吉田兼好が「徒然草」の中で「家の作りやうは夏をむねとすへし・・・」と綴ったのは鎌倉時代のこと。当時の住まいは、湿気による変質や虫害から守るため床が高めになっており、今でも神社仏閣にその名残を見ることができます。このように、昔の日本の住まいといえば、夏の蒸し暑さ対策が主でした。柱がむき出しの隙間だらけの家。土壁は室内の湿度を調整する機能があり通風に優れていました。また、板張りの床には置き畳や円座を置いて座り、屏風やすだれで区切るなど、風通しを良くするための様々な工夫がなされていました。ただ、冬の寒さには大変弱く、人々は厚着をし囲炉裏や火鉢で暖をとるしかありませんでした。
戦後の混乱もようやく落ち着き始め、RC(鉄筋コンクリート)構造の市営・県営・公営等の集合住宅が全国的に増え始めました。それまでの木造住宅に比べ、格段に気密性の高い住まいに暮らし始めた人々は、台所で魚を焼くたびに家中が煙だらけになって困っていました。そこで集合住宅の供給側は、急ぎ台所への換気扇の標準装備化に取り組むことに。これに伴い、浴室の湿気やトイレのにおいを排出するための換気扇も普及し始めます。
オイルショックなどを経て、人々は省エネ、かつ快適な住まいを求めるようになります。寒冷地を中心に、暖房効率をより高めるアルミサッシ、新建材、グラスウールなどを用いたマホービン構造の気密・断熱住宅が普及していきました。また、建物の設計自由度を上げるため、壁付け換気扇からダクト式換気扇が求められるようになりました。
その一方で、冬季に窓を閉め切るせいで部屋に湿気がこもり、結露が生じて家が腐ってしまう問題が発生。住まい全体の換気を考える必要性が出てきたのです。
建材の多様化で住宅の気密性がますます高まる中、シックハウス症候群が社会問題となってきました。これは、新建材などから発生する化学物質で室内空気が汚染され、室内にいる人に目や喉への刺激・頭痛・めまい・吐き気・喘息などを引き起こさせるものです。日本では、主に室内の揮発性有機化合物(VOCs)の濃度を低減するために、住宅メーカーや、壁材・床材・接着剤・塗料などを供給する建材メーカーが対策に取り組んできました。しかし、VOCsは建材だけではなく、家具等からも発生します。また、喘息やアレルギーなどは、VOCsだけが原因とは限りません。そのため、住まいの空気質をいかに新鮮に保つかという視点から、機械換気設備の義務化が法制化されました。
また住宅においては、地球温暖化やエネルギー問題で国が普及を進めるZEH(※1)や省エネだけでなく、ウェルネス(健康)という観点からも長く安心して暮らせる性能が求められるようになってきました。
人は長い時間を室内で過ごし、多くの空気を体に取り入れることから室内の空気質(IAQ)を向上し、上質な空気環境を整える「スマートウェルネス換気」に関心が高まっています。