれるエネルギー吸収装置(=制震装置)を組み込んで、建物本体に伝わった揺れのエネルギーを吸収し、揺れを小さくするというものです。超高層ビルなどで制震構造が採用され普及されてきています。40階程度のビルでは、制震構造にすることで細い柱や梁にすることも可能なことから、本体をつくる費用が安くなり、免震や制震を採用しても、コスト的には変わらなくなってきています。
[一般住宅]
地震の揺れが直接建物に影響し、家具の転倒や住宅の倒壊など、危険にさらされる場合がある。
[免震住宅]
免震装置が働き、揺れを軽減。家具の転倒等もほとんど起こりにくい。基礎部分に架台を組み建物を浮かせる免震装置は、地震で建物が揺れ動いたときも支え続ける「支承」と元に戻す「復元」から成り立つ。
地震を建物の入り口でカットする免震構造は特に注目されています。中国では地震と建物の縁を切るという意味で「隔震構造」と呼んでいます。 日本でも、土台と柱はしっかりと留めておくけれど、基礎と土台はくっつけず、ただ乗せておくだけという免震構造に近い方法が、関東大震災の前から一部でとられていました。こうしておけば地震が起こったときに基礎と土台の間がすべって、上の建物はそれほど被害を受けないという知恵です。
免震装置によって揺れが大幅に軽減され、住宅の倒壊のみならず、揺れに対する恐怖も軽減される。
1981年の改正では「新耐震設計法」と呼ばれる、新しい設計基準が設けられました。
鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造といった構法ごとにその耐震基準が示されましたが、木造住宅では、壁量規定の見直しが行われました。この基準による建物は、1995年の兵庫県南部地震においても被害が少なかったと報告されています。
さらに、1995年末には大震災の教訓のもと、「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」が施行されました。この中で新耐震基準を満たさない建築物については、耐震診断が義務づけられ、積極的な改修が進められています。
大地震で被災された方は、地震のショックに輪をかけて、住居の修復に多大な経済的・精神的負担を強いられています。
免震・制震構造の最大の魅力は、住む人の安全を確保するだけでなく、地震直後から、普段通りの生活を営めるという点にあります。そういった頑丈な建物を皆がつくっておけば、巨大地震で都市が壊滅する恐れもなくなり、子どもや孫の世代まで豊かな街づくりが可能になるでしょう。
2004年には「免震建築物の構造方法に関する安全上必要な技術的基準」の改正があり、一戸建て住宅への免震装置の設計がしやすくなりました。
一戸建ての場合、現在約300〜500万円の費用が加算されるため、数十年に1度くるかどうかわからない地震のために、それだけの費用をかけたくない、と思う人もいるようです。
ところが、被害を受けてからもと通りの生活に戻すためには、経済的・精神的に莫大な負担がかかります。建物の修復だけでもそうですが、取り壊しから始めるとなると、数百万円ではすまなくなり、経済的な負担以外にも、さまざまな問題が発生してきます。
地震直後でも修復を必要とせず、普段通りの生活に戻るための「備え」という視点で、免震・制震構造を考えていただきたいと思います。
一戸建て住宅の場合は特に、建て主の意向が尊重され、最低基準さえ満たしていれば、法的には問題なしとされています。
しかし、みんながぜい弱な家を建てた場合、自分だけの問題ではすまなくなります。
大地震が起こったときには、傾いた家々が道路を占領し、道が塞がれて消防車などが通れなくなるかもしれない。地震の後には必ず火事が起こるので、そういう建物ばかりだと街全体にすぐ燃え広がってしまうでしょう。地震に強く丈夫な建物で街をつくることは、持続可能な社会にしていくための、私たちの義務だとも言えるでしょう。
免震構造の技術開発はどんどん進んでいます。高層ビルなどの需要の増加に伴い、免震装置もかなりコストダウンし、マンションなどでは積極的に採用されるようになってきました。
一戸建て住宅は費用がかかるとは言え、建てた後で免震機能をつけるよりははるかに安くすみ、少しずつ一戸建て住宅にも取り入れられるようになってきました。
今後、ますます需要が増え、量産できるようになれば、コストが安くなる可能性は十分あります。免震を取り入れたために、たとえ予定より狭い住宅になったとしても、経済的に余裕ができたら増築をするなど、方法はいくらでもあります。少子高齢化が進む中、これからの時代は住宅が余ってくることも予測されています。免震構造を取り入れて、安全と安心を手に入れるだけではなく、住宅の価値を高めることも、これからの住まいづくりに欠かせないポイントです。