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愛媛県松山市の中心部から車で数分の場所に位置するK邸。会社勤めの傍らライフワークの執筆活動などフリーランス的スタンスで働く30代のご夫婦が暮らす住まいは、建築面積12坪という狭小住宅です。建築探訪を趣味にする施主は、建築当初から住まいづくりの優先順位を、住宅の居住性よりも「外観も内観も楽しめる“建築物”をつくりたい」、「SOHOを全面に打ち出したい」と要望。3つの箱を重ねるイメージでつくられた3階建ての建物は、階段を外につけ、すべてが独立したフロアとして機能できるよう設計されつつ、住宅としても機能するように工夫されています。施主KさんこだわりのSOHOスタイルの住まいをご紹介します。
交通量の多い幹線道路に接するK邸は、道路に面する西側外観にヒノキのルーバーをつけた、らせん階段のあるおしゃれな3階建ての建物です。
学生時代に建築を専攻するなど、建築物を探訪するのが趣味という施主のKさん。建築関係のイベント会場で建築家と出会い、自分の家を建てたいという想いを形にしようと決め、K邸建築に踏み切ります。
最初に建築家に出した注文は1つ。「住宅ではなく、内観も外観も楽しめる建築物をつくりたい」ということでした。自身も大学で建築を学んだということから、単なる家ではなく“建築作品をつくる”という発想が生まれたのです。
K邸の最大の特徴は、設計段階から住むことだけを目的とするのではなく、SOHOスペースをつくることでした。ワンフロア・ワンルームの間取りは、1階はレンタルスペース、2階は住居スペース、3階はシェアリングオフィスというコンセプトにし、自身が住み続けることも、人に貸すことも可能な3フロアが重なった箱をイメージしてプランニングが始まりました。
Kさんの以前の住まいは、賃貸マンションです。家を建てるにあたっては、月々の住宅ローンの支払いが、賃貸していたマンションの家賃程度で手に入れることが可能、職場への通勤の利便性、レンタルスペース、住宅スペースの賃貸も視野に入れ、大きな道路に出やすく近くに大学があるといった条件で探し出したのが現在の土地です。
中央に玄関を配し、緩やかに分けられている3階のSOHOスペース。
敷地は、一般的には敬遠されがちな三角形の22坪の変形狭小地でしたが、条件に合致したことと隣接に大きな建物がなく、視界が開けた空間から圧迫感がないのも購入を決断した理由です。
三角になった変形部分は、小さな庭を作り、庭に面した1階の壁を一面ガラス張りにして花や景色を楽しめるように工夫しています。幹線道路に面するルーバーに覆われた部分も全面ガラス張りにし、西側正面の空間の広がりを取り込む設計にしています。ガラスを外の景色に合わせて配置することで閉塞感がなく、実際よりも広さを感じるように設計されています。
西側壁面の印象的なルーバーは、採光の役割も果たし、外からは中が見えないように、ヒノキの板厚部分を建物に対して垂直に並べています。そうすることでルーバー部分に奥行きが生まれ、目隠しの役割を果たしています。外と中を完全に隔離するのではなく、外の景色に建物が溶け込みながらプライバシーは守れるように工夫がされています。K邸ではガラス張りやフロアごとに大きな窓を取り、建物周囲の空間を効果的に取込むことで狭さを感じさせない開放的な空間を実現しています。
大きなガラス越しに花や景色が楽しめる、1階のレンタルスペース。
三角変形部分を小さな庭に。
1階のレンタルスペースは南北に細長く、中央の入口から入って右手の日当たりのよい南側にテーブルセット、北側にはカフェにも可能な仕様のガスコンロ、キッチンが設置され、ストックヤードを兼ねた造作の棚が設えられています。
床は、店舗等にも対応できるように土足で出入り可能なコンクリート仕上げ。内装はあえて必要最低限に止めたスケルトンで、借り手が自由に使えるように、用途を選ばないシンプルな空間にしています。
空間イメージを印象付ける照明もダクトラインタイプを採用するなど、借り手が自由に使えるコンセプトです。天井ではなく壁面に取り付けることで、空間で目立つこともなく、複数灯のスポットライトの角度を変えることで、空間に広がりのある明るさ感も演出できます。フロアスタンドなど、あかりを増やす場合に備え、床には埋め込みタイプのコンセントを先行配線しています。
