事例から学ぶケアマネに好かれるコツ

「なぜこの用具が必要か」を説明できますか?
軽度者例外給付の根拠と対応方法

介護保険制度では、要支援1・2や要介護1の軽度者に対して、一部の福祉用具は原則として貸与の対象外とされています。ただし特定の条件を満たせば、これらの福祉用具を軽度者でも利用できるルールがあります。これが「軽度者の例外給付」と呼ばれています。

  • <軽度者が原則給付対象外となる福祉用具>

    ・ 車いす(付属品含む)
    ・ 特殊寝台(付属品含む)
    ・ 床ずれ防止用具
    ・ 体位変換器
    ・ 認知症老人徘徊感知機器
    ・ 移動用リフト(つり具の部分を除く。)
    ・ 自動排泄処理装置
    ※自動排泄処理装置(尿のみを自動的に吸引するものは除く)については、要介護2及び要介護3の者も、原則給付の対象外。

軽度者の例外給付の条件やルールは福祉用具の品目ごとに違うので、ケアマネジャーも判断に迷ってしまうことも少なくありません。そんな時に、福祉用具の専門家として適切なアドバイスができたらいいですよね。

本記事では、軽度者の福祉用具に関してケアマネジャーがどのような点で悩みやすいのか紹介し、福祉用具専門相談員として押さえておくべきポイントを解説します。

1.軽度者申請に関するケアマネジャーのお悩み

足部挙上の目的で、軽度者申請してベッドを変更すべき?
要支援2の認定を受けている利用者さん。
色々な疾病があり、両足に浮腫みが出ています。起き上がりは自力で行えるため、自費で特殊寝台のレンタルをしています。現在のベッドでは足先が下がってしまうため、足先を平行にできるベッドに変えたいとの意向がありました。

軽度者申請をしてベッドを変える必要性があるのかどうか、悩んでいます。 皆さんならどうされますか?

このケースでは何が起きているのでしょうか?

ケアマネジャーは、利用者に自費レンタルと軽度者例外給付どちらが適しているのか、判断に迷ってしまっているようです。そんな時、福祉用具専門相談員からも、自費レンタルと軽度者例外給付の違いについてわかりやすく説明することで、適切な判断・選定をサポートすることができます。

以下の表は、自費レンタルと軽度者例外給付の違いをまとめたものです。

項目 自費レンタル 軽度者例外給付
介護認定 不要
※軽度者専用を除く
必要(要支援・要介護)
利用できる人 誰でも利用可 厚生労働大臣が定める告示に該当する対象者※
ケアプラン・給付管理 不要 必要
手順 利用者と福祉用具事業者が直接契約すれば、すぐ利用開始。 ・ケアマネジャーのアセスメントによる必要性の判断
・ケアプラン原案作成
・認定調査票の結果、医師の所見、専門的見地をふまえて担当者会議でケアプランについて検討
・保険者が医師の意見やケアプラン内容を確認し、給付の可否を判断
利用開始条件 - 給付が認められる必要あり
費用負担 全額自己負担 負担割合(1~3割)に応じた負担
適しているケース お試しや一時的な状態変化への対応など、比較的短期の利用に向いている 疾病その他の原因により、状態が急速に悪化するなどし、必要性が高い状態が見込まれる場合など ※

自費レンタルと軽度者例外給付、それぞれのメリット・デメリット、適用条件があります。どちらが適しているかは、利用者ごとのニーズや経済的な負担など、総合的な状況によって異なるため、多様な選択肢を提示することも大切です。

※ 要介護度は軽度であるものの、特殊寝台や車いすの必要性が高い状態が見込まれる場合には例えば「末期がん」の方などが挙げられます。介護認定を受けた時点では介助なく寝起きや歩行が行えていても、病気の進行により急激に身体能力や体力が低下する時期が見込まれるからです。また呼吸器疾患の方の場合も、比較的症状が軽い時には生活動作が自立していても、急に症状が悪化し生活動作の負担軽減が必要となる場合があります。

また、パーキンソン病の方で症状の日内変動から自力で動ける時と動けない時の差が大きい場合、転倒リスクや介護負担の観点から福祉用具の必要性が高くなる場合もあります。

状態悪化や転倒事故が生じてから、区分変更・介護認定結果を待って福祉用具を導入するというプロセスを経ると時間がかかるため、軽度者例外給付で早めに対応をする必要性が高いといえます。

終末期の状態変化の図

Lynn J.Serving patients who may die soon and their families. JAMA 285 7.2001

今回の事例では、「浮腫み対策として足元を挙上したい」ということが主なニーズのようです。確かに、特殊寝台の機能の一つに足元を挙上できるものもありますが、起き上がりや寝返りの動作は自力で行えているということから、軽度者例外給付の理由としては不十分と判断される可能性が高いといえます。事例にもありますが、浮腫対策として毛布やクッションを足下に入れる、座る時にオッドマンに足をのせるなど、代替案も検討していけるとよいでしょう。

