
事例から学ぶケアマネに好かれるコツ
福祉用具専門相談員として働いていると、利用者やケアマネジャーから「これって本当に自分の仕事?」と思うようなお願いをされることはありませんか?
たとえば…
歩行器を外に置くためのチェーンと南京錠を買ってきてほしい
シャワーチェアを納品したら…「ついでにお願い!」と頼まれたシャワー水栓の交換作業
年末年始の休業中に「どうしてもベッドを引き上げてほしい」との依頼
点検のついでに家具の移動を頼まれる
明らかに福祉用具貸与サービスには含まれない依頼でも、利用者の生活に必要なことだと断りづらいこともあると思います。しかし、安易に引き受けてしまうと「前回やってくれたのに、今回はダメなの?」と不満につながることも…。
今回は、こうした業務外の頼まれごと=「シャドウワーク」とどう向き合い、適切に対応すればいいか考えていきましょう。
シャドウワークとは、本来の仕事の範囲外の業務、目には見えない業務を意味し、最近ではケアマネジャー業務でも話題になっている言葉です。しかし、ケアマネジャーに限らず福祉用具サービスにおいても、利用者や家族、時にはケアマネジャーから、本来の業務以外の支援を求められ、対応に困ってしまうということもあるのではないでしょうか。
このような頼まれごとにうまく対応する前に、なぜこうしたシャドウワークが発生するのか、その背景にある社会的な変化と心理的な要因についてちょっと考えてみましょう。
1.独居や高齢者世帯の増加と支え手不足
高齢化や核家族化が進み、「一人暮らしの高齢者」や夫婦共に高齢で支え合う「老老介護」「認認介護」世帯が増えています。体力や視力・聴力の低下など身体面の変化や、理解力・判断力の低下、新しい家電やサービスなど環境変化についていけないなど、高齢者のみでは困りごとに対処することが難しいことも出てきます。
また、個別ニーズに対応できる行政サービスが不足している、気軽に相談や頼みごとができる「ご近所さん」がいないなど、フォーマル・インフォーマル両面での社会資源が不足している場合も多いのです。
2.「遠くの身内より近くの他人」
家族の関係は外からは見えづらいもの。「家族にやってもらえばいいのに」と思うことでも、子世代が親の困りごとに気づかず、十分にサポートできないということもあります。また、高齢の親世代のほうが、働き盛り・子育て中の子世代に遠慮してしまい「心配をかけたくない」という思いから、困っていても言い出せないことも少なくありません。
高齢者にとって、生活リズムが異なり接点が少ない家族よりも、定期的に顔を合わせるケアマネジャーや福祉用具専門相談員、ヘルパーの方が、相談したり頼んだりしやすいという場合もあるのではないでしょうか。
「いつも親切にしてくれるから」「福祉関係の人だから」という信頼感や安心感から、福祉用具専門相談員が「家族代わり」のように頼られるケースも生じています。
続いて、実際にあった事例を紹介いたします。
ある福祉用具専門相談員のAさんは、自宅での入浴が困難になってきていた利用者から「シャワーチェア」について相談を受けました。浴室環境の相談の中で、「手元のスイッチでお湯の出し止め操作ができるシャワーも便利ですよ」と何気なく話題にしたところ、「それもお願いします!」と注文されることに。「ついでなら」と住宅改修で取引のある業者を通じて入手し、シャワーチェアと合わせて販売することに。
担当者会議の日に、入浴補助用具とともにスイッチ式シャワー水栓を納品したところ、「今のシャワーと交換するところまでやってほしい」と。断りづらい雰囲気の中、ケアマネジャーからも「なんとかできない?」と頼まれて、慣れない交換作業をすることになってしまいました。この時は運よく無事に交換できとても感謝されましたが、水漏れ事故のリスクもあり、とてもひやひやしたとのことです。
→こんな状況を避けるためには、最初の対応や説明がカギ!
このケースでは依頼された時点で「商品の手配まではできますが、取り付けまでは行えません。それでもよろしいですか?」もしくは「私は専門ではないので、取り付け後に何かあっても責任を負うことができません。」と説明しておくとよかったでしょう。
また、ケアマネジャーにも上記のことを共有しておき、一緒にどこまで同意が得られているのか確認してもらうことでトラブル予防にもなります。
福祉用具専門相談員のBさんは休業日、いつも仲良くしているケアマネジャーから、急な連絡を受けました。
「〇〇さんが急に亡くなってしまい、ご家族が〇〇さんの寝室に祭壇を設置したいとのこと。 できれば今日中にベッドを撤去してほしいのですが…。」
普段ベッドの引き上げは2人で作業していたBさん。しかし、その日は休業日で、他のスタッフは誰も出勤していませんでした。ご家族の悲しみを考えると断りづらく、ケアマネジャーからの頼みもあって、結局Bさんは一人で対応することに。
なんとかベッドを引き上げたものの、「休みの日に一人で作業するのは危険だったかも。この対応で良かったのか」と後悔。さらに、「以前対応してくれたのに、今後同じようなケースで断ったら不満に思われるのでは?」という不安を抱えることになりました。
→ こうした「特別対応」は、事業所内でルールを決めておくことが大切!
いくら仲が良い関係でも、休日にケアマネジャーから福祉用具専門相談員に個別に連絡・相談をされるという状況は望ましくありません。 事業所として日頃の連絡方法や、休日の連絡先や対応についての説明を統一しておくなどしておくとよいでしょう。
1.「できること・できないこと」を事業所で統一し、スタッフ間で共有
・事業所として、できること、できないことやルールをハッキリさせる
・利用者やケアマネジャーにはあらかじめ業務内/外を意識して説明をする。
・対応するときは「今回のみ」「〇〇さん限定」と特別感を出すことで「以前はやってくれたのに、今回はダメなの?」を防ぐ
2.ケアマネジャーと情報共有し、適切な対応を相談する
・利用者や家族の「困りごと」を一旦受け止めたうえで、ケアマネジャーに報告、課題を共有し、自立支援や適したサービスにつなげられるようサポートする
・ベッドの引き上げなどの緊急対応について、事前にケアマネと話し合う
・福祉用具貸与以外のサービスをするときは、ケアマネジャーにも積極的に情報共有(事業所が勝手に対応しないようにする)
3.断る時は「代替案」を示す
・「〇〇は専門外なので、事故や故障にならないためにも工務店や設備屋さんに相談されると良いですよ」
・「お近くの便利屋さんを紹介しますね」など
福祉用具専門相談員は、福祉用具の選定や利用者の生活を支える大切な役割を担っています。
だからこそ、「ちょっとお願い」が増えがちですが、全てを受け入れるのはリスクが伴います。
やる時は、今回だけですよと「特別感」を出しつつ、恩を売る
ケアマネジャーと利用者のニーズを共有し、最適な対応を相談する
断る時は「代替案」を示して、嫌われずに切り抜ける
事業所全体で「できること・できないこと」を整理し、統一した方針を持つ
こうした対応を徹底することで、利用者の満足度を保ちつつ、福祉用具専門相談員の負担も軽減できるのではないでしょうか。
「親切」と「業務」のバランスを取りながら、適切な距離感で利用者の生活を支えていきましょう!