庭を臨む南側壁面は、1m50cm×1m50cmの大きなガラス張りにしています。できる限り外光を取り込めるように取り付けられた大小さまざまなガラス窓から日が降り注ぎ、空間に広がりをもたせています。
1階レンタルスペースは、貸し出すことで収入を得てローンの返済にあてるという目的のほか、多くの人や文化などの中継点にしたい、知り合いが交流できる場を作りたいというKさんの想いが込められています。
また、天井の梁をそのまま出しているため、使い道が変わったときにも間仕切り壁やカーテンなどでスペースを分けて使えるなど、リフォームも可能です。
シンプルなつくりで可変性をもたせたレンタルスペース。水まわりが見えないように、造作のカウンターを配置。
空間に明るさと広がりをもたせる大きな窓は、防犯面や安全面から強化ガラスを採用。
すべてのフロアを用途に合わせてどのようにでも変えることができるよう、可変性を重視したK邸は、ワンフロア・ワンルームが基本の間取りです。各フロアが独立した使い道をできるように階段とトイレは、建物の外から出入りするようにしてあります。フロアを結ぶらせん階段の天井はガラスをはめ込み、風雨から安全にまもるだけではなく採光の役割をし、2階、3階の玄関を明るい空間にします。
らせん階段を上った2階が現在、Kさんご夫婦が暮らす住居フロアです。西側の玄関を中心にゾーニングされ、北側にリビングとダイニング・キッチン、南側に寝室と洗面スペースのあるユーティリティ。トイレ・バスルームは玄関入って正面に配置しています。トイレ・バスルーム以外は間仕切のないワンルームで、狭小を感じさせないゆとりの空間を確保しつつ、玄関を中心に緩やかに空間が分けられています。
シンプルなつくりからシャープになりがちなリビング空間に彩りを添える複数灯のあかりやインテリアは奥様のセレクトによるもの。低い位置を照らすフロアライトと照らす角度を変えられるスポットライトで落ち着いた雰囲気を演出。暖色系のソファやテーブル、グリーンのアイビーがくつろぎの空間を演出しています。「シンプルで模様替えがしやすく、気分転換に模様替えをするのも楽しい」と暮らしを楽しまれています。
らせん階段の天井もガラス張り。日が差し込む開放的な階段に。
西側のルーバー越しに日が差し込む明るい2階のキッチン(奥)。手前がリビング、左側は玄関。
3階は、Kさんの仕事とライフワークを両立させるSOHOスペースです。自身の執筆活動や資料を整理するためのSOHOスペースをつくることもこの家を建てる時の重要なコンセプトでした。
3階も2階の住居スペースと同様に、玄関から入ると左右対称の空間が広がります。現在は、Kさんとフリーでソーシャルワーカーの仕事をする奥様の2人でシェアしています。間仕切りではなく、玄関で緩やかに空間を分けることでお互いの気配を感じつつ、仕事に集中できる空間になっています。
北側に奥様のスペース、南側がKさんのスペースで、お互いのデスクや本棚等を設置したオフィスとして活用されているほか、打合せスペースも確保されています。南側スペースに置かれた大きなテーブルは、Kさんの設計で大工さんに造ってもらったオリジナルのテーブルです。2つの可動式の箱をくっつけたもので、分割しても使え、中は収納できるように工夫されています。
Kさんは、「この建物がコミュニティの発信基地になったらと考えてSOHOスタイルの家を建てました。この先、家族が増え、生活スタイルの変化によって新たな住宅を建てる時がくるかもしれないし、この場所を自分なりにリフォームして住み続けるかも知れない。いろいろな可能性を含みつつ、30代という若い今だからこそできる生活スタイルを満喫したい」と家への想いを語っています。「終の棲家ではなく、3つの箱が縦に重なった建築をつくりたかった」というKさんの言葉どおり、すべてのフロアがスタイリッシュかつ可変性のある空間を実現しています。
シェアリングできるように設計された、3階のSOHOスペース。中央のドアが玄関。
北側のシェアスペース。右側の玄関壁面により、ワンルームが個室のような空間に。
所 在 地 |
: |
愛媛県松山市 |
設計・監理 |
: |
道上 壯(VuA) |
構造設計 |
: |
建築技術研究所 |
施 工 |
: |
TSE |
構 造 |
: |
鉄骨造/地上3階建て |
敷地面積 |
: |
72.76m² |
建築面積 |
: |
38.38m² |
延床面積 |
: |
97.91m² |
竣 工 |
: |
2007年2月 |
工 期 |
: |
約180日 |