左官職人

久住さんの顔写真

くらしスペシャリスト#003 左官職人 久住 有生(くすみ なおき)さん

Vol.1 塗り壁が拓く、美・インテリア
SPECIAL MOVIE : 久住さんのお仕事拝見 鏡面に仕上げる「漆喰磨き」

ガウディの建築に出会い、左官の道へ。

健康志向の高まりなどから、住まいを考える際に「塗り壁」を選択肢として考える人が増えています。施工現場でその仕事をするのが、土や漆喰(しっくい)を鏝(こて)で塗り壁面を仕上げる左官(さかん)職人です。身近なものでありながら、知っているようで、実は知らない壁のこと。今回は伝統の技を継承しながら、オリジナルのアイディアで現代建築に新しい風を吹き込む注目の若手左官、久住有生(くすみなおき)さんを大阪の個人邸施工現場に訪ね、「塗り壁」の奥深い世界についてお聞きしました。

久住さんのお父様は今ではカリスマ左官として知られる久住章氏。2代続く左官の家に生まれ、3歳で初めて鏝を握ることになりますが、「学校から帰ったら鏝の練習で、終わるまで食事をさせてもらえなかった」ほど、厳しいスパルタ式の英才教育だったと言います。そんな反動もありケーキ屋さんを目指した久住さんに父は反対し、「その代わりにヨーロッパを見てこい」と20万円を渡したそう。そうして旅したバルセロナでガウディの建築に出会い、「魂が揺すぶられる」ような衝撃を受けたと話します。「100年以上も前のものにこれほど感動するなら、自分もそんな建築をつくってみたい。そのために日本一の左官になる」という確かなビジョンを抱いたのです。

※ 左官(さかん)とは、建物の壁や床、土塀などを、鏝(こて)を使って塗り上げる職種のこと。

鏝(こて)を使って塗り上げる写真

「手」の感覚より、「鏝」で感じる方が、壁が分かる。

帰国後は、さまざまな親方の元に弟子入りし、京都の茶室や文化財の復元などの高い技術が要求される仕事にも挑戦。左官の仕事は個人の能力によるところが多く、30年、50年をかけてやっと習得できる技もあると聞きます。久住さんは一刻も早くその域に到達しようと、時間を惜しんで人の何倍も練習を重ね、技を磨きました。自分の身体に左官の技術を徹底的に覚え込ませようと突き詰めていくと、やがて「手」の感覚より、「道具」で感じる方がより鋭敏に壁が分かると思えるようにもなってきたのです。そんな久住さんでしたが、毎日壁とその技術のことしか考えないという日々が続いていくと、「自分がバランスの取れない偏った人間になっていくような気がした」と話します。左官でやりたいことは山ほど出てくるのに、視野は逆に狭くなっていく、そんなジレンマを抱えた久住さんに、やがて大きな転機が訪れました。

話をする久住さんの写真

「環境の中の建築であり、その中の壁である」。

現在の久住さんをつくることとなった人生の転機、それは、風土に合った建築を提唱する建築家の丸山欣也氏との出会いであり、沖縄での建築学生を対象としたワークショップに講師として招かれた体験でした。丸山氏は日本の現代建築を語る上で欠かせない名作、沖縄県名護市庁舎を設計した建築家としても有名です。「建築のことを解説するのだろうと思っていたのですが、実際にはみんなで集落や街を歩き、集落の成り立ちを勉強し、いろいろな人と会って話を聞いた1週間でした」。徹底してその土地と、そこに暮らす人のことを考えるという手法に、職人として技の追求だけではない別のアプローチがあることを思い知らされた久住さん。「ここまで人のことを考えて建物が設計されているのだから、自分もその視点に立った仕事をしていこうと決意した」と言います。沖縄には白い漆喰の屋根やシーサーなどの独特の景観、それに琉球王国時代から受け継がれた文化があります。「ここに淡路島をルーツとする自分の左官の仕事をそのまま持ってきても、しっくりこないばかりか風景を変えてしまうことになる」「環境や景色の中の建築であり、その中の壁である」ということが深く腑(ふ)に落ちた体験となりました。

久住さんの仕事風景写真1
久住さんの仕事風景写真2
久住さんの仕事風景写真3

その土地、その人だけのためにつくる、世界にたった一つの壁。

沖縄での体験を経た久住さんは、そこに住まう人の想いに深く耳を傾けて壁をデザインするようになっていきました。ほとんどの左官職人が市販されている材料を使って施工する中、自らの手で土を選び、藁(わら)などの材料を調合することにこだわります。「周辺を歩いて自然を感じ、施主様が着ている洋服や好きなインテリアや小物などの話から、好きなテイストやカラーを推測します」と久住さん。そして、その土地に住む、その人だけのために材料を調合。壁のサンプルをつくって施主様の意見を聞き修正してと、丁寧なプロセスを踏んで壁が完成すると話します。久住さんは年間30~40件ぐらいの現場を手掛けていますが、その約半分が公共施設や商業施設などのビッグプロジェクト。最近では建築家やインテリアデザイナーから、「壁はおまかせするので考えてほしい」とデザインから依頼されることがほとんどだそう。建築のコンセプトや周囲のインテリアデザインやカラー、照明の配置などを把握した上で、壁の意匠や色、塗り方などを提案します。久住さんが手掛けた、最近の作品のいくつかを紹介してもらいました。

