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建築家・長坂常さんが考える
リノベーションとは?
<TOKYO リノベーション ミュージアム>
トークイベント

〈TOKYO リノベーション ミュージアム〉では、4月13日(土)〜7月16日(火)までの期間、「長坂常の自宅キッチン改修計画展」と題し、建築家の長坂常さんがリノベーションした自宅のキッチンが再現展示されました。

長坂さんといえば、家具から建築まで手がける先鋭的な建築家。〈Blue Bottle Coffee〉や〈HAY TOKYO〉を手がけたことで知られています。リノベーションの作品も多く、独創的な発想かつ人々を魅了するデザインが特徴です。

「長坂常の自宅キッチン改修計画展」は、雑誌『カーサ ブルータス』とのコラボレーション企画。『カーサ ブルータス』の編集長を務め、長坂さんと親交がある西尾洋一さんの進行のもと、長坂さんがこれまで手掛けられた既存の枠にとらわれないリノベーション物件や、“建築家視点”でのリノベーションについて、話は進んでいきました。

右中が、「美しい暮らしをデザインする『Life Design Magazine』」がコンセプトの『カーサ ブルータス』の編集長・西尾洋一さん
右中が、「美しい暮らしをデザインする『Life Design Magazine』」がコンセプトの『カーサ ブルータス』の編集長・西尾洋一さん

建築家のキャリアを変えた、2つのリノベーションプロジェクト

長坂さんは東京藝術大学卒業後、建築設計事務所<スキーマ建築計画>を設立。独立してからの10年間、リノベーションの主流であった「既存の空間を壊して、真っ白なキャンバスを作る」考えで取り組んでいたそうです。しかし、その「リノベーション=リセット」の価値観が180度変わったきっかけが2つ、ありました。1つ目は、中目黒の複合オフィス+ギャラリー〈happa〉をホテル仕様にリノベーションした企画展、〈HAPPA HOTEL〉のプロジェクトです。

外からオフィス内は丸見え。オフィスそのものが自社の広告にもなった、〈HAPPA HOTEL〉(2009)
外からオフィス内は丸見え。オフィスそのものが自社の広告にもなった、〈HAPPA HOTEL〉(2009)

「この〈HAPPA HOTEL〉のリノベーションを経て何が変わったかというと、お金がかけられない中、一つ一つの工程に対して“やるか・やらないか”をしっかりと考えるようになったことです。例えば、間仕切りを壊して白く塗るのもお金がかかります。パートナーたちと共に取り組み、予算が限られているからこそ、『本当にお金をかけてやる必要があるのか』を突き詰めて合意を取らなければ、進められません。その結果、最低限必要な工程だけでデザインが構築されていきました」(長坂さん)
長坂さんご自身の事務所でもあった場所だったからこそ、気付いたこともあったそうです。

「路面に位置する事務所であるがゆえに、“ギャラリー”としてお客さんに表現する役目を持たせる必要がありました。言い換えると、お客さんのために取り組む『よそ行きの仕事』と『自分たちのための仕事』を一致させる必要があったんです。〈HAPPA HOTEL〉は、今まで当たり前だと思っていた価値観を抜け出すきっかけになりました」(長坂さん)


2つ目のきっかけが、社宅として利用されていた一棟マンションをリノベーションした〈Sayama Flat〉です。

一部屋のリノベーション費用として提示された金額は、100万円。当初は壊すだけで終わってしまう予算だと思ったそうですが、それでもやろうと考えたのは、同時進行していた〈HAPPA HOTEL〉の経験を通じて、デザインのスタートが「真っ白」じゃないことを体感したから、でした。

<SayamaFlat>(2008)の工事中のようにも見える空間。当時はこういった前例がなく、好評だったそう
<SayamaFlat>(2008)の工事中のようにも見える空間。当時はこういった前例がなく、好評だったそう

リノベーション前の〈Sayama Flat〉は、古い建物で壁がたくさんあったこともあり、全体的に暗い空間でした。そんな〈Sayama Flat〉を前にした長坂さんがまず着手したのは、部屋全体に空気と光を入れるための、壁の解体。自ら工具を持って、壊していきました。

「図面を作る予算がなかったので、スタッフと塗装屋さん、そして僕の3人で解体をしながら、その先の構図を考えていきました。自分で一枚一枚壁をはがしながらデザインを考えていく過程で、今までの現場で見たことのない空間の表情が見られたのは、結果的にすごく良かったと思います。はがしてみたら、まんざら悪くないんですよ。何かかっこいいし、かわいいし。『もう、このままでいいよね』と(笑)」(長坂さん)

