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くらしの中に息づく写真
~くらしの中の写真、
日常の写真、人々がつながる写真~

<TOKYO リノベーション ミュージアム>トークイベント

Introduction

〈TOKYO リノベーション ミュージアム〉で開催したトークイベントのテーマは、写真。「くらしの中に息づく写真~くらしの中の写真、日常の写真、人々がつながる写真~」と題し、建築家/デザイナーの馬渕晃(まぶちあきら)さん、インテリアデザイナーの西尾健史(にしおたけし)さん、デザインジャーナリストの加藤孝司(かとうたかし)さん、写真家の濱田英明(はまだひであき)さん、モデルの小谷実由(おたにみゆ)さんの5名をゲストに迎え、濱田さん・小谷さんが実際に撮影した写真を投影しながら、「写真を撮る」行為の魅力について1時間超、語り合いました。ちなみに、馬渕さん・西尾さん・加藤さんは、2019年9月26日から2020年1月7日までの期間で開催されたエキシビション「土間でたのしむ趣味のあるくらし」の展示設計を担当。家の中と外をつなぐ空間である「土間」をテーマに、家族間の新たなコミュニケーションを提案するような空間をプロデュースしてくれました。

加藤さんと小谷さんは“猫仲間”でもある
加藤さんと小谷さんは“猫仲間”でもある

土間を、家の中と世の中をつなげる「窓」のような存在にする

加藤さんの進行のもと、まず「土間でたのしむ趣味のあるくらし」のコンセプトについて、馬渕さんと西尾さんから解説がありました。馬渕さんが今回の企画意図として念頭に置いたのは、新たなコミュニケーションが生まれる場をつくることです。

馬渕さん

玄関である土間に趣味要素を取り入れることで、そこから何か新しいものが生まれることを期待しました

その馬渕さんの言葉を聞いた西尾さんは、呼応するかのように、こう語ります。

西尾さん

『趣味は、部屋の中で、1人で楽しむもの』といった連想をする人も少なくないでしょう。その要素を、あえて家の中と世の中をつなぐ『窓』のような空間である土間に置く。そうすれば、趣味を、ギャラリーのように家の外にいる人にも見てもらえるし、土間が家族や世の中に対してもっと開けた場所になる。そういったことを感じてもらえるような要素を意識してつくりました

実際の展示風景。確かに、ギャラリーの色があった
実際の展示風景。確かに、ギャラリーの色があった

実際の展示風景。確かに、ギャラリーの色があった

西尾さんの「窓」というキーワードを拾い、「写真も風景を想起させる、まさに窓と呼べるのものではないでしょうか?」と加藤さんが問いかけます。これに対して濱田さんは「無限に広がる光景を、その人の目線で窓を作って切り取っていくことが写真だと思います」と賛意(さんい)を示しました。

濱田さん

この視点は、暮らしにも通じると思います。家の中に空間を区切って、土間という場所をつくる。これもある意味の写真的行為と呼べるでしょう

加藤さんは、「土間というと、何となくお父さんが自転車をいじっている場所というイメージがある」と指摘します。ですが、今回の企画で目指したのは、お父さんだけではなく、お母さんも趣味をして、子どもが雨の日に遊べるような「家族みんなが楽しめる空間」。壁があればそこに写真や絵を飾り、友達を招いてギャラリーにできるような空間をイメージしたそうです。

座談会イメージ画像①
濱田さん

写真じゃなくてもいいのですが、何かしら飾る物があると、空間の見え方も変わると思います。例えば、普通はリビングなどの広い壁に置く物を、客人をお迎えする場所に置いてみる。すると、家を出るときや帰宅時の気持ちの入り方も変わってくるかもしれません

座談会イメージ画像②

「失敗写真」も、ときが経てば愛しい思い出になる

次の話題は、写真を撮影する機材のこと。モデルの小谷さんはInstagramに投稿する写真も、フィルムカメラ『CONTAX T3』(京セラ)を使って撮影するそうです。

小谷さん

iPhoneを使って撮影することもあります。でも、フィルムで残しておきたいと思うものがあれば、両方で撮りますね

濱田さんは、「家族写真のように刹那的なものではなく一生つむいでいくもの、次世代にも残しておきたいものはフィルムカメラで撮影することをおすすめしたい」と語ります。

濱田さん

どのような写真でも、10年経てば愛しいと思える。撮影当時はそうでもないと思っていても、残っていること自体に価値が生まれます。最高の瞬間だけを撮るのではなく、身近すぎて気にも留めないことも撮影してほしいですね。何でもない瞬間を切り取った写真ほど、後で光って見えるんじゃないかなって思います

座談会イメージ画像③

加藤さんは、昔、父親に撮ってもらった、偶然ビーチボールが自分の顔の前に来て顔が隠れてしまった「失敗写真」の思い出を振り返りました。デジタルカメラやiPhoneで撮影していたら「失敗した」と、すぐに消していたかもしれない写真——。でも、大人になった現在(いま)、加藤さんにとってこの写真は「とてもかわいいと思える、お気に入りの写真」になったそうです。撮影した対象が意図せず未来につながり、別の価値を宿していく。「だからこそ、写真はタイムカプセル的な存在といえるかもしれない」と加藤さんは話しました。

