住まいの設備と建材 > すむすむ > こんな暮らしがしたい! > 土間を中心に生活スタイルを楽しむ家

ここから本文です。

一覧へ
2006年12月更新

「こんな暮らしがしたい!」あなたの夢や希望を実現するスタイルをご紹介します。

箱型のシンプルな外観。南に面したメインの大開口のほか、側面にはいくつもの小窓を配置し、換気の役割も果たす。

土間を中心に生活スタイルを楽しむ家

埼玉県の東部に位置する春日部市。都心へのベッドタウンとして、30数年前に造成された閑静な住宅街に、父子と猫2匹が住むN邸があります。天井までのびる南向きの大開口が印象的なN邸には、緩衝領域として吹き抜けのある土間が広がっています。平屋づくりながら、ロフトと土間の多面性を利用したことから、変幻自在な住まい方が楽しめる心地よい住まいです。


老朽化した日当たりの悪い住まいから   「明るく開放的な住まい」が誕生

関東平野のほぼ中央に位置する春日部市の閑静な住宅街の一角に、施主のNさんと娘さん、そして猫2匹の住む家があります。約30年前に建売りで購入した木造2階建ての住まいは、床のきしみなど建物全体の老朽化に加え、近隣住宅の改築によって日当たりが悪くなっていました。
さらに、年月とともに家族構成も暮らし方も変わってきたことから、小さく仕切られた間取りも使いづらい状態に。そこでリフォームを視野に入れて知り合いの建築家に相談したところ、Nさん親子の希望する「明るくて広いリビングを持ち、小さく区切らない空間」を実現するには建て替えがベスト、という結論にいたりました。

玄関に置かれた下駄箱は造作家具。つまみ部分は、シルバー加工を得意とするジュエリーデザイナーの娘さんが手がけた。


 “ながら生活”ができる住宅を平屋づくりで提案

「明るく広いリビング」という希望以外には、「○○風」や「○○づくり」など、「イメージが固定された家は避けたい」という条件が娘さんから出され、あとは「建築家にお任せ」というスタンスでした。
そこで具体的な構成を決めるにあたり、Nさん親子の生活ぶり、暮らしの嗜好などを説明してもらうことに。その中で浮かび上がったのが、親子ともに「“ながら生活”が好き」、「ここは何々部屋と決められたくない」というフレキシブルな生活スタイル。コストとの兼ね合いもあり、最終的にはコンパクトな木造ロフト付き平屋という形に行き着きました。

土間東側より西側をのぞむ。箱型の四角いつくりで直線ラインが目立つ空間の中、ロフトへと続く階段の白いラインがアクセントに。


 大開口を持つシンプルなつくりは、 内も外も箱型がベースに

N邸のつくりは、いたってシンプル。正方形の敷地の北側半分に住まい、南側半分には庭と駐車場。箱型の住まいの内部は、北側に位置するキッチンとダイニング(座敷)を挟むように、個人スペースなどの生活機能を納めた最小限の「箱」を東西に2つ配置。南側は、吹き抜けのコンクリート土間へとつながります。
東西に置かれた「箱」は、寝る、着替える、収納といった最小限の機能を果たす個室で、上部をロフトとして使用。平屋とは言え、ロフト部分は天井高1m80cmを確保しています。
南向きに天井まで届く大開口をつくることで、以前の住まいとは見違えるような、採光豊かな空間を実現しています。土間レベルの動線部分と浴室には、ガス温水式床暖房を入れ、真冬でもコンクリート土間の冷え込みを解消。浴室は、「風呂に入りながらテレビが見たい」というNさんの要望に応え、リビングに置かれたテレビが見えるようにガラス張りとなっています。

ダイニング(座敷)に接する個室は、娘さんの寝室・収納スペース。
3畳ながら、壁面に造り付けの大収納があり、すっきりした空間に。左壁面の裏側が浴室。

東の「箱」に飛び出した浴室は、3面ガラス張りで、開放感バツグン。Nさんの希望どおり、入浴しながら土間のテレビを観ることができる。箱部分は娘さんの個室と、上部は収納用のロフト。


緩衝域としての「土間(DOMA)」が 使い方次第でフレキシブルに変化

Nさん親子の“ながら生活”を実現するために重要な役割を果たしているのが、玄関から奥までフラットに続いている、土間。娘さんが「仕事柄、大工作業もする」と話したことから、「半ガレージのような、土間的要素の場所」を建築家が提案したものです。
昔の日本家屋では、炊事や軽作業場、荷物置場としてさまざまな使われ方をした土間。その多様性をN邸でも取り入れ、あるときはキッチンの一部、あるときはリビング、ときには作業場というように、使い方次第で自在に変化する柔軟性のある空間が生まれました。
土間とダイニング(座敷)には、あえて40cmの段差を設けて小上がり風とし、間仕切りを使わずに空間を緩やかに区切っています。逆に、土間と庭の間には段差を設けず、視線の先に見える庭が、空間の広がりを感じさせます。

