
事例から学ぶケアマネに好かれるコツ
福祉用具の「貸与と販売の選択制」が導入された時期、皆さんはどう対応されていましたか?
「うちはきちんと説明していましたよ」と自信を持って答えられる方もいれば、 「あれって…ケアマネジャーの仕事じゃないの?」と戸惑いを感じていた方もいたかもしれません。
この選択制が始まった直後、現場ではケアマネジャーと福祉用具専門相談員の間でちょっとした混乱も。その背景を見ていくと、「制度対応力」だけでなく、「チームとしての動き方」が問われていることがわかってきました。
今回は、この時の混乱の背景を深掘りすることで、制度改正にまつわる連携のあり方について考えていきましょう。
「福祉用具の「貸与と販売の選択制」が導入された直後に、あるケアマネジャーからこんな投稿が寄せられました。
ある利用者さんは、以前から杖を利用されていました。 その方のケアプラン更新のタイミングで、私は担当の福祉用具専門相談員さんにこう尋ねたのです。
「今回から、福祉用具の販売かレンタルか選べるようになりましたよね。 そのことって、福祉用具事業所からもご利用者に説明しているんですか?」
すると、返ってきたのは少し意外な答えでした。
「いえ、うちの事業所では、そういった説明はしていません」
あまりにもハッキリ言われてしまって、正直びっくりしてしまいました。
「えっ……? でも、それって福祉用具事業所としても伝えるべき内容なんじゃないの?」
頭の中は疑問だらけでしたが、とっさに「では、私から説明しておきますね」と返すのが精一杯でした。
このケアマネジャーさんは「福祉用具に関する制度変更だから、担当の相談員さんから利用者さんに説明してくれているだろう」と期待していたのでしょう、「うちでは説明していません」という、あまりにあっさりとした返答にがっかりしてしまいました。一方で福祉用具専門相談員さんは「ケアマネさんが説明するべき内容」だと思っていたのかもしれません。
ここでは「相手が説明すべき」というそれぞれの思い込みから行き違いが生じているようです。
福祉用具の選択制では、利用者が適切に選択できるように、必要な情報を提供することが求められています。具体的には、貸与と販売それぞれの利用者負担額、利用期間の見通し、長期・短期利用による費用面での違い、さらには福祉用具ごとの平均利用月数(例:固定スロープ13.2ヶ月、多点杖14.3ヶ月など)などを含みます。こうした情報は、福祉用具専門相談員または介護支援専門員のいずれかが提供することとされており、内容に応じて適した立場の者が説明することとなっており、どちらが説明すべきと明確にはされていません。
とはいえ、現場では「説明はケアマネ任せ」となってしまっている例もあるようです。ケアマネ側にとっては、「情報を出してくれない」「一緒に考えてくれない」と感じてしまうことも。制度をどう伝えるか、どう記録に残すか。そこに対する意識の差が、信頼関係にも影響を与えかねません。
2024年4月、福祉用具の「貸与と販売の選択制」がスタートしました。これは、スロープ、歩行器、単点杖、多点杖の4品目について、従来の「貸与」一択ではなく、「販売」も選べるようになった制度です。選択肢が広がったことで、費用や使い方を踏まえて、自分に合った方法を検討できるようになりました。
特に注目すべきは、制度の対象が「施行日以前から利用していた人」も含む点です。つまり、今まで貸与で使用していた方も、希望すれば販売に切り替えることが可能です。過去からの利用者も制度の説明と見直しの対象になることを、現場全体で共有しておく必要があります。
さらに、施行後に貸与を始めた場合には6ヶ月以内のモニタリングが義務化されており、継続利用が適切かどうかの確認も必須になっています。これはケアマネジャーだけでなく福祉用具専門相談員にとっても重要な役割です。
制度の導入に伴い、福祉用具事業所では利用者に対し「販売」「貸与」それぞれの選択肢について、明確な情報提供を行うことが求められるようになりました。とくにポイントになるのはこのあたりです。
長期利用が見込まれる場合は販売の方が安価になる可能性があること
短期利用であれば交換や返却がしやすい貸与のほうが適していること
月々の費用の違い、平均的な利用月数(例:固定スロープ13.2ヶ月)など