加藤さん

フィルムカメラで撮ることだけが、必ずしも良いとは限りません。ですが、本当に残したい写真は、より堅牢性(けんろうせい)の高いツール——つまり、紙にプリントをして残しておくことが大切だと思います。

加藤さんは、「数百年後には、2010年くらいからの写真記録があまり残っていない、ということが起こりうるのではないか」と危惧。突然なくなる可能性をはらんでいるデジタルデータ。そのとき、バックアップを取っていなければ……写真のデータも消えてしまうでしょう。

座談会イメージ画像④

「携帯電話やスマートフォンの写真データを自動プリントするサービスが登場するまでの期間、この間の写真が抜け落ちている人がいてもおかしくありません。今20歳くらいで、子どもの頃の写真が1枚もなく、記憶を辿るしかない……という人は結構いるのではないでしょうか?

濱田さん

最近は、iPhoneでしか子どもを記録していない親御さんも珍しくありません。もちろん、記録に残さずとも、心にはたくさんの思い出が残り、それらには特別な価値があるでしょう。ですが、それとは別に、写真が喚起してくれる記憶は、人間にとってとても大きな情報量を持っているようにも思えます

その一例として濱田さんが挙げたのが、東日本大震災の後立ち上がった、津波で流された写真を洗浄するプロジェクトの存在です。大きな災害に見舞われて、全てを失い、つらく苦しい気持ちになったとしても、そばに写真が1枚でも残っていれば、少しは救われた気持ちになるかもしれない——。そんな刹那(せつな)が、きっとあるのではないでしょうか。

濱田さん

たった1枚の写真に、すごい値段が付けられることもある。そうした現象を見ると、写真が持つ『尊さ』のような価値が社会全体で理解され、共有されているんだなと感じます。
さまざまなメディアが発達しても写真の仕事がなくならないのは、視覚で伝えられる情報量が非常に大きいからでしょう。同時に、ビジュアルの仕事に与えられる責任もとても大きなものとなる。だからこそ、撮る人だけでなく写る人も含めて、みんなで一生懸命写真をつくっていくことにやりがいを感じています

小谷さんが撮った4つの写真から感じること

小谷さん撮影、「シンガポールの古い建物」。空と建物のコントラストが印象的な一枚
小谷さん撮影、「シンガポールの古い建物」。空と建物のコントラストが印象的な一枚

次の話題は、小谷さんが撮影した写真について。最初に取り上げられたのは、小谷さんがシンガポールで撮影した一枚でした。

小谷さん

被写体となった古い建物は、色合いもデザインもかわいくて。昔の建物や文化が好きなので、お気に入りなんです。

次に投影されたのは、こんにゃくを写した写真。小谷さんがおばあちゃんの家でおせちづくりを手伝った際、並べられたこんにゃくの様子がかわいくて気に入ってしまったので、

小谷さん

記憶として残しておこうと思って撮影しました。

加藤さんはこの写真を見て、こんにゃくと一緒に写り込んでいるチラシの存在に注目します。

かわいらしい“こんにゃくたち”の後ろに、少しだけ“チラシ”が写っている
かわいらしい“こんにゃくたち”の後ろに、少しだけ“チラシ”が写っている

「インスタ映えするきれいな写真を撮りたいのなら、まな板とこんにゃくだけ写すはず。普通、チラシは入れません。そこをあえて撮っているのが、実由さんらしい視点だと思います。

濱田さん

写真の醍醐味は、同じ日常を写しても、みんな違った撮り方をするところです。もし、『ペットボトルを撮りましょう』と言われたら真正面から撮る人もいるでしょうし、ペットボトルを写さず全く関係ない空間を撮る人もいるかもしれません。写真の撮り方からその人らしさが見えてきますよね

小谷さんの愛猫。名前は「しらす」
小谷さんの愛猫。名前は「しらす」

展示会場の窓辺に置かれた、額装された猫の写真。これは小谷さんが、加藤さんに「『思い入れのある写真』を額装したい」と頼まれたとき、「額装するなら大事な存在を写したものにしたい」と考えて選んだ1枚だそうです。

小谷さん

背もたれにクッションがかかっているので、とても不安定な位置に丸まって座っています。絶対、楽な体勢ではないと思いますけど、それがある意味、猫っぽい。それと、毛とクッションが同じ色なので、上に乗ってくれないかなと常々思っていまして。ついに決定的瞬間を捉えた、という写真です(笑)

小谷さんは普段、撮影した写真はデジタルデータで保管する頻度が高いものの、家族や猫の写真はプリントして祖父母に渡すそうです。作品の中には、小谷さんのおじいちゃんを写したものもありました。

小谷さん

以前、『装苑』という雑誌に掲載されたんですが、掲載された号を置いといたんです。そうしたら、おじいちゃんが黙ってずっと真剣に見てくれていました。おじいちゃんは寡黙なタイプなのですが、うれしそうに見てくれていて。私もうれしくなって、つい隠し撮りしちゃいました