ソファ、テレビを片付ければ、作業場になる土間。元に戻せばリビングに。

さまざまな使われ方をする土間と、腰掛けやすいように40cmの高さの座敷に面した対面キッチン。


季節によって採光加減が変わる大開口 機能的に付けた扉がガラスの透明度を強調

N邸の中でもひときわ目を引くのが、南側に面する幅4m50cm×高さ4m80cmもの開口部。その大きさを強調しながらアクセントになる、4本のサッシを縦方向に入れています。
夏は小上がり(座敷)のスペースにまで強い日射しが入らず、冬場は日が低いために奥まで日差しが届くという緻密な計算です。開口上部にはシースルーのブラインドと遮光カーテンをロール式に取り付け、その日の天気や気分によって光の調節ができるようしています。
設計当初は採光重視で全面ガラス張りという案も出ましたが、庭へのアクセスの意味もあり、扉をつけることに。結果的にはこれにより、ガラス部分の透明度が上がるというメリットにつながりました。また、大開口ならではの「見せる防犯」の役目を果たしています。

土間と座敷部分の照明器具は、天井から何本も吊り下がっている電球。光源が直接目に入らないように半球が特殊コーティングされたタイプを採用。やわらかな光を放つ。


足元の床高、ベッド下、壁面など   あらゆる場所にたっぷりの収納を確保

延床面積の小さくなる平屋づくりの場合、心配されるのが、収納。N邸では建築家が平屋をプレゼンテーションした際、「収納スペースの多さ」がNさん親子を納得させた材料のひとつでした。
2つの個室のうち、西側の四畳半部屋は片面が1間分の収納。ベッド下も90cm角3つの収納になっており、東側の3畳部屋は、北側壁面をニッチ状にへこませ、全面収納に。ダイニング(座敷)の小上がりの床下はすべて大容量の引き出し式収納を確保。東側のロフト部分は、季節ものなどを納める収納部屋としてフルに活用されています。
大空間を存分に活かした収納スペースは平屋づくりの域を超え、暮らし始めて1年近くなる現在も、「不自由は感じていない」と言います。

大開口を背に、生活機能を集約した座敷部分の床下にも収納スペース。
吹き抜けの土間とフラットな床が大空間を感じさせる。

玄関入って正面に位置する四畳半。床下は引き出し式の収納。


 住まいとNさん親子の暮らし方を表す “DOMA”スタイル

N邸の設計テーマは、土間にちなみ、Divide(分割する)、Operate(操作する)、Material(素材)、Action(行動)の頭文字を取った「DOMA」。
土間部分と生活機能部分に分割し、土間により行動のつながりを操作、ハードな質感のコンクリート土間とソフトな質感の木という2大素材による空間の構成。そして行動のつながりと変化を生み出すN邸そのものが「DOMA」の意味するところです。

西の「箱」に飛び出したトイレは、乳白色のフィルム張り。玄関からの視界を遮る目隠しにもなっている。


可変性に富み、ライフスタイルの変化にも 対応できる柔軟なつくりに

「どうせ建てるなら、ありきたりではなく、新しい何かにチャレンジして欲しかった」と若手建築家に依頼した理由を語るNさん。現在ではあまりお目にかかれない土間ですが、「たたきの土間」ではなく、使い方によってさまざまに姿・形を変える可変性は、訪れる友人にも好評です。
今後、ライフスタイルが変わったとしても、間仕切り壁を増やすなど柔軟に対応できるつくりになっているのも、魅力のひとつです。将来まで見据えてつくられた機能的かつ可変性の高いN邸。Nさん親子は、その生活のしやすさにとても満足されています。

西側のロフトは娘さんの仕事部屋。ロフトとは言え、天井高1m80cmを確保。そのため、平屋ながらも建物高さが2階と同程度になり、建築確認申請は2階建てで許可が下りている。


■建築概要

所 在 地

埼玉県春日部市

設   計

白井亮+小林良+平山裕章
(ARCHITECT*MACHINE)

構造設計

坪井宏嗣(佐藤淳構造設計事務所)

施   工

大望建設

構   造

木造1階+ロフト

敷地面積

142.68m²

建築面積

61.91m²

延床面積

83.22m²

竣   工

2005年12月

工   期

約120日

工 事 費

1,750万円