久住さんの作品写真1

「大の大人が本気で作る秘密基地」がコンセプトのショコラショップ。企画段階から参加し、壁・床・天井や外壁まで久住さんが指揮を執り、左官で仕上げた作品です。「上の写真手前の壁は、土を固めて長方形や楕円形の塊を1つ1つ手でつくり、削って積み上げました。全部で3000個ぐらいあるのですが、職人15人で2カ月半ぐらいかけて施工しました。写真奥側の壁は何回も分厚く塗った壁面に、職人が何人も並んで彫刻作品をつくるときのように共同作業をしながら曲線のラインを削っていくという作業を行い、上からの照明の光が効果的に落ちるように工夫しています」「店舗の土壁はほとんどが樹脂で固めているのですが、僕たちは土や砂だけでつくります」。

久住さんの作品写真2

「こちらは神戸の店舗。すべての料理を薪で焼いてサーブするスタイルのため、厨房の炭の臭いが客席に広がり、料理がサーブされたときの感動が薄まるという危惧がありました。そこで、土の臭いを吸着する性質を活かし広い壁面を厚く塗ることに。さらに下からの間接照明が入ることが決まっていたので、凹凸をつけて陰影を出しながら、光源から遠くなるにつれて暗くなる効果を狙っています」。

久住さんの作品写真3

「雲仙普賢岳を見渡す高台に位置する犬も一緒に泊まれるペンション。犬がガリガリと引っ掻いても、キレイに見える壁をということで、あら壁仕上げに。土と砂と藁だけでつくっているので、オーナーの方が落ちた土を拾い、水で練り直して塗れば簡単に元の姿に戻るというものです」。

久住さんの作品写真4

「昭和初期の面影が美しく残る歴史的洋館・ジェームス邸が、ウェディングゲストハウスとしてリニューアルする際に、エントランスに24色のグラデーション壁を制作しました。基礎工事で出た色土も加えています。地層をイメージしていますが、長い年月をかけてできた自然の造形にはかなうものはありませんから、潔くシンプルに抽象化したデザインにしています」。

間接照明で壁の凹凸やディテールを美しく浮かび上がらせる。

左官による壁面の表現がこれほど多彩であることを知れば、これからの住まいづくりにも積極的に塗り壁を取り入れていきたいと思うものです。周囲のインテリアとの関係性について配慮すべきは、どんなことなのでしょう。久住さんの作品には、照明の効果を使って壁をより美しく見せているものが多くあります。「壁は意匠としての凹凸をつけることもあるし、そうしなくとも土が収縮して自然に凹凸をつくります。壁をなめるような間接照明を使うことによって、その凹凸が際立ち、陰影が生まれ、ディテールが美しく見えます」と久住さん。照明は昼光色のあたたかな色合いがマッチするのだとか。「施主様は扉にこだわる場合が多いので、壁をドアになじませるか、ドアを引き立てる壁にするのかを考えます」。塗り壁と合わせて採用されるドアは、「白か黒のモノトーン系が多いですが、鉄製や木の素材感のあるドアも合いますね」と話します。壁にたくさん土を盛り、存在感のある仕上げにした場合には、床は重厚な雰囲気が漂う素材を選んでバランスを取ると良いそう。
久住さんにお話を聞いた個人邸の現場で、玄関の壁を塗る仕事を見せてもらいました。これは「漆喰磨き」という技法で、漆喰を塗り、鏝で押さえ込んで表面の密度を上げ、光沢を出すという左官技法です。久住さんは今回、上部を従来の技法で仕上げ、下部は途中段階のもののまま仕上げることに。対比の美を感じてもらえるようにという実験的なアイディアです。久住さんの施工の様子を動画でご紹介していますので、ぜひ、ご覧ください。(本文終わり、2014年8月31日取材)

職人の技

久住 有生さんのお仕事拝見
鏡面に仕上げる「漆喰磨き」

漆喰磨きの作品写真

大阪の個人邸玄関の現場で、久住さんの仕事の様子を収録。土を塗って乾かした後、その上に赤い漆喰を塗り、鏝で押さえ込むと徐々に光沢が出てくるプロセスをご覧いただけます。

SPECIAL MOVIE

久住さんの写真

「塗り壁」を極めたスペシャリスト
左官職人 久住 有生(くすみ なおき)さん

1972年、兵庫県淡路島生まれ。父はカリスマ左官として知られる久住 章(くすみ・あきら)。三代続く左官の家に生まれ、幼少の頃より鏝を握る。18歳で親元を離れ、各地で修行し、23歳で独立。ドイツ、フランス、日本(京都)などで左官技術を磨き、歴史的建造物の修復の仕事にも携わる。商業施設や教育関連施設、個人邸の内装や外装を手がけることも多く、伝統的な左官技術とオリジナティ溢れるアイディアが、国内外での大きな評価につながっている。
http://www.kusuminaoki.com/

Vol.2もお読みください

Vol.2左官職人の道具と
究極の名人技

「すむすむ くらしスペシャリスト」は、専門家の皆様のライフスタイルや暮らしのアイデアなどを紹介するコンテンツです。ご自身の暮らしに取り入れられる際は、必要に応じ専門家に確認するなど、自らの責任において行っていただけるよう、お願いいたします。また、ご紹介している写真の設備機器等は、パナソニック製以外のものが含まれます。お問い合わせいただきましても、お答えできない場合がありますことを、予めご了承ください。

くらしスペシャリスト #003 久住 有生さんご感想をfacebookでお聞かせください

あこがれの「住まい」を考えるヒントや、日々の暮らしを少しの工夫でより快適にする情報などをお届けしています