準備万端で軽度者申請したつもりが... すんなり認められない
要支援1の方が免許返納を機にシニアカーの利用を検討することになりました。

主治医からは「シニアカー使用は問題ない。日常的な移動支援として在宅生活を継続するにはシニアカーは必要である」と意見いただきました。

ケアマネとしては「運転をやめた事で活動範囲の狭小化、活動性低下に伴い心身機能やQOL低下の懸念」「自立支援、在宅生活継続のためにもシニアカーは必要」との理由で軽度者申請をしました。 すると保険者から電話で

①車の運転の代替手段としてではなく、屋外で車椅子が必要か? 車の代替手段であれば、タクシーで代用できるのではないか?
②シニアカーは車椅子に電動機能がついているとの考えで、介助者の負担軽減を図るなどの目的があるがその点はどうか?
③行政の施策で自主返納者はタクシー券交付または、シニアカー購入補助 (6万円)があるが、そちらは検討されなかったのか?そちらでの対応ではだめなのか?

と問い合わせがあり、返答保留中です。しっかり準備して申請したつもりだったのに、スムーズに認められずとまどっています。どうすればよかったか、ご意見を聞かせてください。

こちらは、十分な準備をして軽度者申請を行ったのに、手続きがうまく進まず、ケアマネジャーが悩んでいるケースです。

軽度者の例外給付の適用については、福祉用具の品目ごとに、対象となる状態像や条件が示されているので、それに沿った状態像、必要性を説明できているかが重要になってきます。最終的に例外給付の適用を判断する保険者に、明確に必要性を伝えるためには、軽度者の例外給付申請の流れや条件について、あらかじめ理解しておく必要があります。

2. 軽度者例外給付の判断の流れ

軽度者の例外給付の判断の流れは、①「認定調査の結果」により判断できるケースと、②個別に医師の所見や専門的見地を踏まえたケアマネジメントでの検討や保険者の判断が必要なケースに分けられます。

①要介護認定における基本調査結果等に基づく判断があった場合

「認定調査票の結果」とは、新規ケアプラン作成時や認定更新時のタイミングでケアマネジャーが保険者から取り寄せる資料です。ケアプラン作成の参考資料として入手される「認定調査票の結果」ですが、実は軽度者例外給付の判断の重要な「手がかり」でもあるということは、あまり意識されていません。

軽度者例外給付の相談を受けた際には、まず最初に、ケアマネジャーに「認定調査票の結果」を確認してもらいましょう。そして、導入を検討したい福祉用具ごとに以下の表の状態像に該当するかを踏まえて検討できるとよいでしょう。

【各種目ごとの介護認定の基本調査結果対照表】

出所)厚生労働省「要支援・要介護1の者に対する福祉用具貸与について」を基に作成
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000875875.pdf
参照)厚生労働大臣が定める基準に適合する利用者等
三十一 指定居宅サービス介護給付費単位数表の福祉用具貸与費の注6の厚生労働大臣が定める者
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82ab4583&dataType=0&pageNo=1

②市町村が医師の所見・ケアマネジメントの判断等を書面等で確認の上、要否を判断した場合

認定調査の結果では根拠が示せない場合でも、利用者の状態によって、医師の医学的な所見に基づき判断され担当者会議を通じたケアマネジメントにより福祉用具貸与の必要性が判断されている場合、保険者によって例外給付が認められる場合があります。

例外給付の適用の判断に関わる手続きや提出資料※については、保険者ごとにホームページなどを通じて周知されていますので、一度確認してみましょう。

※例)東京都港区の場合
軽度者に対する福祉用具貸与の取り扱いについて
https://www.city.minato.tokyo.jp/kaigokyufu/documents/keidosya201410.html
確認における必要書類

1)軽度者に対する指定福祉用具貸与を必要とする理由書
2)主治医の意見確認〈主治医意見書、診断書又はケアマネジャーと主治医との連絡票(診療情報提供書)
3)居宅サービス計画書第1表~第7表の写し(認定新規申請の場合は第5票は不要)

軽度者の例外給付申請に必要な提出書類の中で、特にケアマネジャーが記載に悩むのが、理由書の意見欄です。福祉用具専門相談員として、意見を求められた場合には以下のポイントを押さえてアドバイスできるとよいでしょう。