背中からおじいちゃんが熱心に『装苑』を見ているのが感じ取れる
背中からおじいちゃんが熱心に『装苑』を見ているのが感じ取れる

「仕事を家族に見てもらって、喜んでいる家族を見るのが一番うれしい」と小谷さん。おじいちゃんの写真は、そういった気持ちが「ぎゅっ」と詰まった1枚になっているようです。

無理して撮るのではなく、
ありのまま、自然の状態で美しいものを
撮った濱田さんの写真集『DISTANT DRUMS』

終盤、取り上げられたのは、濱田さんの写真集『DISTANT DRUMS』。「写真集の制作や販売は、通常は出版社や書店の力を借りるのですが、今回は自分の力だけでどこまでいけるか、自分のやり方でどこまでやれるのか。それを試してみたかった」と語る濱田さんが出版社を通さず、自費出版した写真集です。アートディレクションは、Studio Journal Knockの西山勲さんが手掛けました。

タイトル『DISTANT DRUMS』の由来は、村上春樹さんのエッセイ『遠い太鼓』にインスパイアされて。『遠い太鼓』は、村上春樹さんが30代後半のときに小説が大ヒットして日本国内で騒がれていた時期、村上春樹さんご自身が喧騒から離れヨーロッパを転々としながら暮らしていたタイミングで執筆された旅行記です。

濱田さん

仕方なしに自分が移動していくという視点。誘われるような軽やかな気分が、僕の写真集のコンセプトに近いと思い、名付けました。どの写真も、海外での仕事で行ったときに、街を歩きながら撮ったものです。この写真集をつくるために、海外に行ったわけではありません。写真を撮りに行くために気合を入れて行くのと、歩いていてたまたま見えた風景を撮るのでは、熱量が違いますから

無理して撮りに行くのではなく、ありのまま、自然の状態で美しいものを撮ったと語る、濱田さん。作品を見た加藤さんは、「世の中を肯定している写真に思える」と感想を伝えました。

座談会イメージ画像⑤
加藤さん

ありのまま、そのままが美しいというように、写真の色もとても自然な色ですよね。無理にダークにしたり、コントラストを強くしたりするのでもない。被写体も、アジアやヨーロッパの市井の人々、一般の人々を写していますね

濱田さんの作品の被写体になることも多い小谷さんは、撮影中に草むらを転げ回り、革靴のまま川の中に突き進んでいく濱田さんの「アグレッシブな姿」が印象に残っていると語ります。濱田さんによれば、「転がるのは角度を変えて、被写体を多面的に捉えたいと思っているから」だそうです。ただ、被写体の小谷さんからすると、撮影中は笑いを抑えるのが大変だったとか。

小谷さん

すっとしていなければいけない写真のときなど、笑ってしまうと思って、少し震えています(笑)。でも、濱田さんの撮影は本当に楽しい気持ちでできるので、素直に笑っている写真、肩の力が抜けた素の自分に近いものを撮ってもらえていると思っています

座談会イメージ画像⑥

撮影の際、濱田さんは「撮っている人の存在を写真からできるだけ消す」というテーマを設定していたそうです。

濱田さん

僕が『DISTANT DRUMS』でやりたかったのは、簡単に言うと、海外の風景写真を見た人に、『その場所に行きたい』と思ってもらうのではなく、本当にその場所にいるような気持ちになってもらうことだったんです

「写真の話からは少し離れますが、人間は誰しも、仕事などのやらなければいけないことやトラブルなどを抱えていると思うんです」と濱田さん。その中で大事なことは、「心休まる生き方を探せるか、生き方を選べる環境に自分を置けるか」だと伝えてくれました。

濱田さん

選択肢が一つしかない……という状況は、一番つらい。例えば、家での暮らし方も、発想が1つしかなければ、少し窮屈かもしれません。別の生き方・暮らし方もあると提示できる人は、できるだけ提示していってほしい。今までなかった選択肢や発想が新たに一つ生まれることは、とても大切だと思います

私たちも、『DISTANT DRUMS』を通じて、別の生き方に気づけるかもしれません。

座談会イメージ画像⑦

写真が飽和する現代だからこそ、
「くらしの中に息づく写真」を撮ろう

スマートフォンやデジタルデバイスが普及し、写真が主役になるSNSやたくさんのWebメディアが存在する現在、「写真を撮る、写真を見る」行動はとても身近なものになりました。気づけば、多くの写真に囲まれている毎日を送っています。だからこそ、撮影する1枚に何かしらの思想を込めることが大切なように思います。その集積(しゅうせき)が、「くらしの中に息づく写真」になることでしょう。

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    TOKYO リノベーション ミュージアム

    TOKYO リノベーション ミュージアムでは、建築家やインテリアコーディネイターを講師に迎えたセミナーや、リアルサイズでリノベーション後の空間を体験ができます。自分らしいリノベーションを探しにきてはいかがでしょうか。

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