躯体をそのまま活かしたデザインは、その後、長坂さん自身のスタイルに
躯体をそのまま活かしたデザインは、
その後、長坂さん自身のスタイルに

ちなみに、出来上がった空間をお披露目した際、依頼主は喜びましたが、不動産屋はがくぜんとしていたそうです……。しかし、不動産屋の予想に反して入居者はすぐに決まりました。「入居してから1年は、自由に入居者が部屋を改修してOK」の条件が好評だったようです(注:今はNGです)。

「デザインしているとはいえ、もともと、足りていないですからね。完成した高揚感はありましたが、正直、自分自身もどう評価されるのか予想がつきませんでした。“住まい手が自由に付け足していくことの面白さ”を僕自身感じられたことが、〈Sayama Flat〉のプロジェクトで一番大きかったですね。『住まい手がクリエイティビティを発揮することで、異なる表情が出てくるリノベーションもあり得るな』と考えるようになりました。“引き算のデザイン”に可能性を感じた仕事でしたね。」(長坂さん)

2階の床を全部抜く!
リノベーションの依頼が舞い込むきっかけになった
〈鳩ヶ谷の家〉

インパクトを残した〈Sayama Flat〉の後、実はしばらく住宅の依頼が来なかったという長坂さん。5年後、久しぶりに届いた住宅リノベーションの依頼は、結婚したばかりの依頼主がご夫婦が両親から譲り受けた2階建ての木造一軒家の改修——〈鳩ヶ谷の家〉でした。

昭和に建てられた、部屋数が多く、間仕切りも多い住宅でした。長坂さんが提案したのは、2階の中心の床を一部抜くという大胆なプランです。

「仮に、いつかお子さんが生まれて家族が増えるにしても、部屋数は明らかに多かったので、どうせだったら全体の見通しが利く家にできたらな、と思いました」(長坂さん)

2階の中心の床を一部抜いたことで、南側からの光が2階から1階部分まで照らす明るい空間に
2階の中心の床を一部抜いたことで、南側からの光が2階から1階部分まで照らす明るい空間に

昔の建物は、南側から採光するために開放している構造が多く、他の方角の構造に比べると、光が弱いそうです。今回のリノベーションでは、2階部分の床を抜くことで光も入るようになり、さらに天井も高く感じさせることに成功。開放的な空間が出来上がりました。

「依頼いただいたご夫婦は、当初、タワーマンションを検討されていたんですが、僕が手掛けた〈Sayama Flat〉と〈奥沢の家〉をまとめた著書『B面がA面にかわるとき』を読んで、気持ちが変わったそうです。このとき、すごく、世の中の価値観が変わってきたなと思いましたね。それから、だんだんリノベーションの依頼が来るようになりました」(長坂さん)

〈Blue Bottle Coffee〉と
〈HAY TOKYO〉の
リノベーションから垣間見れる、独自の“長坂常スタイル”

長坂さんを代表する商業建築の一つに、〈鳩ヶ谷の家〉と同時期に手掛けたリノベーション作品——〈Blue Bottle Coffee〉 〈ブルーボトルコーヒー〉の店舗があります。

〈Blue Bottle Coffee〉は、アメリカに本社を置く企業。日本に上陸した当時、「サードウェーブコーヒーの代表格」「コーヒー界の黒船」と呼ばれたコーヒーショップですが、日本に初出店する際に声がかかったのが、長坂さんでした。

〈Blue Bottle Coffee〉日本1号店の清澄白河ロースタリー&カフェ
〈Blue Bottle Coffee〉日本1号店の清澄白河ロースタリー&カフェ

1号店に選ばれた物件はもともと倉庫だったため、窓がありません。焙煎所としての機能も兼ね備えているため、工場のような雰囲気ですが、1階と2階にガラスの建具を配することで、お客さんとの関係性が生まれる独特の空間になっています。

診療所をリノベーションした、〈Blue Bottle Coffee〉三軒茶屋カフェ
診療所をリノベーションした、〈Blue Bottle Coffee〉三軒茶屋カフェ

〈Blue Bottle Coffee〉三軒茶屋カフェの物件は、もともと診療所であった空間が住宅としてリノベーションされていたものでした。商店街の通りから店舗がある場所までは、長い袋小路が伸びています。一見見通しが悪く、飲食店だと不利な立地ですが、長坂さんは「〈Blue Bottle Coffee〉であれば、むしろこの距離感が合っている」と考え、選択したそうです。昭和な雰囲気が漂う周辺地域と店の外観とのギャップが、異色の空間をつくりあげています。

2018年にオープンした〈Blue Bottle Coffee〉京都カフェは、京都の町家をリノベーション
2018年にオープンした〈Blue Bottle Coffee〉京都カフェは、京都の町家をリノベーション

〈Blue Bottle Coffee〉京都カフェは、京都の南禅寺に位置する伝統的な町家と、アメリカ西海岸のコーヒー文化が融合したリノベーション事例です。1階部分は日本家屋独特の「上がり」をなくしてフラットにするも、梁や柱の構造は残して、前面はガラス張り。斬新さを感じさせながらも歴史的な景観に溶け込んだオリジナリティ溢れる空間に仕上がっています。

オープン2カ月前に声がかかったという、〈HAY TOKYO〉。短期間のプロジェクトもアイデアで解決!
オープン2カ月前に声がかかったという、〈HAY TOKYO〉。短期間のプロジェクトもアイデアで解決!