① 利用者の状態について、厚生労働大臣が定める告示に該当しているかの観点から、具体的に説明できているか。
※【各種目ごとの介護認定の基本調査結果対照表】も参照
② ①の状態により、生活や介護の面でどのような負担・支障が生じているか。
② 利用しようとしている福祉用具により、どのような改善が期待できるか

lesson

それでは、ケアマネジャーのお悩み事例二つ目、要支援1で電動車いすの軽度者例外給付の申請における回答案を考えてみましょう。

  • 日常的に歩行状態が「できない」、もしくは、日常生活範囲における移動の支援が特に必要と認められる、という状態と、生活面で生じている困りごと

  • 日常生活範囲における移動の支援の内容と介護者の負担

  • 代替手段も検討した上での、屋外での車いすの必要性、電動車いすが必要な理由

  • 電動車いすを使うことで改善できること

事例からは、歩行状態が悪化している理由は読み取れませんが、軽度者であっても疾病や後遺症など様々な理由で歩行状態が悪化し、屋外移動に支援が必要になるケースが考えられます。客観的な状態像の説明、支援の必要性と負担、自立支援の観点から福祉用具の必要性を説明することが重要です。

軽度者例外給付の申請の結果は、保険者から通知で知らされます。結果はケアマネジャーから提示・共有してもらうようにしましょう。

3. 多職種と連携して検討すべきケース

軽度者例外給付における市区町村の判断基準には、i)〜iii)の状態になりやすい例として、「パーキンソン病の治療薬によるON・OFF現象」や「がん末期の急速な状態悪化」、「ぜんそく発作等による呼吸不全、⼼疾病による⼼不全、嚥下障害による誤燕性肺炎」などが示されています。これらのケースは医療ニーズが高く、状態の変化が予測されるため、医療・リハビリテーションの分野を含め周囲の支援者との情報共有が重要です。

特に下記の状態に該当する場合は、医師やリハビリ担当者の意見を確認することが勧められています。

  • <医師やリハビリ担当者等への意見を特に確認すべき状態像の例>

    ・進行性疾患(パーキンソン病、脊髄小脳変性症など)により状態の変化や悪化が起こりやすい場合
    ・起立性低血圧等、血圧の変動の可能性がある場合
    ・認知機能の低下や高次脳機能障害により用具の使用や操作が難しいと考えられる場合
    ・関節に著しい拘縮や変形がある場合
    ・著しい感覚障害がある場合
    ・骨の脆弱性が疑われる場合
    ・四肢に欠損がある場合
    ・著しい筋力低下がある場合
    ・筋緊張の亢進や低下、変動がある場合
    ・重度の視覚障害の場合
    ・全身等に痛みがある場合
    ・皮膚の脆弱性が疑われる場合
    ・浮腫など、循環障害が考えられる場合
    ・転倒のリスクが高いと考えられる場合
    ・嚥下障害がある場合
    ・介護者に対する指導に留意が必要と考えられる場合等

福祉用具専門相談員として、利用者の病状や身体状態の変化を把握することは、適切な選定や提案に重要なことです。情報共有は、ケアマネジャーを通じて、また担当者会議において医師やリハビリ担当者の意見を確認することなどで行えます。

さらに利用者や担当者の同意を得たうえで、リハビリテーションに福祉用具を試してもらったり、本人や介護者の様子を観察してもらったりするなど、積極的に多職種と連携を図っていけるとよいでしょう。

4. 相談員の専門性が発揮できる軽度者の福祉用具貸与

要支援、要介護1など軽度者の福祉用具貸与では注意すべきルールが多くあります。軽度者の例外給付は、品目ごとに対象となる利用者の状態像や条件が定められており、保険者によっても申請ルールがあるため、ケアマネジャーにとっても悩むことが多い制度です。

特に、保険者に提出する理由書には福祉用具の「適切な説明」と「明確な理由記載」が不可欠であり、福祉用具専門相談員としての専門的な意見が重要となります。多職種連携が求められるいま、一番身近なケアマネジャーとの連携の中で、以下のポイントをおさえていけるとよいでしょう。

  • 福祉用具は「自立支援のツール」であることを伝える

  • 介護者の負担軽減につながることを強調する

  • 適切な理由文を用意し、ケアマネと情報を共有する

  • 医師やリハ専門職の意見を求め、サービス担当者会議で慎重に選定を行う

これらを意識することで、例外給付の申請にも説得力が加わり、保険者の判断までスムーズに進む可能性が高まるでしょう。軽度者の例外給付申請は、手間や時間がかかる反面、医療やリハビリの観点をふまえた検討プロセスにより、適切な福祉用具の選定や利用、利用者のQOL向上につながるというメリットがあります。多職種とも積極的に連携し、適切な説明と対応で、ケアマネからも信頼される福祉用具相談員を目指しましょう!