
事例から学ぶケアマネに好かれるコツ
福祉用具の選定前の「お試し」としてデモ対応をされている福祉用具事業者さんは多いのではないでしょうか?
「実際に触ったり置いたりしないとわからない」「いくつか比べてみたい」という利用者や家族。
「本人や家族が安全に扱えるのか確かめたい」「実際に使ってもらって必要性を納得してもらいたい」という担当ケアマネジャー。
このようなニーズに対応してくれる、福祉用具の「デモ」は双方にとって大変ありがたい対応です。
一方で、福祉用具の「デモ」の取り扱いをめぐって、思わぬ誤解やトラブルが生じるケースもあるようです。
ケアマネドットコムに寄せられたQ&Aの中から二つの投稿を事例としてご紹介いたします。
ケースその1
福祉用具の歩行器をお試しで使用されていた方がいました。8月上旬から借りていましたが機種変更や家族の都合もあり、担当者会議が8月中には開催できそうにありません。 福祉用具貸与事業所は8月分の半月だけでも請求したいとあり、9月2日に会議開催します。会議は9月ですがプランを遡って8月から開始という方法は可能でしょうか?
8月上旬から歩行器をお試しで利用した方がいました。福祉用具専門員さんは頑張って翌々日にはデモ機をお届け。迅速な対応に喜ばれましたが、最初に届けた歩行器は本人が気に入らず、途中で機種を交換し再度お試しした後やっと利用決定しました。
福祉用具事業者としては、本当は8月は1か月分請求したいところでしたが、「今月の請求は半月でいいですよ」とケアマネジャーに言ったところ、ケアマネジャーからは「今月中に担当者会議が開けないかもしれない、そうなったら今月は半月も請求できないかも」というまさかの返事。一生懸命やったのに、一体どうなっているのでしょうか?
一見、担当者会議の日程が月をまたいでずれ込むぐらいで何を困っているのだろうか?と不思議に思うかもしれませんが、実はここには「大きな落とし穴」があります。それは、このケースは、ケアマネジャーが「運営基準違反」を犯してしまい「減算」になってしまう危険があるというところです。
運営基準減算とは、簡単に言うと「運営基準」というケアマネジメント業務のルールを守らないことでケアマネジャー側の報酬がカットされてしまうというペナルティのことです。運営基準減算となった場合、ケアマネジャーが所属する居宅介護支援事業所の報酬のうち、対象利用者の分が50%カット、2か月続くと2か月目から報酬0となってしまいます。
このペナルティがどのような時に課されるか見てみましょう。
居宅介護支援の業務が適切に行われない場合
(2)居宅サービス計画の新規作成及びその変更に当たっては、次の場合に減算されるものであること。
①当該事業所の介護支援専門員が、利用者の居宅を訪問し、利用者及びその家族に面接していない場合には、当該居宅サービス計画に係る月(以下「当該月」という。)から当該状態が解消されるに至った月の前月まで減算する。
②当該事業所の介護支援専門員が、サービス担当者会議の開催等を行っていない場合(やむを得ない事情がある場合を除く。以下同じ。)には、当該月から当該状態が解消されるに至った月の前月まで減算する。
③当該事業所の介護支援専門員が、居宅サービス計画の原案の内容について利用者又はその家族に対して説明し、文書により利用者の同意を得た上で、居宅サービス計画を利用者及び担当者に交付していない場合には、当該月から当該状態が解消されるに至った月の前月まで減算する。
※「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について より抜粋
今回はこちらの②と③のルールに抵触する可能性があります。早速読み解いていきましょう。
②新しいサービスを導入した月に担当者会議を行わず算定してしまうと減算
③新しいサービスを導入した月にケアプランの同意と交付を行わないで算定すると減算
今回は、8月に歩行器を導入しているにも関わらず月内に担当者会議ができないから、9月に担当者会議をしてさかのぼって算定はできるでしょうか?と言っているので「運営基準違反」につながるケースというわけです。
この質問に対する他のケアマネジャーからの回答でもこの原則を厳密にまもるべしという立場からの意見が見られました。
「8月半月分、福祉用具貸与を算定したい。算定させてあげたい。利用者が既に利用して満足されている。 なら8月中に開催する一択です。 8月上旬にお試しされて、こんな月末に至る前に意向を確認できなかったのか? アクションが遅いです。 もう少し早く意向を確認し、8月末までにサービス担当者会議を開催する事、お試し利用される時に本人や家族に説明するべきではなかったかと思われます。
基本的に担当者会議前にサービス利用をさかのぼる事はできません。お試しで利用できるのも福祉用具事業所の好意なので、それが当たり前とも思わないほうが良いです。
ほかの回答には、担当者会議を本人のみの照会で開催とする、「ご家族の都合」という理由をもってやむを得ない事由にする(やむを得ない事由があれば当月内に担当者会議が開催できなくても減算にはならない)など、様々な対策案が回答されていました。