こうした情報は、福祉用具専門相談員またはケアマネジャーが内容に応じて説明することとされています。また、説明を行った事実は、計画書やモニタリングシート等に記録することが望まれます。
一方で、「販売品のアフターケアは基本的に利用者負担」「中古品販売は原則不可」など、販売ならではの留意点も存在します。福祉用具を「貸与から販売に切り替える」場合や、「同一種目で再度貸与を希望する」ようなケースでも、柔軟な対応が可能である一方、適切な情報提供と記録、関係機関との連携が求められます。
福祉用具の選択制に限らず、制度改正のたびにケアマネジャーが直面するのは、膨大な情報とその取捨選択です。居宅サービス計画に位置付ける可能性のあるすべてのサービスの変更点を理解し、必要な利用者やご家族に説明を行い、必要があればプランの見直しや担当者会議の調整、さらには医学的所見の確認まで──ケアマネに求められる「やること」は一気に膨らみます。
それでいて、制度改正が現場に降りてくるのは施行期日ぎりぎり、行政からの通知は専門用語が多く、わかりにくい表現で書かれていることも珍しくありません。報酬改定に伴って発出されるQAは次から次へと増えていき、それらを一つひとつ読み解きながら、現場の実務に落とし込むという作業は、時間も体力も精神力も使います。
結果として、現場は慢性的な情報過多と時間不足に陥りがちで、「知っているつもりだった」「あとで確認しようと思っていた」が命取りになる場面もあります。特に制度改正の初動期は、誤解や勘違いから連携ミスが発生するリスクが高まるため、情報共有の仕組みづくりが不可欠です。
制度改正のたびに経験を積んできたベテランケアマネなら、優先順位のつけ方や情報の読み解き方をある程度身につけているかもしれません。しかし、まだ経験年数が少ない新人ケアマネジャーにとっては、制度改正そのものが初めての体験ということも珍しくありません。
「この件は説明すべきなのか?」「モニタリングは必要?」「医師に聞くべき?」「販売も位置付けが必要?」――日々の業務の中で迷いが積み重なると、やがてそれは大きなストレスになっていきます。さらに、先輩ケアマネごとに制度の解釈が微妙に異なっていると、誰の言うことを信じればよいかもわからなくなり、混乱に拍車をかけます。
制度改正という「現場での運用がまだ定まっていない状況」で、一人で判断を迫られることの不安と孤独。そんなときに、制度内容をきちんと把握し、わかりやすく情報を伝えてくれる福祉用具専門相談員がいてくれたら、ケアマネにとっても非常に心強くありがたいものになります。
制度改正のたびに現場が混乱するのは、ケアマネだけの問題ではありません。福祉用具専門相談員もまた、事業所内で新たな制度の解釈や対応方針をすり合わせながら、日々の業務に追われているのではないでしょうか。しかし、そんな中でも「この人がいてくれてよかった」と思われる相談員には、ある共通点があります。それは、“一緒に考えてくれる姿勢”です。
制度の細かい解釈や記録方法など、グレーな部分があるときに「これはケアマネの仕事」「うちはそこまでしていません」と突き放すのではなく、「うちではこうしていますが、どうしましょうか?」と歩み寄ってくれる相談員に対して、ケアマネは深い信頼を抱きます。
たとえば、選択制についても継続して利用されているケースへのフォローとして「販売と貸与の違いを説明しておきました」と言ってもらえると、ケアマネは説明の重複を避けられ、利用者への対応もスムーズに進みます。こうした“気づきの共有”こそが、ケアマネの業務負担を軽減する大きな助けとなるのです。
信頼される相談員は、説明・記録・連携という三本柱をバランスよく実践しています。貸与と販売のどちらかを提案する選択制対応の中で、どのような実践があるかを見てみましょう。
利用者への説明
貸与と販売の利用者負担額や利用期間やメンテンナンス方法の違いなどを利用者に説明する。
説明内容の記録
「福祉用具貸与計画」や「モニタリングシート」に利用者に説明した内容を記録する※
ケアマネジャーと共有
提案や説明の内容を担当ケアマネジャーに速やかに伝える。こうすることで、ケアプラン作成時や担当者会議での同意形成がスムーズに進む。
主治医等の意見の確認
医師等の意見が必要になりそうな場面では、「主治医意見書に意見の記載などありましたか?」「もしお話を伺っていたら教えてください」などとケアマネジャーに確認する。
モニタリング前の声かけ