長坂さんが手掛けた〈Blue Bottle Coffee〉以外の店舗内装の代表作に、〈HAY TOKYO〉があります。デンマークのインテリアブランド「HAY」が期間限定ショップとして〈HAY TOKYO〉を日本に初出店し、話題となりました。場所は表参道に位置する、200坪を超えるビルの地下1階スペースです。

天井に設置したレールウェイと床とをつなぐポールを動かせるシステム。これがあれば、パーテーションを自由自在に可変できる
天井に設置したレールウェイと床とをつなぐポールを動かせるシステム。これがあれば、パーテーションを自由自在に可変できる

長坂さんに依頼があったのは、何と、2018年10月オープン予定の2カ月前。
「この広さなので、初めは『6カ月以上の期間が必要です』と断ったんですけど、『展示空間であれば何とかできるかもしれない……』と思い、承諾しました。オープン後に足りない部分を少しずつ足していけば、いいなと」(長坂さん)

重い展示物でも簡単に動かせる道具、ハンドリフターがあれば、店舗のスタッフでもレイアウトを自在に変えられる
重い展示物でも簡単に動かせる道具、ハンドリフターがあれば、店舗のスタッフでもレイアウトを自在に変えられる

オープン後も手を入れ続けることで、来るたびに違う表情が楽しめる空間になった、〈HAY TOKYO〉。それを可能にしたのは、プロが携わらなくても自在に店内を変えることができる「インターフェイス」という考え方でした。「インターフェイス」とは、ユーザーが自由にコントロールできる、家具と建築の間の領域にあるものです。

〈HAY TOKYO〉のプロジェクトを通じて、ユーザーが自由に空間に手を入れられることで完成後も変化し続ける「完成しないプロジェクト」のスタイルが、長坂さんの中で出来上がったのかもしれません。

作業も食事もできる
「キッチン×リノベーション」のアイデア

リノベーションされたばかりの長坂さんのご自宅のキッチンは、“長坂さんならでは”の手が加えられています。

キッチンのbefore。長坂さんいわく「カチッとした動きのないキッチン」
キッチンのbefore。長坂さんいわく「カチッとした動きのないキッチン」

「キッチン、ダイニング、リビングがひとつの空間になっていて、家族の誰かしらが自由に場所を選び、何かをやっている……それぞれに居場所があるスペースになっています。キッチンも、どんな状況にも自由に対応できるようなスタイルにしました」(長坂さん)

after。中央にキャスターの付いたワークテーブルが登場。「ここで作業も食事もできます」(長坂さん)
after。中央にキャスターの付いたワークテーブルが登場。「ここで作業も食事もできます」(長坂さん)

上の写真にあるワークテーブルはキャスターが付いており、自由に動かせるのはもちろん、高さ調節もできるもの。コンテナがたくさん収められているので、収納もバッチリ。長坂さんこだわりのラワンベニヤ材を土台にし、〈Blue Bottle Coffee〉の内装でも使用しているステンレスをトップに貼っています。一見すると、キッチンにふさわしくないように見えるワークテーブルも、機能性とデザイン性が調和された仕立てになっているところに、長坂さんのこだわりがうかがえます。
また、躯体があらわになった天井には、簡単に取り外しができる照明を設置。位置も自由に変えることができます。

「引き算のデザイン」「住みながら足していくデザイン」で、リノベーションに楽しさを

「建築家がつくる家は、デザイン重視で住みづらい」。まだ、そういった声が聞こえるのも事実です。しかし、長坂さんが提案する「引き算のデザイン」「住みながら足していくデザイン」の考え方は、建築家が手掛けるリノベーションの新しい提案になるのではないでしょうか?

初めから完成を目指すのではなく、住みながらユーザーがつくりあげる「遊び」を最初に用意する——。長坂さんのリノベーションからは、生活を創造する新しい楽しさが生まれるかもしれません。

是非、皆様もご自分でつくりあげる気持ちでリノベーションにチャレンジしてみてください。

写真 HAPPA HOTEL / Sayama Flat / 鳩ヶ谷の家 / ブルーボトルコーヒー / HAY TOKYO
© Schemata Architects

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    TOKYO リノベーション ミュージアム

    TOKYOリノベーションミュージアムでは、建築家やインテリアコーディネイターを講師に迎えたセミナーや、リアルサイズでリノベーション後の空間を体験ができます。自分らしいリノベーションを探しにきてはいかがでしょうか。

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