このQ&Aを通じて、サービス導入時の介護保険サービス(法定代理受領)の算定には「担当者会議・ケアプラン交付」が当月中に必要であることを再認識いただけたかと思います。さらに、このルールを逸脱するとケアマネジャーは運営基準減算という重いリスクを負うということも理解していただけたのではないでしょうか。
このようなケースにおいては運営基準減算回避のため「サービス開始は翌月からで」とあっさり言いきるケアマネさんもいれば、デモ中であることを忘れているケアマネさんもいたりと、ケアマネさんの特性や経験によってさまざまな対応を迫られることが考えられるでしょう。個性豊かなケアマネジャーと上手に連携しトラブルを防ぐためのアプローチを挙げてみます。
デモ後の流れを事前すり合わせ
いつまでがデモ期間なのか、利用確定時の手続きなどを明確にし、「いつまでに担当者会議を開催」をケアマネとすり合わせる。
利用者や家族への説明も大事
利用者や家族に対して、デモ期間や契約手続きの必要性を丁寧に説明する。この説明を「ケアマネ任せ」にしないことがポイントです。
デモ期間中のフィードバック
利用者からのフィードバックに加え、福祉用具専門相談員の視点から選定の見立てや判断を伝え、当月中のケアプラン変更を支援する。このようなフォローが、ケアマネさんの信頼につながります。
福祉用具貸与事業者側にとっても、サービス開始にあたっては、事前に担当者会議に参加し契約、ケアプランと提供票を得ることは不可欠なものです。ぜひ「当該月」中の着地点をケアマネジャーとすり合わせることを意識し、積極的に連携を図っていただけたらと思います。
ケースその2
新米ケアマネです。 6月15日に歩行器と杖をデモ機でレンタルされ、6月27日に担会と契約予定でしたが、22日に入院になってしまいました。
退院の目途もたっておらず、プランにサインももらわぬまま、福祉用具は契約もしないまま経過しております。
ご家族は遠方に住んでおり、デモ機は回収できない状態です。 ご家族はただ、こっちに来る機会があればいつでも返却しますと言ってくださっています。
福祉用具さんに上記の旨をお伝えし、入院中なので、月遅れの半月請求でお願いしますとお願いしたら、3か月以上入院になった場合、返却するにしろしないにしろ、請求を1ヶ月分あげてくださいと話がありました。
つまり、空請求で、実績ないのに1ヶ月分あげろってことですか? 「そう」とのこと。「当社の規定です」と言われて、混乱しています。。。。。。 ありなのでしょうか? 自治体に確認したら、こちらからは何とも言えませんとの回答です。 皆さんはそういう請求ってあげたことありますでしょうか?
デモ機で歩行器と杖を利用していた方が、デモ期間中、担当者会議前も終わらぬまま入院してしまいました。退院の目処が立たず、家族は遠方に住んでおり、デモ機の返却が難しい状況です。福祉用具事業所からは、利用実績がないのに1か月分の請求をあげるよう求められ、新米ケアマネジャーは困惑し、自治体にまで相談するという事態になってしまいました。
このケースでは何が起きていたのか、ケアマネジャー側と福祉用具事業者の両方の視点から背景を読み解いてみたいと思います。
質問文からは詳細は読み取れませんが、区分変更中だったのかこのケアマネさんは月遅れ請求をしようと考えていたようです。「福祉用具貸与を位置づけたケアプラン原案は作成していたし、急な入院により担当者会議が延期になっただけ。ケアプラン交付は後でもいいだろう。」「福祉用具サービスは入院で中断しただけだから、6月15日~22日分は半月分で請求できるだろう」と考えていた可能性があります。
その前提で進めようとしたところ、福祉用具事業者から「請求を1ヶ月分あげてください」と言われたことで「実際に使っていない入院期間も含めて請求するということ?」と思ってしまったのではないでしょうか。
では、誤解につながりやすい、福祉用具事業者からの「1か月請求」という言葉はどこから出てきたのかを今回のケースの流れに沿って考えてみたいと思います。
①ケアマネジャー側から「半月請求でお願いします」と言われたことで、6月分は介護保険で算定できると早とちりした可能性
②3か月以上の入院の場合は社内規定に則り解約=納品と入院(解約)が同じ月になるから「同月内解約」になると先走って予想した可能性
③この福祉用具事業者の場合、「同月内解約」の場合は1か月請求という内部ルールがあった可能性※
このような思い込み・予想、事業者側の独自ルールを背景として、「1か月請求」という言葉を不適切な形で伝えてしまったのではないかと考えられます。
※同月内解約時の請求ルールは事業者や自治体によって異なります。
こんにちは、上記のケースについては、担当者会議を開催せず、ケアプラン同意を得ていない以上、算定不可と考えます。 また、速やかに、福祉用具の回収を図るべきと思います。ひとり暮らしであっても、入院するための備品、支払いなど、支援する人があると思います。民生委員など、当たってみては、いかがでしょうか?