「次回は〇月にモニタリング予定です」とケアマネジャーに伝える。こうすることで「しっかり点検してくれているな」という安心感や、「相談したいことがあるから、一緒に訪問しよう」というきっかけを与えることになる。
以上のような説明・記録・連携の積み重ねが「頼れる人だ」という評価につながります。
制度に詳しい人というだけでなく、「現場で一緒に動いてくれる人」としての存在感が、ケアマネにとって何より心強いのです。制度改正のたびに頼られる存在になるためには、知識だけでなく、行動で実力を示していくことも重要です。
※参照:「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15日)」
〇 貸与と販売の選択に係る情報提供の記録方法について
問103 福祉用具専門相談員は、利用者に貸与と販売の選択に資する適切な情報を提供したという事実を何に記録すればよいのか。
(答)福祉用具貸与・販売計画又はモニタリングシート等に記録することが考えられる。
制度改正のたびに厚生労働省から発出される通知やQAは、ルールがどう変わるのかや、運用上の注意点を理解するために、福祉用具専門相談員にとっても重要な情報源です。しかし、行政文書はどうしても専門用語が多く、慣れていないと読みにくいのが正直なところです。だからこそ、「読み方のコツ」をつかんでおくことが制度に強くなる第一歩になります。
まず、改正内容の要点を把握するには、「厚労省の通知本文」よりも「Q&A形式の資料」に注目しましょう。とくに『問〇〇』形式で整理された資料は、現場で実際に起きうる疑問に沿って書かれているため、実務に落とし込みやすいです。「問99〜104」など、具体的な項目で情報を探すと、必要なポイントが見つけやすくなります。
次に意識したいのは、「自分の立場で関係がある部分から優先的に読む」こと。例えば、販売・貸与の選択肢に関する説明責任や記録については、相談員自身が対応する場面が多いため、そこを重点的に読み込んでおくと、現場対応にも迷いがなくなります。
通知やQAだけでは見えてこない「実際の運用」や「現場での困りごと」は、やはり現場の声から得るしかありません。情報収集は“読む”だけではなく“聞く”ことも大切です。ケアマネや他の相談員との雑談、サービス担当者会議のちょっとしたやり取りの中に、制度改正への対応ヒントが隠れていることもあります。
また、インターネット上のケアマネ向けコミュニティや業界誌、研修会なども情報源になりますが、単に「知る」だけではなく「今の仕事にどう落とし込めるか」を考えることがポイントです。そのためには、自分の中で“比較軸”を持つことが重要です。たとえば、「この変更は過去の改正と何が違う?」「このケースでは販売が向いている?」など、自分なりの判断基準をつくっていくことが、実務対応力を高めます。
そして何より大切なのは、疑問があったときに「恥ずかしがらずに聞ける関係性」を日頃から築いておくことです。相談できる相手がいれば、制度改正のたびに抱える不安はずっと小さくなります。自分自身が“聞かれる側”になれるよう、日々の経験を情報に変えていく視点を持ちたいものです。
制度改正は、多くの人にとって「厄介なもの」として受け止められがちです。特にケアマネジャーにとっては、膨大な通知やQAを読み解き、利用者に説明し、必要に応じてケアプランを見直すという負担が一気にのしかかってきます。現場が混乱するのも当然のことです。
しかし、そんな時だからこそ、福祉用具専門相談員の存在が光ります。選択制のような新制度への対応を「ケアマネ任せ」にせず、「一緒に考える」「情報を共有する」「記録を残す」といった当たり前のことを確実に行うことで、相談員への信頼は確実に積み重なっていきます。
今回の制度改正は、私たちに問いかけています。――「制度が変わったとき、あなたはどう動く人ですか?」と。事前に情報を収集し、現場での困りごとを拾い上げ、ケアマネとともにベストな対応を模索していく。その姿勢こそが、これからの福祉用具相談員に求められている力です。
制度に強い人は、最初から知識が豊富な人ではありません。変化に対してアンテナを立て、他者と協力しながら一歩ずつ実務に落とし込んでいける人です。そうした人こそ、改正時にこそ頼られる、信頼される相談員として、長く現場で活躍していけるのではないでしょうか。ぜひ、次の2027年度の改正に向け取り組んでみてください。