それでも、回収できないのであれば、福祉用具事業者に、遠方の家族に自費で、契約するしかないと思います。そのような福祉用具事業者を利用すると、判断したのは、本人、家族ですから、そこは、仕方ないと思います。
デモ貸与はあくまでもデモ。サービス担当者会議にてプランが確定してはじめてサービス利用になるという事を知らない福祉用具貸与事業所はこちらの地域ではおりません。
皆さんはお気づきでしょうか?
このケースですが、実は「月遅れ半月請求」も「1か月請求」も福祉用具の算定は不可能なのです。つまり、介護保険算定に関しては、ケアマネジャーの認識も福祉用具相談員の認識も間違っているということです。たとえ区分変更中で月遅れ請求だったとしても、担当者会議もケアプラン同意も終わらぬまま入院してしまったため、「福祉用具を無料でお試しレンタルして終わっただけ」というのが実態でした。
加えて、ご本人が入院したばかりなのに、福祉用具事業者側が先走って「3か月以上入院した場合」という前提で話を進めてしまったことで、事態が混乱してしまいました。
想定外の入院という事態、介護保険の算定をめぐる早とちり、福祉用具事業者側の解約や請求ルールについての説明不足、コミュニケーション不足が誤解やトブルにつながったケースといえます。
介護保険で請求できるのか見極める
デモ対応をしていると、いつから介護保険として請求できるのかがあいまいになりがちです。またケアマネさんも常に正しい指示を出してくれるとは限りません。誤った保険請求をすると、返戻になったり報酬の返還を求められたりする場合もあります。介護保険で請求できるのかどうか、サービス側の要件を確認して正しく判断していきましょう。
解約や請求ルールの説明を丁寧に
「同月内解約」の請求ルールがある場合、事前の説明が重要です。デモ対応の場合、「正式に利用決まってから、重要事項説明するからいいか」と説明が後回しになってしまう場合があります。今回のケースのようことが起きるリスクもあるので、費用が発生する可能性については、事前に利用者・家族・ケアマネジャーに説明し同意を得ておくことが大切です。
以上、福祉用具のデモをめぐってありがちな、ケアマネジャーの悩みや誤解と、対策について見てきました。最後に福祉用具のデモ期間中に発生し得るトラブルを未然に防ぐためにさりげなくできる方法のご提案です。
1.デモ開始時の「説明書」を用意
新規のご利用者や付き合いの浅いケアマネジャーに対しては、信頼関係を構築するためについ「しばらく使ってからでも大丈夫ですよ」とサービス精神を発揮してしまいがちですが、本当の信頼関係構築のためには「最初のルール説明」こそ重要です。
自社のルールを織り交ぜた「新規利用の手続きについて」などのわかりやすい説明書の作成はいかがでしょうか?デモ開始時の流れに組み込み、ご利用者とケアマネにお渡しして説明することで「説明した」という記録にもなるので良いかもしれません。
2.ルールがある上での『柔軟な対応』
さまざまなケースに対応していると、最初に説明したルールだけでは対応しきれない状況に直面することがあるかもしれません。そのような場合は、『ルールとしてはこうですが、この範囲であれば対応可能です』という形で対応してみてはいかがでしょうか。これにより、トラブルを最小限に抑えつつ柔軟な対応ができ、ケアマネジャーからの信頼を得るきっかけにもなるかもしれません。
3.『柔軟な対応』の範囲を決める
突発的な判断を迫られると、とっさに答えてしまい後から後悔するといったことにもなりかねません。そういったことを防ぐために、利用者の突発的な入院や予定外の利用中止、急な引き上げ依頼があったときなどの場面を事業所内で想定し、どこまで対応可能かも含めたフローについて共有し、必要時の判断基準を作ってみてはいかがでしょうか。予定外なことが起きたときこそ、ケアマネジャーと状況の認識をすりあわせ、対応を相談していくことも重要です。
デモ対応をするときには、これらの注意点を意識することで、トラブルを防ぎ、ケアマネジャーとの信頼関係を深めることにつなげていただければ幸いです。ぜひ日々の業務にお役立てください。